カカの天下69「カカの幸せ」
「幸せってなんだろう」
「お子様がなんだ、いきなり」
こんにちは、トメです。
相も変わらず唐突なことを言いだす妹カカに、僕は呆れきってため息をつきました。
「おまえなぁ、もう少し子供っぽい話題ないわけ?」
「子供でも人間なんだから、こういうことをちゃんと考えるべきだよ」
「……おい」
マジで子供っぽくない、と思ったら。
「って、先生が言ってた」
そうか先生か。よかった安心した。その歳で何をそんな黄昏れることがあったのかと心配したじゃないか。
ん? 待て。そんなことを言い出す先生のほうが黄昏れてるのか? 直接僕には関係ないからどうでもいいけど。
「でさ、幸せってなんだと思う?」
「うーん……そうだなぁ」
「やっぱトメ兄のことだから、いい女集めてハーレムでうっはうっはのばいんばいん?」
「とりあえずカカの発言がまともになってくれれば幸せかなぁ」
今どきばいんばいんってなんじゃい。
「じゃ、姉を12人くらい集めて」
「まてやっ!! 言いたいネタはわかるがあんな姉が12人もいたら世界が滅びるぞ」
「大げさだなぁ。せいぜいご近所くらいしか滅びないよ」
「充分に脅威だ!!」
「仕方ないなぁ。じゃあ普通に妹を12……」
「そのネタから離れろ! つうか一人でも頭が痛いってのにそんなのが12倍になったら」
「痛いのもだんだん慣れて気持ちよくなる?」
「なるかっ。廃人になるだけだ!」
ほんっとこの妹の口にすることは危ない言葉が満載だ、原因はなんだろう。いたって普通に教育してるつもりなんだけど。
とは言いつつ原因はわかってる。12人集まって変形合体すればご近所を滅ぼせる人害兵器、姉だ。
「でさ、結局トメ兄の幸せってなんなのさ」
「そういうお前の幸せは何なんだよ」
「結婚すること」
おお……意外とまともだ。
「サエちゃんと」
まともじゃねぇ!!
「おい、本気で言ってないよな?」
「本気だよ。好きな人と一緒になって何が悪いの」
「……サエちゃんには言ったか?」
「そんな恥ずかしいこと、簡単に言えるわけないでしょ」
そか、よかった。
いや、しかし、そうかぁ。そんな世界かぁ。
まぁ、まだ小さいし、いいのか、なぁ、そんな、考えも。
うん、なんか恐いから、この話はスルーにしておこう。
「で、トメ兄の幸せは?」
「んー……結婚、かなぁ」
「お! なに、相手いるの?」
「や、そうじゃなくて」
僕は自分自身に苦笑しながら言った。甘いなぁ僕も。
「カカと姉が結婚したらさ」
「私と姉が!? こわ!」
「ちゃうわ。カカと姉が、ちゃんとした人と結婚したら、たぶん兄冥利、弟冥利につきるくらい幸せかなぁ、なんて」
「ふむふむ、手のかかる姉が出て行けば楽になって幸せだってことだね」
「そうともいう」
否定はしない。しかしそれはお前にも言えることだぞカカ。
「……トメ兄、ありがとう」
「ん? あ、ああ」
や、兄としては妹の幸せを願うのも当然ということで……
「私とサエちゃんのことを認めてくれて嬉しいよ」
「は?」
「サエちゃんは必ず私が幸せにしますっ!」
ぺこり、と頭を下げて、カカは去っていった。
僕は固まってしまって何もツッコめず、その後ろ姿を見送ることしかできなかった。
えと、マジでそっちの世界いくのか、カカ?