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カカの天下  作者: ルシカ
688/917

カカの天下688「減速注意」

 カカです。


 昨夜に雨混じりの雪が降りまくり、『ごっつい水たまり』っぽいものが道路のそこかしこにできてしまいました。そう、半分は雪だから流れ切らず、そして半分が水だから簡単に弾け飛ぶ『ごっつい水たまり』が。


「おっと」


 いまだ薄らと降り続ける雪を受け止めるために上へ向けていた傘を足元へ、そして間もなく傍を車が通り――バシャアアアン! 極太ホースでぶっ放したかと思うほどの水量が襲い掛かってきた。斜め下へ向けていた傘はしっかり私の足をガード。しかし私の近くを歩いていた人たちは、なす術もなく冷水の弾丸に撃ち抜かれていた。


 走行中の車のタイヤ。それは『ごっつい水たまり』に突進するたび、歩道にいる罪もない人々に水をぶっかける。とてつもなくハタ迷惑な話だ。


 今日は、私の周りの人がそんな迷惑な水たまりにどうやって対処するかを紹介しよう。




 サユカンの場合。


「む。あそこ辺りの歩道にある雪、水浸しで柔らかくなってるわねっ! つまりは車が通ると水がかかる場所ということ……気をつけないと」


 車が通らないときにそこを歩いて見事にスルー。


 普通、つまらん。




 サエちゃんの場合。


「ふふ……お母さんの手編みのマフラー……ぬくぬくー」


 ニコニコ顔で歩いていたサエちゃん。


 そこへ車があげた水しぶきが襲い掛かる!!


 バシャアアアアアアアアアアアアアン!!


 ニコニコしていたはずのサエちゃんは、ずぶ濡れになってしまった。


 お母さんが縫ってくれたマフラーと一緒に。


「……ふぇ」


 立ち尽くす。


 涙が出る。


 そして再び車が通り――その場から動いていなかったサエちゃんはまたもや水を浴びてしまった。


「……ふえぇ」 


 冷たい、寒い、でもそんなことより、お母さんのマフラーが濡れてしまったのが悲しくて。


「……ぅう、えぐ」


 泣きながら、下が雪なのも構わず座り込んでしまって、


「……ぅぅー……うぅー」


 泣いて、車が通って、水がかかって、また泣いて、でも車が通って通って次々に水をかけてかけてかけて――


 やがて。


「大丈夫!? ねぇ君!」「ごめんよ! 本当にごめん!」「お願いだから泣き止んでよぅ」「くそぅ、俺の前を走っていたやつはどこいきやがった!?」「ナンバーは覚えてるか!」「おうよ!」「よし、草の根分けても見つけてやる!」「俺も協力するぞ、それがこの子を泣かしてしまった贖罪だ!!」「ていうかホントすいません!!」


 その悲惨な姿に心を痛められまくった運転手たちが次々と土下座しにきて列を作る。そして口々に上記のことを叫びながらサエちゃんに謝罪の言葉と金とブツを捧げることになるのだった。


 恐るべし腹黒。


「くすん……まふらぁー……」


 あ、ごめん。


 なんか素だったみたい。


 つまりは天然でこれか。魔性の女だ……


 ていうかサエちゃんになんてことしやがるコイツら。ブットバス。



 

 お姉の場合。


「かっとばせー、ば、ば、あ!」


 妙な鼻唄を響かせながら歩くお姉を襲う、車の水攻撃!


 人間離れした運動神経、反射神経を持つお姉だけど、気を抜いているときは案外マヌケだったりする。そんなわけで、


「おわ冷た!」


 簡単に水を浴びることになってしまった。


「こんの……待ちやがれ!!」


 お姉はさしていた傘を窄めた後、槍投げ選手のごとく勢いでそれを遠投した。


 槍――いや、矢と化した傘は寸分狂うことなく水をぶっかけた車の後部にブッ刺さる。しかし車は止まらない。気づいていないのかもしれない。でもお姉はそれで満足した。空いた穴の修理はさぞかしお金がかかるだろう。そんな報復ができただけで充分なのだ。


 バシャアアアアアアン!!


 偉そうに踏ん反り返っていたお姉を再び襲う水衝撃波。サエちゃんと同じく、そこから動いていなかったせいだ。


「っの!!」


 お姉は足元に落ちていた小石を蹴った。その周囲に積もっていた雪が破裂したように吹っ飛ぶ中、どこまでも真っ直ぐ飛び出したのは一つの弾丸と化した石。


 それは不届きな車へと突き刺さり、後部のアレやコレやを破壊した。


 バッシャ――


「ふん!!」


 三度お姉に水をかけようとした車が通る瞬間に放たれたお姉の蹴り。それは槍や矢や弾丸よりも鋭く車の横部に突き刺さり、吹っ飛ばした。


 浮き、揺れ、蛇行しながらもなんとかブレーキに成功した車の運転手は……お姉を見た。


 鬼と化したお姉を。


 開口一番「あけましておめでとう!!」などと言いながら凄惨な笑みを浮かべているそのバケモノを。


 その後、運転手がどうなったかは知らない。


 ただ、サエちゃんのことがあったときに誰かが立てた『水たまりがある場合、歩行者に注意しながら減速して走りましょう』という看板に、こっそりと『命が惜しくば』と書かれた、とだけ記しておく。




 え、私の対処法?


 さっきみたいに傘で防ぐんだよ。


 もしくは……


「昨日も冷えたけど、今日も冷える……きっとまたあんな道になってるんだろうな。あーやだやだ」


 翌日の朝、コタツで愚痴る私。


 もっと簡単な対処法。それは家から出ないこと。


「トメ兄、お茶」


「や、学校行けよ」




 昨日、雪が降りまくりました。一日でいい感じに積もってます。

 そして今日。水をぶっ掛けられました。

 だから書いた。反省も後悔もしていない。

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