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カカの天下  作者: ルシカ
685/917

カカの天下685「お見舞いだってよ、がんばれタケダ」

 やぁ諸君、あけましておめでとう。タケダだ。


 クリスマスに風邪をひいて以来、治りかけてはぶり返し、また治りかけてはぶり返しを繰り返し、新学期が始まった今になっても布団から離れられない状況だ。


 まったく自分が情けない、しかし馬鹿は風邪をひかないという、さらに夏風邪は馬鹿しかひかないともいう。冬にこんな大風邪をひくとは、やはり俺は天才なのだろう。わっはっは――っくしゅ!


「ぬぅ……そんなことを言いながら風邪で死にでもすれば本末転倒もいいところだ。早く治さねば……」


 そう、治さねばカカ君の顔を見ることができない。


 好きな女の子に会えない、男子にとってこれほど辛いことはないのだ。


「ああ……カカ君」


「なに」


「うわおえぇあ!?」


 風邪のせいで吐いたわけではない、ビックリしたのだ。


 なぜなら、なぜならなぜなら! 俺の部屋の入り口に、いつの間にかカカ君が立っていたのだから!!


「か、カカ君? なぜ」


「ん。見舞いにきた」


「……なぜ」


 俺はもう一度問いかけた。だっておかしい。俺の明晰な頭脳の計算によると、今までの関係上でカカ君がお見舞いに来てくれるほど俺のことを考えている可能性は限りなくゼロに近い。むしろ名前すら覚えているかもあやしい。


 それなのに、わざわざ、見舞いに?


「んー、なんとなく? ほれ、差し入れ」


 しかも、リンゴという定番のアイテムまで!?


「剥いたげよっか。台所から適当に皿持ってきたし。あ、ごめんね勝手に」


「い、いや……いいのか?」


「そんくらい別に」


 すたすたと物怖じすることなく俺の部屋に入ってきたカカ君は、俺の寝ているベッドの横に座す。膝の上に皿を乗せ、ナイフを取り出してリンゴを剥き始めた。


「おお、うまいものだ……が、そのナイフは?」


「護身用」


「き、君は、なんというか、さすがだ」


 そこが好きだ。


「え?」


 ……え?


「タケダ、いま、なんて言った?」


 き、聞こえてたああああああああ!?


 いや、待て。それも今更ではあるまいか。俺は幾度と無くアプローチしてきたはずだ、たとえそれが気づかれていなくても――いや、だからこそ! 今ハッキリとするべきではあるまいか!


「カカ君、俺は君が好きだ!!」


 言った……


 言ってしまった……


「なに、これ。なんかドキドキする……」


 カカ君! 俺の想いが伝わって……


 俺とカカ君の顔が、少しずつ近づいて……


 とかなれば、いいのになぁ……なんて。一人でベッドの中で妄想していたわけなのだが。


「はぁ、暇だ」


 なんだ妄想なのかよ!? そう思ったかね? 言っただろう、好きな女の子に会えない、男子にとってこれほど辛いことはないのだ、と。そして彼女が見舞いに来る可能性なぞほとんどない、ならば妄想するしかないではないか。


「はぁ……カカ君」


「なに」


「そうそう、こんな感じで返事をしてくれ――た?」


 ベッドから半身を起こして、ドアの方を見る。


 頬をつねる。


 痛い。


 痛い。


 痛いっつの!!


 自分で自分にツッコみつつも、俺は呆然としていた。


「え……家の鍵は?」


「開けた」


 あっけらかんと答えるカカ君。かかっていた鍵をどうやって、いや、そんなことはどうでもよくて、


「な、なぜ?」


「ん、見舞いにきた」


「……なぜ?」


「んー、なんとなく? ほれ差し入れ」


 これはまさか、先ほどの妄想が現実化したのか!? きっとそうだ! その証拠にカカ君は妄想と全く同じことを話しているし、手にはリンゴも持っている!


 きっと良い子にしていた俺に神様がプレゼントをくれたのだ!


 スパァーン!!


 神様、ではなく、カカ君からのプレゼントが俺の頭に炸裂した。


「あの……カカ、君?」


 ベッドから落ちてごろりと転がる砕けたリンゴの破片、その欠片の大部分は俺の頭に汁っぽくべったりと付着していた。


「なぜ?」


 通算三回目の「なぜ」を言った。


「だって私は風邪ひきたくないもん」


 だから部屋に入らないと言うのか。


 だから部屋の入り口から「ピッチャー振りかぶって投げました」的な勢いでリンゴを俺に投げつけたのか。頭ど真ん中にストライクだ。キャッチャーアウトだ。


「もいっちょいくよー。せーの」


「待て!! 見舞いに来てくれたのは嬉しいが、ほら、もっと穏便に! 例えば護身用のナイフでリンゴを剥いてくれたり――」


「護身用のナイフ? これか。せーの」


「だからなんで投げる体勢になってるのだ!?」


「なに、これ。なんかドキドキする……」


 カカ君! 俺の想いが伝わって……ない!! 妄想とセリフは同じだが全く伝わってない! 俺に自殺願望なんかないのだああああああ!!



 

 そして。色々投げまくったカカ君は満足そうに帰っていった。俺はまともに喋れなかった。


 でも……へへへ、カカ君が見舞いに来てくれた。


 幸せだ。


 うむ、一刻も早く風邪を治して礼を言わなければ! うおおお! 愛の力で風邪の菌など蹴散らしてくれるわぁ!!


 次の日。


 風邪は悪化した。




 なんだかんだでカカがお見舞いにきた。

 よかったね、タケダ。

 でも風邪が悪化した?

 よかったね、タケダ。

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