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カカの天下  作者: ルシカ
705/917

カカの天下705「ぼすぼす」

 こんにちは、カカです。


 キーンコーンカーンコーンというチャイムと共に始まる授業は体育です。すでに体操着に着替えた私たちは、体育館で並んでいます。


「はぁー……」


「ねぇカカすけ。サエすけってば、まだ元気ないわよ」


「アレはダメ、コレはダメって結構しぼられたみたいだからね」


 昨日サカイさん宅でこんなやりとりがあったらしい。


『――というわけで、サエちゃんのことをちゃんと教育してください、サカイさん!』


『あらあらー、何を言うんですかトメさん。可愛くてエロい、これはもう最高じゃないですかーうふふふふ』


『本当に最高か?』


『どういう意味ですかー?』


『そりゃサカイさんが近くで見る分には最高かもしれないさ。でも、そう思うのが自分だけだとでも?』


『そりゃーサエのあの可愛さなら、目にした全ての人がメロメロのエロエロに――はっ!?』


『そう、現代においてそれはとてもアブナイ。ニュースをちゃんと見ていればわかるはず』


『わ、私ですら毎日サエを見るたびに監禁したくなるのに、もしどこぞの阿呆な犯罪者に可愛すぎるサエが見つかったら! 目をつけられる!!』


『そしてサエちゃんが、可愛いだけじゃなくてエロかったら?』


『日本だけじゃなく世界に狙われるー!? いいえ、宇宙の銀河系犯罪者にまで狙われてしまうレベルにぃー!! さらには異次元からサエのエロさを見るために魔王とかやってきちゃう!』


『そうなりたくなかったら』


『はい! 教育します! 幸いサエはよくわかってないみたいだからアレとコレとソレとオレのネタを禁止すれば間に合います!!』


『よくわかってない娘にどんだけエロネタ仕込んでたのか、とか『オレのネタ』ってのが気になるけど、まぁ、うん。がんばれ』


『はい! 近年稀に見るスパルタ方式で躾けてみせますー!!』


『お願いしますよ……ふぅ、これでよし。あれだけ必死なら間違いなくちゃんと教育してくれるだろう。いやぁ、キリヤと友達になってから僕の口車レベルも上がったなぁ』


 そんなわけで、皆さんご存知サカイさんの膨大な愛は見事に反転、とってもえぐいスパルタ教育となったらしく、甘え放題で大好きだったお母さんからソレを受けたサエちゃんは心身ともにヘロヘロなのであった。


「でも、何がそんなにエロかったのかしら?」


「よくわかんないけど、乳を揉むとかじゃない?」


「そっかー」


 牛乳は……関係ないよね? 身体にいいし。カルシウムあるし。


「おし、てめぇら! 準備運動始めっぞ!」


 前に出た学級委員長のイチョウさんの綺麗な動きに合わせて、皆仲良く柔軟運動。


 それが終わったらテンカ先生の号令の下、各自でマットを敷く。マットは厚さ五センチの体操マット。運ぶときはちょっと重い、二回くらいでんぐり返りしたらはみ出してしまいそうな白いやつだ。


「おし! 最初は好きに遊んでいいぞ。ただしマットを使うこと! 危ないことはすんなよ、怪我したらぶん殴るからな!」


 痛い目を見た上、さらに殴られる……そんな理不尽な恐怖に戦き、私たち生徒は怪我をしないよう素直に気をつけるのであった。


「カカすけ、何する?」


「んー、危ないことするなって言われたそばからバク宙するわけにもいかないしねぇ」


「サエすけは……あ」


 意気消沈したサエちゃんは、体育館の隅っこに敷かれたマットで一人でんぐり返りをしていた。


 小さく丸めた身体が器用にコロコロ回る。


 コロコロ。マットからはみ出た。コロコロ。まだ回る。コロコロコロコロ……ゴン。壁にぶつかった。ポテ。推進力を失った体は横に倒れた。


「さ、サエちゃん?」


 ぐでんと寝ていた体勢からむくりと半身を起こすサエちゃん。運動の邪魔にならないように後ろで一括りに縛った長い髪もめちゃくちゃ。蛇のマフラーみたいにサエちゃんの頭に絡みついている。


「……んしょ」


 サエちゃんの身体は方向転換。壁と水平に向く。


 そして徐に再びでんぐり返り、壁に沿ってコロコロと前へ前へ。


「だ、大丈夫かしらっ!?」


「頭が?」


「うん……うんっ!? いやそうじゃなくて!」


「壁にぶつけた頭、心配じゃないの? ゴンっていってたけど」


「あ、あー、そうね。それは心配ね、うん」


「でもなんだか楽しそうだし、大丈夫なんじゃないかな」


「楽しそう……かしら?」


 私は見た。むくりと身を起こしたときにサエちゃんがニヤーっと笑ったのを。運動が苦手なサエちゃんも前回りだけは得意らしいし、人間車が気に入ったんだろう。や、人間タイヤか人間ボールかな、どっちかというと。あ、壁際を進んでいたコロコロサエちゃんが体育館の角にぶつかった。またコケた。起き上がった。直角に方向転換してまたコロコロと……やっぱ楽しいんだ。


「ま、元気が出たならいいわっ! さぁカカすけ、わたしたちは何をするのっ!?」


「どうしよっかな。私はもう大体全部できるし……よし」


 ないなら作る。考える。それが私、笠原カカ。


 マットの端を両手でむんずと掴む。私の身長だと半分も持ち上がらず、残りは体育館の冷たい床と仲良くしたまま。別にいいやとそのままズリズリ引き摺って移動……そして。


「あん?」


「わっしょーい!!」


「ぐほぁ!!」


 気合一発、私が振り回したマットは斧もかくやという重量感と勢いをもってテンカ先生をなぎ払った!


 マットが辺りを埋め尽くしていたのが幸いした。吹っ飛ばされたテンカ先生はちょうど柔らかな生地へと着地したのだ。荒々しく、だけど。


「……なにしやがる、カカ!?」


「なにって、“マットを使って”運動しただけですけど」


「ほほぅ……」


 断っておくけど、別にテンカ先生に恨みがあるわけじゃない。


 子供という生き物は、特に理由もなく暴力的にじゃれたくなることがあるのだ。


「オレを挑発してんのか? 残念だったな、オレはこう見えて大人」


 構わずえい――ぼすっ!!


「……ガキのやることにいちいち目くじら立ててたらな」


 マットをぶんぶん、ばすん! ばすん!!


「ぐっ……教師なんざぐお……務まんねぇんぐっ……」


 ぼすばすべすばすぼすべぼんはぼんばぼん!!


「てんめぇ本当の意味でマットに沈めてやらぁぁぁぁぁぁ!!」


 あはははは、怒ったー!


「オラァ! 大人の腕力見せたらぁ!!」


「なにおー! こっちも日ごろの筋トレ成果を見ろー!!」


 テンカ先生も手近なマットを引っつかみ、豪快に振り回す! それを黙って見ている私じゃない。こちらも得物を握り直し、テンカ先生の攻撃を真正面から受ける!


 マット同士が激突。力は拮抗したのか、互いのマットはまるで剣を合わせたかのように跳ね返る。そう、私もテンカ先生もマットを文字通り剣のように使っているのだ。平たい部分ではなく、側面。厚さ五センチの刃で敵を討つ!


「おっらぁぁぁぁ!」


「てぃやああああ!」


 武器にしてはマットというものは大きすぎるため、五センチの刃を活かすにはなるべく床と水平に振り回すしかない。よって互いに横の斬撃、両者の武器はすれ違うことなく激突を繰り返す。


 とはいえ派手な音は鳴らない、いくら勢いよく振り回しても所詮はマット、聞こえる衝突音は鈍いものだけだ。しかしビリビリ腕に伝わるこの刺激、この重み――燃える!!


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「先生隙ありぃ!!」


「ぬぁ! はぁ……こんのガキ、なんつう体力してやがる!」


「伊達に鍛えてないんだよーだ! てい!」


「こ……っのぉ!!」


 これで終わりかと思ったのに、私のマットはあっさり弾かれた。予想外の反撃にマットを手放しそうになって焦る!


「うわぉあ!? て、テンカ先生だって軽々マット振り回してんじゃん! 鍛えてんの!?」


「んなわけあるか! オレの場合は単なる気合だ!」


「気合ってすごいね!」


「まぁな!!」


 いつの間にかクラスメイトがやんややんやいいぞーやれやれ的な視線で私たちを見ていた。ふふ……ここらで決着をつけるか、もう少し長引かせて皆を楽しませるか……


「君たち、何をしているのかね!」


 ……第三の選択肢かな、こりゃ。


「きょ、教頭!?」


 あちゃー、まずった。そんな顔をするテンカ先生。


「騒がしいから来てみれば……テンカ君、これはどういうことだ? 私の記憶が確かなら、体育の授業にこのような種目はなかったはずだが」


「記憶が確かじゃないんじゃねーの?」


「そんなはずはない」


 なら言うなよ。


「あーっと、そう! これはオレが考えた新しい体育の種目なんですよ!」


「ほほう。なんという種目だね?」


「マット相撲だ」


 どこに相撲あったっけ?


「ふむ、それによって得られるものは?」


「筋力、体力、破壊力だ!」


「ならよし」


 いいの!?


「特に破壊力というのが気に入った」


 ああ……デストロイヤー……


「では続けてくれたまえ」


「おう、さんきゅー!!」


 遠ざかっていく教頭へフランクに手を振りながら、テンカ先生はこっそり胸を撫でおろした。


「ふぃー、よかった。教頭がバカで」


「そんなこと言っていいの?」


「聞こえてなきゃいいんだよ。さ、続きやるか」


「おうよー。決着つけよ」


 私とテンカ先生がまたもやマットを握り直した、そのとき。


「ぶほぉ!?」


「んが!?」


 側頭部に重い衝撃。それがブーメランのようにぶん投げられたマットによるものだとわかったのは、倒れてしばらくしてからのことだった。


 そして間もなく、それを投げた人物も判明する。


「ふむ」


 私とテンカ先生を体育館の入り口から見事狙撃したのは、帰ったかと思われたデストロイヤー教頭!


「な、なにを……!」


「私も教師だ。テンカ君の新しい教え方に興味があってね、実践してみたのだが」


 テンカ先生の顔が歪む。マット狙撃で顔が潰れたわけじゃない、もっと『あちゃー』と思っているのだ。教頭がそれほど――や、微塵もバカじゃなかったから。全部わかっていたから。


「テンカ君、なにか言いたいことでも?」


「すんませんでした」


「よろしい」


 やっぱ教頭強いなぁ。今度ケンカを売ってみよう。もちろんこういう健全な形で。




「まったくもう、何やってるんだか……あ、サエすけ。回り終わったの?」


「う……う……うぇぇぇー」


「ちょっ! 大丈夫!?」


「ぎもぢわるぃぃぃぃー……」


「もー、コロコロコロコロ回りすぎるからよっ! ほら、保健室いくわよ。肩貸してあげるから……背中さすろうか?」


「うぇぇー、おぇぇー」


「ちょっと! 吐かないでよっ!?」


「はかない? なにをー? もしかしてパン――おぇぇぇ」


「はいはいっ! ボケるのは元気になってからっ!」


「うぅー……やっぱこういうの、もうやめる……ごめんなさいお母さん……おえぇぇ」




 突然私的なこと言いますが…

 今日から三日間、東京へ旅行に行ってきます。カカ天はちゃんと更新しますが、パソコン触れるか不明なので感想返信がすぐにできないかもしれませんがご了承ください(主にDさん宛て

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