カカの天下70「がんばれタケダ、たち」
「ただい……ま?」
トメです。お仕事で疲れて家に帰ってきたとですたい。
あんれまーそいだら知らん顔がおるやないけ。
あ、すいません。なんか驚きのあまり、どこかの方言になってしまいました。
だって驚いても仕方ないと思う。
知らない男子が三人も居間に居座っていたら。
お、一人知ってる顔がいた。
「タケダ君じゃないか」
「お邪魔してます、おにいさ」
「貴様にお兄さんなどと呼ばれる筋合いはない!!」
「ぐぼぁ!!」
おっと、いけないいけない。我が家の女性陣のごとくヤクザキックをしてしまうところだった。
「うう……ごめんなさい」
なぜかタケダ君は顔を抑えているけど気のせいだろう。無意識に蹴ってしまったなんてそんな野蛮なことはないぞ、うん。
「で、そこの二人は?」
「僕の弟子です」
「ど、どうもお邪魔してます……」
「は、初めまして。僕は、あの」
「あ、ずるい。あのですね僕の名前は」
なんだか競い合うように自己紹介された。
でも覚えるのも面倒なので部下Aと部下Bって覚えておこう。
「で、タケダ君とAとBは何でここにいるんだ?」
「え、あの、お兄さ」
「だからそう呼ぶなと」
「ぐっほぁ!! す、すみません……」
なぜか顔を抑えている部下Aは放っておいて、タケダ君に説明を求めると……
「私が呼んだの」
奥の部屋から部屋着に着替えたらしい我が妹、カカがやってきた。
「なんかね、会議するんだって」
「会議って……なんの」
「はいっ、それはですね!」
意気込み勇んで説明を始める部下B。その話によると、どうやら『小学校の中にあるイジメを防止するにはどうすればいいか』を討論するため、カカの家にお邪魔することになったそうだ。
なぜカカの家かというと……
「学校で一番強いからです」
だ、そうだ。すげーなカカ。
「ふぅん……まぁいいや。話し合うならちゃっちゃとやりな」
「トメ兄、なんか不機嫌じゃない?」
「気のせいだ」
そこの読者、シスコンとか呼ぶなよ?
「じゃ、話し合おうか」
「はい。じゃあまず、今あるイジメをどうするか、ですが!」
「とりあえず全員ぶん殴ってやめさせる」
「…………」
あれ、終わり?
「じゃ、じゃあ、苛められていた子が、もう苛められないようにするには」
「身体、鍛えさせればいいじゃん」
しゅーりょー。
「はい、帰った帰った」
「ま、待ってくださいおに――ぐぃはぁ!!」
ん、今度の悲鳴は僕のせいじゃないぞ。
「よ、なんだか客がいっぱいいるね」
「その客を足蹴にしながら挨拶すんな、姉」
前触れもなく家に侵入してきた傍若無人は、男子三人を見渡して……不機嫌そうに目を細めた。
どうやら気づいたらしい。
まぁ誰にでもわかるだろうが。
この三人は三人とも、カカ狙いでこの家にきた。議論は単なる口実だ。
「ちょっと聞こえたんだけど、あんたらイジメっ子をどうにかしたいんだって?」
「は、はい」
「じゃあ話は簡単だ。あんたらが強くなってやめさせればいい」
「え、えっと……」
「カカがいつもやってるトレーニングをあんたらもするの。まさか、女子にできることをできない、なんて情けないこと言うつもりはないだろうね?」
『ま、まさか!!』
三人はハモって即答した。そりゃ好きな女の子の前で情けない姿は見せられないもんな。
「じゃあまず、腕立て10回」
ほっと胸を撫で下ろす三人。思いのほか簡単で安心したらしい。
「私もやる?」
「カカはいいよ、毎日やってるでしょ」
「うん」
マジか。
「じゃ、はじめ」
言われた通り腕立て伏せを10回こなし、三人は姉のほうを見た。
「終わりました、が聞こえない。腕立て10回」
「え、ま、また?」
「腕立て10回!」
姉の大声にビクリと震え、再び腕立てを始める男子三人。
『終わりました』
「終わりました、の声が小さい。腕立て10回」
『――終りました!!』
「終りましたの声が可愛くない。腕立て10回」
『――終わりました♪』
「きもい。腕立て10回」
数分後、三人は疲れのせいか気落ちのせいか、肩を落としまくって帰っていった。
「ふん、カカは一生嫁にやんないからね」
過保護だよなぁ、お互い。
しかし、もしも嫁じゃなくてサエちゃんの婿だったら……いや、このことは考えるのやめよ。