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カカの天下  作者: ルシカ
704/917

カカの天下704「有言実行節分」

 トメです。


 今日は節分の日、そしてサユカちゃんとお出かけの日です。かと言って特別何かをするわけではありません。先日、サユカちゃんを怒らせた埋め合わせとして色々と奢ることになったのですが、指定された日がたまたま節分の日に重なっただけのことです。


 そう、特別なことは何もないはず。 


 なのに……


「こ、こんにちは、トメさんっ!」


「え、っと……」


 我が家にいらっしゃったお客様を出迎えたまま、玄関に立ち尽くす。


 わからない。なんでそんな格好をしているのかわからない。


 節分だから? いや待て、それなら鬼の格好をするはずだ。黄色と黒の縞々模様を使い、赤鬼やら青鬼やらアレンジした姿になるはずだ。それが……なんで白黒の、牛みたいな格好をしているんだろう。


「……モー」


 とりあえず挨拶してみた。


「モーッ!!」


 どうしよう、ズバッと元気よく手を上げて応えられてしまった。ほんとどうしよう。


「トメさん、モーッ!」


「モー?」


「モーモー」


「モー……」


 なるほど、カカたちの仕業か。え、いや会話したわけじゃないよ? こんなことするやつらなんか決まってるし。


「しっかし毎度毎度、そんな服どっから持ってくるんだ?」


 サユカちゃんが着ている牛衣装は、着ぐるみというよりは服に近い。オーバーオールの柔らかな白黒の布地はパジャマのようにだぶだぶで、ある一点さえ見なければとても可愛らしい格好だった。いつものポニーテールは頭の両端にお団子になって収まっていて、そこからにょきっと生えている小さな角も、これはこれで愛らしい。


「サカイさんが夜なべして作ってくれましたっ」


「あの人は……仕事しろよな」


「仕事もちゃんとしてるみたいですよ? だからすんごく寝不足なんだそうです」


「褒めればいいのか貶せばいいのか呆れればいいのかわからん人だな相変わらず」


「さぁ、いきましょうトメさんっ」


「……牧場に? それとも動物園か」


 人気者になること請け合いだが、そこまでの道のりがキツイぞ。主に隣を歩くであろう僕が。


「大体さ、サユカちゃんは恥ずかしくないわけ? そんな格好、いつもなら……」


 顔を真っ赤にして半狂乱に「ぶもぉぉぉぉぉぉぉっ!!」と叫ぶサユカちゃんが目に浮かぶ。うん、いつもならそんな感じなはず。


「え、だって……トメさん、こういう格好、好きなんですよね?」


「どこの誰だそんな不届きな噂を吹き込んだやつは!!」


「トメさんさえ喜んでくれるなら、わたしはこのくらい、へっちゃらです!」


「へっちゃらないで! 頼むから!」


 なんか変な言葉を創ってしまったが、ともかく! 天下の往来を牛少女と歩くわけにはいかない。なぜなら、なんか捕まりそうだから!


「ったく……ほら、そこの二人!!」


「うきゅ?」


「うきゃー」


 なぜか猿っぽい声を上げながら、僕が唐突に開いた靴箱の中からころんころんと出てきた二人。説明するまでもなくカカサエだ。


「ぬぅ……なぜ私たちがここに隠れているとバレた」


「絶対どこかで様子を見て楽しんでると思って周囲を探ってたら、物音が聞こえてな」


 それにしてもこの狭い靴箱によく二人も納まってたもんだ。さすが女子小学生、コンパクトサイズである。


「バレてしまっては仕方がないー、さぁさぁサユカちゃん。さっき説明した通りにするのだー」


 開き直ったサエちゃんは、サユカちゃんに何かを強要。ここにきてようやくサユカちゃんの頬に朱色が刺す。


「ほ、ほんとにやるのっ!?」


「当たり前だよー」


「そうしないと……ね?」


「わ、わかった」


 僕を置いて何やら会議する三人娘……お? 


「どしたのサユカちゃん」


 なんか近づいてきて、身をかがめて、そして――さっき牛パジャマの説明で書いた『ある一点を見なければ』の部分を僕に向かって突き出してきた。


 それすなわち、サユカちゃんの胸の位置にある、妙にリアルな牛の乳。


「搾ってくださいっ! もしくは揉んでくださいっ」


「できるかぁぁぁぁぁ!!」


「し、死ぬほど恥ずかしいですけど、その、こ、こうすればトメさんが元気になるってカカすけが!」


「どこの変態だ僕は!?」


「うちの変態」


「即答せんでくれるかい妹!?」


 もーめ、もーめ、しぼれーしぼれーと合唱する赤黒コンビ、うざすぎる。


「いいか? 僕は元気だ。だからそんなことしなくていいだろ?」


「そんなことは関係ないんですよー。これは出発の儀式ですから」


「さっきの『そうすれば元気になる』って説明どこいった!?」


「いいから搾るか揉むかしなよ。いつまで経っても出かけられないよ?」


「あのなぁ……そもそもこの格好のサユカちゃんを連れて出かけられるわけないだろ。他所の子供に恥ずかしい格好させて、それを連れ歩く普通の大人……逮捕されるぞ」


 されなくても周りの皆様から犯罪者扱い間違いなしだ。わかってくれ!


「そっか、それもそうだよね」


「わかってくれたか?」


「うん、はいこれ」


「何、これ」


「着てくださいなー」


 二分後。


 僕も牛の格好をしていた。


「なんでおとなしく着てるんだ僕は!?」


「着たかったんでしょ」


 ないないないない!


「これで二人とも牛スタイル。一緒に並んで歩いても違和感ないですねー」


 片方が変な目で見られる→両方変な目で見られる、になっただけじゃないか。


「さぁ二人しておっぱいを搾りあうがいい」


「もしくは揉み合うがいいー!」


「できるか!!」


「トメさん……わ、わたし、トメさんとならっ!」


 ああ、純粋っぽい好意が痛い……あと色んな意味で心が痛い……


「仕方ないなー。じゃ、登場だよー!」


 サエちゃんの号令を合図に、玄関からぬっと現れたのは!


「牛! 本物の!?」


「いざというときのために日本経済つれてきた」


「『いざ』ってどういう意味だったっけ……や、そんなことはどうでもいい。牛を普通に連れて歩くな! 連れて帰れ!」


「なんだとトメ兄! 牛に人権はないのか!?」


「ねぇよ牛なんだから!」


「日本経済だよ!?」


「名前的に人格すらねぇよ!」


「人でなし!」


「牛だって言ってんだろ!」


 ギャーギャー兄妹で騒いでいた、その隙に……当の日本経済は、てとてととサユカちゃんに近づいて、


「え、なにっ!? うわわわ!」


 子牛だったころでも思い出したのか、サユカちゃんの乳(服についてる牛の乳)をくわえ、ぐいん! と引っ張った。


 その勢いでバランスを崩し、「おっとっとっ!」とケンケンするサユカちゃん。そのまま言い合ってる僕とカカの方へ倒れこんできて――


『うああああ!!』


 三人そろって仲良く転倒。そして、どぴゅっと撒き散らされる白い液体。


「うえ、何これ……白い、ぬるぬるしたものが……トメ兄のここからも」


「牛乳? うあ、なにこの服の乳、搾ったら本当に牛乳出てくる!?」


 芸が細かすぎるぞサカイさん……何の嫌がらせだ……そして、


「ふむふむー、おっぱいでイヤーン、牛乳でビッショリ、どことなくネッチョリ……作戦通りだねー。あ、ビリビリ忘れてた」


 ビリビリと服を破けばいっかーなどと言いながら、僕らをパシャパシャとデジカメで撮りまくるサエちゃん……おい。


「サエちゃん、あのさ?」


「はいー? そうですよ、今回の服はですねー、皆さんが白い液体まみれで濃厚に絡み合う姿を撮るためだけにお母さんに作ってもらったのですよー」


 聞いてもいないのにベラベラ自供してくれる犯人。


「……なんのために?」


「カカちゃんがこの前言ってたんですよー。『たまには変わった節分がしたいな』って。だから考えてみましたー」


「節分……どこが? 鬼は?」


 ちょん、とサエちゃんが指差したのは、僕とサユカちゃんの頭上にある小さな角。これで、鬼、だと?


「……豆は」


「あははー、いやですねー。おっぱいの先にあるじゃないですかー」


 よし、サカイさんだな。サカイさんのせいに決まってる。甘やかしてばっかりいないできちんと教育しなさいと、保護者同士でじっくり話し合う必要がありそうだ。


「サエちゃん……私に似てきたよね」


「あははー。ついでに私の写真コレクションも増えて一石二鳥だよー」


「でも、なんで牛乳まみれに?」


「どうせ撮るならそうしなさいってお母さんが」


 問題だ。とても問題だ。


 こんなのが二人もいてたまるか。今から直談判しに行ってやる!




「あの……デート……」




 なんかエロい?

 いいえ、それはあなたの心が汚れているからそう見えるのです。

 澄んだ瞳で見てみなさい。

 やっぱエロいわ。


 というわけで、相も変わらず年齢に不相応なことをやってのける我らがサユカン、というかサエちゃんですが、今回ばかりは教育的指導が入ったご様子。そのあたりはまた今度。とりあえずサユカちゃんごめんな。


 さて、昨日ようやく感想を全部返信しました。とりあえず一言……溜めるのいくない!!


 あい、反省してこまめに返すことを心がけようと思います。


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