カカの天下681「呆れるばかりの一日か?」
ムカムカムカムカトメです!!
僕の名前がこんなに長くないことは皆さんご存知でしょう。ええ、単にムカムカしてるだけのトメです。それというのもカカのイタズラ!! あんにゃろ、顔にびっしり細かくイタズラ書きなんかしやがって……
耳無し芳一みたいな自分の顔に気づいたのは、会社に出勤してしばらく経ち、トイレでふと鏡を見てからだった。気づくのが遅すぎると思うだろう。しかし遅刻寸前だった僕には、身だしなみを気にする余裕も、周りからの妙な視線を察する余裕もなかったのだ。
「え、ちゃんと耳にも書いたよ?」
「書きすぎだ! 耳無し芳一は言葉のあやだ!」
「え。アヤちゃんが芳一って人と浮気!? ニシカワ君というものがありながら」
「そんなこと誰も言っとらん」
というわけで家に帰って早々にカカを叱り付けているんだが、この小娘はどうにもマイペースを崩そうとはしない。
「くそう、とんだ恥をかいてしまった……」
「ねね。周りの人、ウケてた?」
「ウケる前に引いてたわ!!」
「えー。いなかったの? じっくり読んだ後にクスッと笑った人とか」
「……それなら何人かいた」
「よっしゃ」
「よっしゃじゃねえ!」
僕の声は届いていない。自信作がウケたという喜びでカカの頭はいっぱいだ。
「とにかく、もうこんなイタズラはやめろよ」
「わかった。これはもうしない」
「他のもするな!」
「耳がかゆい」
「会話をしろ!!」
ああ……なんかいっつも再確認しているけど、カカは今年もカカだ。
「あ、いたいた。おーい、トメ君、カカ君」
「母さん? ただいま」
そうだった、今の我が家には母さんがいるのだ。挨拶するのを忘れていた。
「おかえりなさい。それでね? 私、いまから仕事に戻るから」
あまりに唐突な爆弾発言に、ピシリと空気が凍った。
「……え?」
なんとか声を絞りだす。
「だからね、私の冬休みはもうおしまいなの。残念だけど」
そ……っか。
そうだよな、こんなに長い間、仕事を休むこと自体が異例だったんだ。だから唐突に戻ることになっても仕方ない。や、そもそも僕らが聞かなかったんだ。休みがいつまでか、なんて。
聞きたくなかったから。考えたくなかったから。
でも、いざこうなったら、きちんと送り出してあげないと。
大丈夫、慣れている。特別な言葉は必要ないし、今さら感動的な別れ方をする必要も――
「おっかさぁぁぁぁぁぁん!!」
ないはずなんだけどなぁ。
「ほんまけ!? ほんまに行ってしまうんけ!? そんなことオラ聞いてないべさ!!」
注・カカです。
「ああ……隠していて、悪かったな」
注・母さんです。
「なして!? なして今なんけ! ようやく、ようやく幸せさ掴んできたとこやないか!」
注・田舎っぽい訛りのイントネーションをご想像ください。
「俺だって辛いさ……でも仕方ないじゃないか!!」
注・都会から来たイイ男をご想像ください。
「お腹の子さどうするんだ!? つつおやがいなかっだらこの子寂しがるがいね!!」
注・つつおや→訛りを直すと父親。
「おまえが、いるじゃないか」
「オラだけじゃ無理だっぺ……オラも一緒についていく!! 東京さ行くだ! 都会のモンがなんだっちゅうんや。どうせ着るもんがハイカラになるだけっしゃろ!?」
「カカ子……!」
カカ子って誰だ。
や、それだけじゃなくて、何このミニドラマ? それに、えっと、えーっと、とりあえずハイカラなんて言葉よく知ってたなカカ。あとはどこにツッコもう?
「すまん、俺は行く」
「ああ! 待たんかいね!」
「さらば!!」
なんかバサッと服を翻して去っていこうとする母さん。しかしそのとき!
「行くな!!」
別方向から新たな声が!!
「勝手に行くんじゃねぇ!!」
妙に男らしい声で登場したのは姉!!
それに驚愕した母さんは、吐息と共に彼女の名前を口にした。
「カツ夫……!」
だからカツオって誰だよ。どっかの海鮮類家族の長男じゃないよな? うちの長女のことだよな。
「俺が……俺が悪かった!! だから帰ってきてくれ!」
注・うちの姉です。
「もう、無理よ……私たち、終わったの」
注・バージョン変えたうちの母です。
「そんな! じゃあ、じゃあ! おまえのお腹の子はどうするんだ!?」
子持ち多いな。少子高齢化もビックリだ。
「私は、この子と二人で生きていくわ……」
涙を浮かべて(女優すげぇ)立ち去ろうとする母さん。そこへ!
「この子ってオラのことか!? ああ、オラのもとに戻ってきてくれるっぺな!?」
「なんだおまえは! 俺の女に何をする!」
「そではこっつのセリフだべ! あんたこそオラのだーりんに何しよっと!?」
「やめて! 私のために争うんじゃねぇ!!(母さんキャラ混ざってます)」
展開される三角関係。もはやカオスすぎてツッコみようがなく、でも僕も意地になってツッコもうとしてアタフタして――
「ほら! トメ兄も混じって!」
その声に頷いてしまい、
「メイドっぽく言ってみようか」
ちょっとシナをつくって、
「い、行かないでご主人さ――って誰がやるかぁ!!」
危うくヤヴァいノリツッコミをかましそうになるが、ギリギリセーフ!! きっと! 多分!!
「ちっ!」
「惜しい!」
力いっぱい舌打ちする二人は放っておいて、
「で? 母さん。本当に仕事に戻るのか?」
「うっそーん♪ 慌てる皆が見たかっただけ」
「私はトメ兄にそれやらせたかっただけ」
「あたしはノッただけ」
うちの家族は本当にもう……
そんな風に呆れることばっかりの一日でしたとさ。
――その夜。
「うっそーん、が、うっそーん」
そんなことを囁く声が一つ。
「ごめんね、皆。お仕事いってきまーす」
楽しく騒ぎ、寝静まった子供たちの顔を目に焼き付けて。
「ズルいよね、うん。でも、こうでもしないとお仕事に行けないから」
ずっとここにいたい――そんな想いを胸に押し込めて、
「ありがとう、楽しかったよ。元気充填おっけー。でわでわ、いってきまーす」
颯爽と、潔く、笑顔で、彼女は自らの戦場へと戻っていった。
微妙に昨日の続き、と……
お母さんのお休み終了です。世の皆様は仕事はじめ、勉強はじめの時期ですね。私はようやく年末年始という激闘が終わって一休みできるころですが……
あえて言います。頑張れみんな!!
応援だけはしてるよ!!
それだけならタダだからね!!
あと、カカの喋りはいろいろ混ざってますがお気になさらず。どこの方言とかそっだらこと言われても子供のしゃべっとーことだっしゃよーわからんがいね。




