カカの天下68「メタルカカソリッド」
「はい、もしもし」
こんばんは、トメです。
仕事から家に帰ってきてボーッとテレビを見ていたところに、一本の電話がかかってきました。
『こちらカカ。応答せよトメ兄。おーばー』
「……や、してるけど」
何を喋ってるかなこの妹は。
「何か用か?」
確か今日も今日とてサエちゃんちに遊びにいっていたはずだが。
『…………』
「おい」
反応がない……ああ、わかった。
「えっと、おーばー?」
『うむ、拙者はいまサエちゃんちに侵入することに成功した』
なんかスパイと時代劇混ざったな。
『大佐、指示を。おーばー』
遊びたいのはわかったが、何を指示しろと言うのだろう。
「あーっと、じゃあね、その家にいる大人全員に『いつもお世話になってます』と言ってくるのだ。おーばー」
『大佐、その任務は難しいです。おーばー』
「なんでだよ。おーばー」
『面が割れてしまいます。おーばー』
割れたらダメなんかい。
「じゃあダンボールでもかぶって変装すればいいんじゃないか?」
某スパイゲームを思いだしながら言ってみると、「なるほど」とカカは頷き、電話が切れた。あれ、マジでやるの?
数分後、再び電話がかかってきた。
「もしもし」
『こちらカカ。任務に失敗したっ!!』
「失敗ってどうした。おーばー」
『おーばーなんて言ってる場合じゃないの。バカじゃないの? 死ねばいいのに』
ぅおい。その言い方はオーバーだぞ。
『ダンボールが近くになかったので、ちょうどいいところにあった洗濯籠をかぶってみたのですが』
「んなもんかぶるなよ。で、怒られでもしたか?」
『すごい臭いです! 鼻がとびます!』
そうかぁ、とぶのかぁ。それは初めて聞く表現だ。さぞかしスバラシイにおいだったんだろうなぁ。
『そんなわけで行動不能になりました』
弱いなカカスパイ。
『きゅーえんぶっしをお願いします』
「カカ、やたら詳しいなそういう単語」
『こないだ男子に借りたゲームしてたら覚えた』
「……なるほど」
『そういうわけで武器が足りないのです。近くに洗面所がありますが、使えそうなのはヒゲソリくらいです。剃るしかないのでしょうか』
「髭なんかないだろに。そもそもサエちゃんはどうしたんだ? 放っておいて電話なんかしてていいのか?」
『おろかもの! 捕らわれのサエちゃんを助けることこそが私たちの任務ではないかっ』
「初耳ですが」
「たわし!!」
「……たわけ、か?」
「あ、そうだ。すぐそばにたわしあったから。このたわけ!」
「はいはい、それはともかくさ、任務が決まってるなら僕に任務言えとか言うなよ」
『そこはほら、気分で』
相変わらず勝手なやつめ。
『それで、助けるにはどうすればいいのでありますか』
なんだか僕はもう面倒になって、適当なことを言ってみた。
「とりあえず、敵を倒せばいいんじゃないか?」
数分後、三度電話が鳴った。
「はい、もしもし」
『どうもこんばんは、サエの母です』
「あ、いつもお世話になってます」
どうせまたカカだと思っていた僕は、予想外の人物に少しビビッた。
電話の用件は、カカが夕飯をうちで食べていってもいいか、というもので、特に夕飯の用意をしていなかった僕にとっては大助かりな申し出。非常に恐縮しながらも「お願いします」ということで話はついた。
『それで、ええとですね、ちょっとお聞きしたいんですけど』
「なんでしょう?」
『カカちゃんが、洗濯籠をかぶりながら、ヒゲソリを片手に、うちの主人相手にオセロをしているのには、どんな意味があるのでしょうか?』
「あー、えーっと、あの」
『しばらくうちの主人がサエと話をしていたのですが、その間にあんな格好になっていまして、主人に「勝負!」と言ってきまして』
なるほど。サエちゃんがお父さんと話している間が暇だったからうちに電話かけてきたのかあいつ。
そしてこの場合、サエちゃんを捕らえている敵というのはお父さんになるわけだ。
『主人を倒す、とはりきっているのですが……私たち、何かカカちゃんの気に障ることでもしたのでしょうか?』
「ああ、それは発作です。たまにあるんです」
『ほ、発作?』
「はい。意味不明なことをする発作です。子供にはよくあることです。気にしたら負けです」
面倒なので、そういうことにしておいた。
『病院に連絡は……』
「しないでいいです」
『でもそんな病気、聞いたことありませんよ!?』
僕もないね。
「とにかくいいですから。つける薬はありませんから」
とりあえず悪い場所が頭だということだけはわかってるんだけどなぁ。