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カカの天下  作者: ルシカ
702/917

カカの天下702「三百メートル」

 こんにちは、カカでーす。


 ただいま学校のお昼休み時間。教室での話題はもっぱらコレ。


「ボンッ! キュッ! ボン!!」


 や、違った。コレ一部の男子だ。


「ねぇ、あんた誰にあげるのよ」


「あたし? そうね、教頭かな」


「ヤダァ、ライバルじゃん? 負けないわよ」


「あたし、テンカ先生にあげる……手作りで……」


「わ、メッセージとか入れるの?」


「う、うん」


「なんてなんて?」


「えとね、『私は前の席なんですけど先生の声が大きくてうるさいです』って」


「ケンカ売ってんじゃん」


 何の話題か、気が付いた? そう、バレンタインデーの話だよ! あと二週間もあるのにねぇ。でも恋する乙女にとっては一大イベント、渡す相手のために今から準備するのは当然のこと、なのかなぁ。


「私があげる相手は……サエちゃんでしょ、サユカンでしょ、おまけのトメ兄でしょ。お姉にもあげないとスネるだろうし、お母さんにはいつもどおり郵送するとして」


「カカ君!」


「なにさカゼダ」


「タケダだ! 風邪はおかげ様で治ったのだ!」


 そか。あんなんで本当に治るとは思わなかった。今度トメ兄が風邪ひいたときに使おう。


「で、何の用よ」


「む! そ、それはだな、その……ほら、もうすぐバレンタインじゃないか?」


「違うよ」


「嘘!?」


「嘘」


 あ、コケた。こんくらいでガクッとくるとは……何を必死になってるのかねこの子は。


「それで?」


「そ、そのな。バレンタインなんだが、チョコを」


「くれるの?」


「やるわけないだろう! バレンタインとは本来――」


「なんだ、くれないのか。ちぇ」


「……やる!!」


 やた♪


「こほん、その代わりと言ってはなんだが、ホワイトデーは期待してもいいのだろうな?」


「は? ホワイトデーは男がくれるもんでしょ普通。だからまたちょうだい」


「待て。それを言うならバレンタインデーは女がくれるものだろう」


「そんな決まりはない」


「ええええ!」


 傍若無人? お姉よりマシだよ。どんぐりの背比べ? うっさい。


「それはあんまりだろう! それでは単に、俺が君へ貢いでいるだけではないか!」


「嫌なら別にいいよ」


「微塵も嫌ではない!」


 そうなのかー。変なやつ。


「しかし! しかしだな! こういうイベントというものは古来からの形式に則ってやるべできであって――」


「わかったわかった。じゃ、くれたもんに見合った変なものあげるよ」


「へ、変なもの?」


「うん」


「え、っと……普通はお菓子とかじゃないのか?」


「私を誰だと思っている」


「……そうでした」


 普通なんてツマラナーイ。


「ま、まぁいい! 期待しているがいい! すごいチョコを用意してやるからな!」


「ん、じゃあすごい変なものを期待しててね」


「おう!!」


「三百メートル級のを期待しててね」


「おう!! ……おう?」


 んーむ、これはこれで楽しいかも。タケダと話すのもたまにはいいかもね。




 ――楽しそう(傍から見れば結構)な二人を、じーっと見つめる視線があった。


「どうしてんです、かのちゃん」


「いっちゃん……あれ」


「あら? あらあら? カカさんとタケダさんが話しているなんて珍しい。いつもはカカさん、タケダさんのことなんか道に落ちてる小石扱い、いえ『ちょっとでっかい石』扱いして通行の邪魔っぽく見てたはずでしたのに」


「なんかね、その、チョコが、どう、とか言ってた」


「カカさんが、タケダさんにチョコを?」


「それはない」


「同感ですわ。じゃあ、なぜ?」


「多分……あの、サユカちゃん、かも」


「ああ! そういえば、かのちゃん的に最近怪しいのでしたね」


「うん、その、サユカちゃんも恥ずかしがりやだから」


「さすがは町内一の恥ずかしがりや、お仲間がわかるのですね」


「ご、ご町内で一番……? じゃ、じゃあ何かちょうだい」


「……なぜ?」


「一番、だし。一等賞……」


 変な沈黙。


「ふ、ふふふ、かのちゃんの冗談にはまだまだ付いていけませんね、精進します」


「うぅ……町内ぃ」


「はいはい、別に町内が悪いわけじゃないでしょう。とにかくライバルがいるならこちらも負けていられません。こちらの想いの方が強い! とハッキリわかるような立派な」


「カレーを作る」


「そうそう、立派なカレーをってカレー!?」


「え、うん。チョコもカレーも同じようなものでしょ?」


「ど、どこがでしょう」


「市販の板チョコと市販のカレールー、そっくり」


「い、言われてみればそうですけどぉ」


「カレーにチョコを入れたらまろやかになるよ。だからチョコもカレーの仲間」


「でもチョコは甘いんですよ?」


「カレーにも甘口あるもん」


「で、でもそこまで見た目がそっくりなわけでは」


「三百メートル先に並べられたカレーとホットチョコレート、どっちがどっちか見分けつく?」


「……つかないと思います」


「だったらチョコはカレーの仲間」


「うぅ、反論したいけどなぜかできないです……かのちゃんたらカレーを語るときだけは口が回りますし……」


「よし、がんばろ」


「そうですね、この際想いが伝わればいいんです、やりましょう!」




 ――そして、そんな学校から三百メートル離れた病院の、とある病室でも。


「クララ情報です! もうすぐ街はチョコばっかになるです!」


「チョコ……えへへ、チョコ、チョコです」


「おお、タマもチョコ好きですか!?」


「チョコです!」


「好きなのか嫌いなのかわからない返事です!!」


「チョコです!」


「もういいです、クララもはしゃぐです! チョコです!」


「チョコです!」


 そんなはしゃぐ二人の子供を見つめる、優しい目。


「ああ、そうでしたね……もうバレンタインです、か」


 ブロンドの髪をかきあげる彼女はベッドから半身を起こした状態のまま、憂いを帯びた視線で窓の外を見下ろした。


「どうしたんですか! おねーさん!」


「チョコです!」


「おねーさんもやりましょう! チョコです!」


「ワタシも? ふふ……はいはい、チョコです」


「チョコです!」


「チョコです!」


「クララです!」


「タマです!」


「ジジイです!!」


 ノリで始まった自己紹介に、いなかったはずの四人目のしゃがれた声が続いた。


「あら、サワサカのおじいさん。いつの間に」


「ジジイも一緒に叫ぶです!」


「叫ぶのです!」


「よしきた」


 せーの、


『ジジイです!』


「ねぇ、あなたたち……全員ジジイなの?」


 どこもかしこも、バレンタインを楽しみにしています。


 そう。どこも、かしこも。




 あと二週間でバレンタインですね。


 今年はそこまでドタバタはしない様子……でもちょこちょこと動きがありそうな予感。チョコだけに。

 ええすいませんすいません出来心ですオヤジギャグですホントごめんなさい。三百メートル級に反省します。


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