カカの天下690「クララandタマ 2」
こんにちは、クララです!
今日は花咲かクララになって遊んでいたのですが、ひょんなことからタマを家まで送り届けることになりました!
「ひょん!」
「ひょんです!」
「クララ、ひょんです!」
「たまも、ひょんです!」
なんだか知らないけどテンションは最高潮!
この勢いでタマのおうちまでシュバッとひとっ飛び!
「……ひょん?」
の、はずだったのですが。移動をミスって変なところに出ちゃいました。きっと冬眠ボケです!
鼻にツーンとくる独特な匂い、どこかで嗅いだことがあるような……そうそう、消毒液とかいうやつです。学校の保健室に潜り込んだときに覚えました!
「ええと次は――おお、いつの間に次の患者さんが来てたんだ?」
白い、白い部屋。なんだか色んな紙が張り付けまくられた壁、一人用のベッド、よくわからない機械、デスク、それに乗ったパソコン、そして白い服のおっちゃん。
「まったくナースどもめ、ちゃんと呼べよなぁ。まぁいいや」
そう、たしか……お医者さんとかいうやつです!!
「お嬢ちゃん、どこが悪いのかな?」
「おまえが悪いです!!」
「なんですとぉ!?」
はっ! 動揺のあまり反射的に答えてしまいました!!
「くらら! おいしゃさんってこわいんです!」
「そうなのですか!?」
「はい! ちゅーしゃとかするんです。あとちゅーしゃとか、えっと、ちゅーとか」
「チュー!? こんな小さな子に……医者とはなんて恐ろしい人なのでしょう!!」
いけいけな子供、じゃなかった。いやそれも合ってますけど。いたいけな子供をこんなところに連れてきてしまったのはクララの責任です! 一刻も早くタマを逃がさなければ!
「ひょぉぉぉん!!」
「ひょぉぉぉんです!!」
とりあえず威嚇の声をあげるです!
……大人の前で急に消えるわけにはいきません、そういう決まりなのです。ならば普通に歩いて走ってタマの家まで行くしか!
「うーん、面白い子たちだなぁ。パパやママはいないのかな?」
よし、今です!
「タマ、逃げるです」
「あい!」
「わ、こら」
隙をついて医者の脇をすり抜け、扉の向こうへダッシュです!
「――タケダ先生? どうしました、次の患者さんが入りまきゃああ!」
「あー、やっぱり患者さんじゃなかったのか」
悲鳴と呑気な声を背にして二人、手を繋いでダッシュダッシュ! 外を目指します!
「お?」
走っていた廊下の角からいきなり現れたのはまたもや白衣!
「うわぁ! 医者ですぅ」
クララ悲鳴をあげつつタマの手を握りなおし、別方向へダッシュダッシュ!
「きゃっ」
するとまたもや立ちふさがった白衣!
「うわぁ! ナースですぅ!」
クララ悲鳴をあげつつタマの手を握りなおし、別方向へダッシュダッシュ!
そして三度立ちふさがった白衣!
クララが何度も声をあげていたのが羨ましかったのか、今度はタマが叫びました。
「わ! ブスです!!」
「んだとゴルァァァァァァァ!!」
きゃああああ! ブスのお姉さんが襲ってくるですぅ! なんて不細工で恐ろしい顔でしょう! きっと喰われます! 喰われて噛まれてクララたちの顔もあんな風にぐちゃぐちゃにされてしまいます!
「あ、タマ! こっちです!」
「はひ!?」
廊下を曲がった直後、タマの身体ごと繋いだ片手で振り回すような勢いでぐりんと方向転換。目に付いた部屋を開けて慌てて飛び込みます!
「ふー……」
「はぁ、はぁ、です、はぁ」
扉を背にして二人して息を整えます……この部屋に入るのは見られなかったはず。なんとか撒いた、ですかね?
「あらまぁ、賑やかなお客さんだこと」
「ほっほっほ……子供は元気があってこそじゃ」
ビクッと顔をあげます。
咄嗟に入りましたけど、ここは、病室?
「あら、それは元気がないワタシへのあてつけかしら?」
「どうかのぅ、ほっほっほ」
白い部屋。さっきよりも何倍も白い部屋。
その中にいたのは、ベッドに座る白髪のおじいさんと、
「ねぇ、可愛いお客さんたち」
ベッドに半身を寝かせた、ウェーブがかった明るいブロンドの髪が似合う、まるで人形みたいに綺麗な女の人でした。
「逃げるなら、すぐそこから逃げられるわよ。でもその前に少しだけ……ワタシとお話してくださらない?」
その後。クララとタマは、そのお姉さんとお爺さんと、少しだけ会話しました。
なんでもないようなことを話しました。お名前は? 何をして遊んでいたの? とか。
ブスと追いかけっこしてました、と言ったときに「あの人ね」「あのナースじゃのう」と意地悪に笑っていたのが、なんだか印象的でした。
まさかの続編!
冬眠ボケ、という言葉を同僚が使ったのをきっかけに思いついたこの話。子供の天敵、病院(本物)! そこで出会った謎の美少女とは……!!
などと宣伝したものの。
この話のキーワードは「ひょん」と「ブス」だと思います。




