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カカの天下  作者: ルシカ
694/917

カカの天下694「なめるな 前編」

 こんにちは、トメです。


 今日はサユカちゃんと喫茶店でお茶してます。『新しいお店見つけたんですっ、和風な感じなんですけど行きませんかっ! まっちょ』というメールをもらったので一緒した次第です。


 最後の『まっちょ』は『かしこ』と同じような意味のようです。話を聞いてみると『それが流行りなんだよー』とサエちゃんに言われたらしい。何を流行らす気だサエちゃん。マッチョご飯か。マジ勘弁してくれ。


「それでですねー、二人はもう未来確定っ! って感じなんですよぅ」


「へー、ニシカワ君とアヤちゃんねぇ。わかるかも」


 直接喋ったことはあまりないけど、顔は浮かぶ。確かに二人並んでいることが多かった気がする。


「ニシカワ君はのほほんとしてて、わかってるんだかわかってないんだかわからないんですけどっ、アヤちゃんがもー、丸わかりでっ! 何かと一緒にいようとしてて、そこまでするならもう告白しちゃえばいいのにって感じなんですけど、でもやっぱり一緒にいるだけで幸せみたいで満足しちゃうんですよ満足しちゃうんですよ満足しちゃうんですよっ!!」


 サユカちゃんは頬を赤くしながらバンバンとテーブルをたたいて「キャー♪」とはしゃいでいる。よっぽどそのときのアヤちゃんの様子がもどかしいのだろう。なにせ三回言うくらいだ。マシンガントークにもキレがある。


「わかるわかる」


「幼馴染って難しいって言いますけど、本当ですよねですよねですよね」


「わかるわかる」 


 でも三回も言わなくてもいいぞ。


「でもですねっ、気持ちはわからなくもないんですよぅ。わたしも、その、とと、ととととトメさんと一緒にいられるだけで、満足、しちゃい、ます、し」


 徐々に尻すぼみになっていく言葉……その最後に「告白は、しちゃいましたけど」と小さく聞こえる。


 わかるわかる、とは言えなかった。


 でも、軽く流すこともできなかった。


「……あれ」


 何か、思い出して。


「おかしいな」


 誰にも聞こえない声で独りごちる。


 サユカちゃんに告白されてから、一緒にいることがたくさんあった。もっと仲良く――ただそれだけを望んでくれた気持ちに応えるように。


 ちょっと気恥ずかしいし後ろめたいこともあったけど、自然に。


 だからこんな言葉も「照れるな……はは」と、それだけで終わりのはずだった。


「――ねぇ、サユカちゃん」


「はいっ!」


 なのに。


 弾けるような笑顔の彼女に。


「サユカちゃんは、同級生とかで好きな男子っていないの?」


 こんなことを聞いてしまった。


「なんですかそれ」


 サユカちゃんの表情は固まっていた。


 たった今、返事をした笑顔のままで、小首を傾げる。


「や、その、さ。サユカちゃんには好きって言ってもらったものの……それは僕が大人だから、“そう”見えた部分も多いと思うんだよね。でもほら、普通だと、そのニシカワ君やアヤちゃんみたいに、近い歳の子を好きになるんじゃないかなぁと」


 その顔を見て、なんだか悪いことをしてしまった気がして、慌てて言い繕う。


「これだけ長い間、一緒にいたらさ、よくわかったと思うんだよ。僕は大人ってだけで、そんな誰かに好かれるような立派な人間じゃないしさ。自分でそう思うんだ。だからさ、もしかしたらサユカちゃんも、そろそろ気づいたんじゃないかなって。僕が本当に好きなのかどうか――」


「なんですかそれ」


 言葉を止められた、その静かに繰り返された一言で。


「本当に、好きなのか、どうか……? なんですかそれ、なんですかそれ、なんですかそれっ!」


 また、繰り返して――


「わたしがトメさんが好きじゃない? こんなに……こんなに好きなのに」


「や、だからそれは」


「勘違いだって言いたいんですかっ!? そんなわけないですっ。だってわたし、本当はカカすけが羨ましいんですよ? いつもトメさんと一緒にいられていいなぁってずっと思ってて、たまに憎らしくなるぐらいにっ!! サエすけみたいに腹黒くなって無理やり一緒になったらとか、いっそ夜這いかけてやろうかなんて思うくらいに、こんなにっ、こんなにっ!」


「……僕は、わからないんだ。だって僕は、そんなに想ってもらうような男じゃない」


「そんなことありませんっ! トメさんは大人で、優しくて、温かくて」


「大人じゃなかったら? 優しくしなかったら? そうやって上っ面を繕っているだけで、本当の僕はすごく冷たかったとしたら!」


「それでも好きなんですっ!! 恋をなめないでくださいっ!!」


 息まで切らして怒鳴りあった僕たちは、しばらく睨みあって……


「……帰ります。お金、ここに置いておきますっ」


 僕が払う、と言う暇もなく。サユカちゃんは帰っていった。


 顔を真っ赤にしながら。泣いていた? それは見えなかったからわからない。というか、僕は何してんだ? 子供相手に。


「はぁ……」


 ため息が出る。何してる、大人だろう僕は。なんでこんなガキみたいにムキになってんだ。


「ああ」


 そうだ、答えはわかりきってる。記憶の奥底にあった、あの言葉を耳にして、嫌な昔を思い出して、勝手に逆上しただけのこと。


「いつまで引き摺ってんだ……ほんとに」


 会計を済ませ、フラフラと外へ出る。サユカちゃんに謝らないと。でも、どう言おう。


「恋をなめるな……か。そこまで一緒のこと言うんだもんな」


 凹むわ……と、落としていた肩をポンと叩かれた。


 まさかサユカちゃん? 僕は振り向き、予想と違っていてホッとした。まだ謝る言葉を考えてない。


「トーメさん! どうしたんですか、そんなナメクジみたいな顔して。ナメさんって呼んじゃいますよ?」


 日ごろのお返しに! と明るく笑うのはサラさん。


「うん……僕はどうせナメさんだよ」


「あれま、本当に落ち込んでるんですね。どしたんです? 悩みがあるなら聞きますよ」


 人に相談するようなことでもない気がしたけど、このときの僕は弱っていた。くよくよしていた。大人だってそういうときもある。だからフッと聞いてしまった。


「サラさんさ……僕のことデートに誘ってくれてたとき、あったよね?」


「あ、あは、あははー。ありましたね、そんなことも。別に今からでもオッケーですよ?」


「なんで、そう思ったの?」


 こんな僕なんかに……そんな意図が伝わったのか、サラさんは少しだけ真面目な顔をして、


「一目惚れ、ですよ。この人、好きだなぁって、想ったんです。それが恋愛なのか、仲良くなれそうな人を見つけただけなのか、今となってはよくわかんないですけど」


「一目惚れ……僕のことを何も知らないのに?」


「はい。カンです」


「カンって、そんな曖昧なもので」


 僕の言葉が遺憾だったのか、サラさんはむすっと頬を膨らませた。


「なんですかトメさん。私のカンがどれだけすごいか知らないくせに」


「そうは言ってもさ……」


「トメさんは直感で行動するタイプじゃないですもんね。カカちゃんとは正反対。でもほら、見てください! トメさんと私はこんなに仲良くなれた。これこそ私のカンが正しかった証拠!」


「それって結果論だろ」


「いいじゃないですか、結果よければ」


「でも、僕みたいな何もできない、つまんない男をさ」


 ……なに、サラさん。なんで笑ってるの。


「そうですかぁ、トメさんって自分をそんな風に思ってるんですねぇ」


「悪かったね、期待に沿えなくて」


「いえいえ、“そこ”がいいんですよ」


 は? なにそれ。


「つまり、トメさんのいいところっていうのは――」


「おーいサラちゃん! これ手伝ってー!」


 嫌がらせのようにちょうどいいところで遮ってきた声は姉のもの。


「いけない! 仕事中なんでした、トメさんごめんなさい!」


「あ、ちょっと!」


 パン! と拝むように手を合わせて謝ると、たったかたーと行ってしまう!


「せめてその続きだけでも言ってくれよ!」


「私の目に狂いはないってことです! 私をなめるなってことでーす!!」


 妙にキラキラした瞳でそう言って、サラさんは花屋の中へと入ってしまった。


「なんだよ、この煮え切らない感じは」


 また、なめるなって、言われたし……


「あん? トメじゃねぇか。どうした、シケた面しやがって」


 で、もっと「なめるな」って言葉が似合いそうなヤツが出てくるし……


「ま、いい。暇なら飲もうぜ? おら、どうした。このテンカ様の誘いを断る気か」


 占いは見てないが間違いない、今日は女難の日だ。




 昨日の実話。


「ふんふんふーん♪ 今日は休みだ! ちょっと余裕こいてカカ天は後で書こーっと。何しよっかな、何読もっかなー」

 こうして色々楽しんでる最中、鳴ったは携帯着信音。

 ちなみに曲名はオーエンはなんたら。

「はいもしもし。なんですか?」

「遅刻じゃないか?」

「へ? 今日は休み――」

「休みは明日」

 チーン。


 というわけで、私の勘違いによって更新する暇どころか書く暇ももちろんなく。一日空けての更新となってしまいました。

 それもあって、ちょいと気合入れて踏み込んだ話となっております。コメディ分は小さくなりますが、後編終わったらちゃんと増量するつもりなのでご心配なく。


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