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カカの天下  作者: ルシカ
684/917

カカの天下684「しょっく」

 こんにちは、カカです。


 今日から普通に授業再開。少し遅れて朝礼を始めたテンカ先生は、静かに口を開きました。


「タケダが死んだ」


 は?


「タケダって誰だっけ?」


「ほら、隣のクラスの委員長だよ」


「それってマケダって名前じゃなかったっけ」


「いや、確かヤケダじゃ」


「ヤケだ!! 俺はもうヤケだ!」


「うるさいよ。誰だよおまえ」


「サケダじゃなかったっけ?」


「酒だー! 酒もってこーい!」


「カカすけのお姉さんみたいなこと言わないでよっ」


「いま思いついたんだけどー、チャケダって可愛くないかなー?」


 ざわざわきゃいきゃいとはしゃぎ始めるクラスメイト。そんな中で、私は――欠伸をしていた。


「それでそれで、死因は?」


「きっとカカに殺されたんだぜ」


 おい。


「でもサエちゃんとも仲良かったよね。闇に売られたんじゃないの?」


「売れなかったよー」


「さも売ろうとしたみたいに言うんじゃないわよサエすけっ」


「売るんなら西だよね」


「どこよ」


「死因は、風邪だ」


 あははは、と笑い声がそこかしこから零れる。風邪? まっさかー。


「風邪から肺炎を起こして、昨夜に亡くなった」


 テンカ先生も冗談ばっかり。


「どうせ隣に行けばいるんでしょ?」


「あ、でも、わたくし隣のクラスのお友達とずっと喋ってましたけど……一度も見かけていませんよ」


「もう死体は運ばれたか」


「燃えるゴミなのか萌えないゴミなのかが気になる」


「おお、漢字的にどっちもありえそうだ」


「近々、葬儀についての詳細のプリントが配られるだろう。てめぇら、ちゃんと参加するんだぞ」


 またまたまた……そんな信憑性の高くなりそうなことばっかり言って。


「さて、話はこんくらいだ。もうすぐ授業だから職員室に一旦戻るわ」


 え、あの、え?


「テンカ先生」


「んだよ」


 委員長としての責任感がそうさせたのか、すっと手を上げたイチョウさん。


「その話、冗談ですよね?」


「冗談でこんなこと言うかよ」


 バタン、と妙に大きく響く引き戸の音。


 耳障りに思えたのは、誰もが声を出さなくなったからだ。


「……え? まじ?」


「死んだ? タケダが?」


 静かに再びざわつき始めるクラス。でも今度は――明るい声も、バカにしたような声も、呆れた声も、ない。


 あるのは不安な声だけ。


「ねぇ、どう思うカカすけ」


「ねーねーカカちゃん」


「なんで私に言うのさ」


「そんなに落ち着いてるから、事情を知ってるのかとー」


 知らないよ、そんなの。


 でもどうせ冗談でしょ。


 冗談だよね。


 まぁ、仮に事実だとしてもタケダがいなくなったくらいで……あれ。


「あう?」


 いなく、なった?


 もう会えない? もういない? もう付きまとってきたりしないし、からかったりも無視したりもしないし、それどころか顔も見ないし喋ることも声を聞くことも何も――ない?


 なに、この、嫌な気持ち。


「カカちゃん? 顔がまっさお」 


「カカすけ、大丈夫?」


「……や」


 大丈夫、じゃ、ない、かも。


 なに、なになになに、全然親しくなかったはずなのに。全然なんとも思ってなかったはずなのに。なに、この――


「タケダが、死んだ?」


 カラーン! と。私の声を聞いたのか、それとも誰かの声を聞いたのか。


 インドちゃんが、スプーンを落としていた。お弁当箱ごとカレーも落としていた。朝礼の時間にカレーを食べていたのか、とか思う人は誰もいない。なぜなら、インドちゃんならいつカレー食べていてもおかしくないから、ではなく。その表情に釘付けだったからだ。


 その、子供な私たちが見たこともないような絶望的な瞳に。


「……やだ」


 そうだ。


 やだ。


 なんかやだ。あいつがいなくなるのは嫌だ。


 いてほしいと思ったことはない。どうでもいいと思っていた。でも、でも――


「ああ、あれ嘘だから」


 バキン、と音がした。


 多分クラスが割れる音。何が割れたかはご想像にお任せする。多分、皆の心とか気持ちとか空間とか世界とかそんなんにヒビを入れたのだ、ひょこっと顔を出したテンカ先生の一言は。


「てん、か、せん、せい?」


 誰ともなく問いかける。


「どうだ、思い知ったか。てめぇらは随分と他人を邪険にするケがあるようだからな――いざ人が死んだとなるとどうなるか、考えさせてやりたかったんだよ」


「なんで、そんな」


「忘れたか? 一時間目は道徳だ。オレなりに考えた授業の一環だよ」


「冗談でこんなこと言うか、って!」


「冗談じゃねぇよ。授業っつったろ」


「それにしたってタチ悪すぎでしょ!!」


 私は怒鳴った。


 さっき自分の胸を抉った気持ちのやり場がなくて。


「あぁん? じゃあてめぇらが最初に喋ってた内容はタチ悪くねぇってのか」


 でもそんな気持ちはどこかへ行ってしまった。


 最初、私たちは何を喋っていた? 私は? どうせ冗談だと決め付けて欠伸をしていたんじゃないのか。


「別にそういうのもいいだろうよ。タケダはいじられ役みたいなもんだしな。ただ、やりすぎるな。あいつも人間で、ガキだ。傷つくときゃ傷つく。あいつだけじゃない、誰でもな。それを忘れるんじゃねぇぞ」


 私たちは、頷くしかなかった。


「あとな、風邪で肺炎を起こして死ぬことはある。うがい、手洗いはしっかりしろよ。あんな想いを他のやつらにさせたくなかったらな」


 そして私たちは、言われた通りにうがいと手洗いを習慣づけるようになる。


 この破天荒な先生のおかげで。


「……それで、本当のタケダは?」


「風邪で休み」


 お見舞いに、いこうかな。


 この先生のおかげで、こんなことを思ってしまった。




 唐突にガッツーン的な話を書いてしまいまして申し訳ありません。私はいきなりこんなんで読者さんの心を揺さぶるのが大好きなのです。

 明日も重い話になるのか? いいえ全然微塵もそんなことはありませんのでご心配なく。でもなんだかタケダ率が上がりそうな予感です。

 これからの予定? もちろん何も考えてません。

 

 あ、それと。カカたちには注意しましたけど……読者の皆さんはいつもどーりタケダのことを存分にアレコレ言っても構いませんよ? 結局最後はコメディなので笑


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