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カカの天下  作者: ルシカ
679/917

カカの天下679「今年も全開」

 こんにちは、トメです。


 意外と長い神社のお話が続いてます。飽きた方はすいません。


 おみくじを見せあっていまだに騒いでいるカカたちを放って、甘酒売り場の方へと来てみました。えーっと、さっき母さんと姉がいた場所は……


「新年にかんぱーい!!」


 間違いなくあそこだ、甘酒も日本酒もビールも同じに考えてるバカのいるところは。


「おぅ、弟君も飲むか!? うぃっく」


「あはは! ねぇねぇトメ君。カッ君たら、おっさんみたいでおもしろいんだよー」


 母さん気づいてなかったのか? そいつの中身は三年前くらいから完全にオヤジだぞ。


「よぅ、トメじゃねぇか」


「おー、テン。あけましておめ――でたくない顔してんなオイ!?」


 申し合わせたかのようにセーターにジーパン姿と母さんと姉とお揃い姿のテン。しかしその顔はヤバイ。普段から悪い切れ長の目つきが尋常じゃない程に鋭くなっており、暗く濁った眼光を放っていて、わかりやすく言うと超怖ぇ。


「っせぇな……風邪ひいたぜ、ちくしょうが」


「し、新年早々、大変だな。でも甘酒は飲んでるのか?」


「ったりめぇだろ。喉をアルコールで消毒してんだよ」


 のんべの屁理屈を……でもまぁ、甘酒なんてアルコール度数ほとんどないし、大丈夫か。


「おいこら! 弟君も飲め! あたしの酒が飲めないってぇのかい!?」


 なのになんでこんな酔ってるんだこのバカは。


「ははは、トメ。大人しく飲まねぇと酒のつまみにされちまうぞ」


 うぐぅ、姉が人の頭をバリボリとかじる光景が容易に想像できるから不思議だ。


「あ、それ見てみたいな。ねぇねぇトメ君。やってみて」


「姉に食べられてみろと仰りますかお母様」


「きっと楽しいよ」


 あなたたちはね。ていうか母さん、もしかして酔ってる?


「はいはい、弟君もコップ持って」


「お、ありがと」


 あらら、ここ甘酒はセルフで無料なのね。可哀想に、ここにあるの全部飲みつくされちゃうぞ。


「はい、それでは改めまして! 輝かしい新年に、かんぱーい!!」


『かんぱーい!!』


「トメが好きなのは!?」


『おっぱーい!!』


「待たんかい!! テン、おまえなんちゅーことを」


「あ、違った違った。トメ君が好きなのは?」


『くびれー!!』


「バラしたな母さああああああああん!!」


『あっはっはっはっは!!』


 不本意ながら場を盛り上げまくってしまった僕の性癖。新年早々、大凶です。恥ずい。


「――なに笑ってんだよ、うぜぇ」


 ん、何か聞こえたか? 気のせいか。


「やぁやぁ、見知らぬ皆様もお一つどうぞ!」


「え、ああ、悪いねぇ」


「そこのお爺様も、どうぞ♪」


「ほっほっほ、こんな美人なお嬢さんに注いでいただけるなら、いつ死んでもいいのぉ」


「おいコラ坊主、飲めや」


「は、はい!! だから殺さないで!!」


 そして、通りがかった人に片っ端から甘酒をすすめていくタチの悪い集団と化した僕の家族他一名。すすめられた人は笑顔になるからタチはいいのか? 悩むところだ。


「――気にいらねぇ」


 また聞こえた。どこだ? 


 どこから聞こえた?


 いた。


 高校生くらいの集団か? 五、六人の男子か。なんだか面白くなさそうな顔してるなぁ。


「面白くねぇ……」


 あ、やっぱりそうですか。


「なに笑ってんだよコイツら……」「苛々する……」「くそったれが……」


 なんだか嫌な雰囲気に。


「あはははは! 鬼さんこーちら!」


「待ちなさいよカカすけぇぇぇ!」


「二人ともはやいー」


 そこに通りかかったカカとサユカちゃん。遅れてサエちゃん。


 集団の一人が動いた。足を振り上げ、脇目も降らず走るカカの足元へ――


「そこのクソガキなにしてる」


 身体が舞った。


 カカの、じゃない。舞った身体は二つ。


 一つはいつの間にか助走をつけて飛び蹴りをかましたテン。もう一つはそれをくらって吹っ飛んだ高校生のもの。


「っでぇ!!」


「っと」


 受け身も取れず地面に転がる高校生、それに比べて土を派手に削りながらも見事に着地を決めるテン。突然起こった事態に呆気に取られた僕が思ったのは――テン、男まさりな口調なだけはあるな――なんていう感想だけだった。


「やっくん!!」「おい、大丈夫かよ」「クソが、何しやがる!?」


 息巻く高校生集団。しかしそれに怯むテンではなかった。


「っせぇな。風邪で頭痛ぇんだ。わめくな」


 ドスの利いた低い声に怯む男たち。


「何しやがる? こっちのセリフだ。てめぇら、うちのチビどもに何しようとしやがった」


 視線で三人くらい殺せそうな目つき。だがそれにも負けずに一人の男子が声をあげた。


「気にいらねぇんだよ」


「なにが」


 表情をピクリとも動かさず聞き返すテン。それにカチンときたのか、男子も声を荒げる。


「全部だよ!! てめぇら全部気にいらねぇんだよ! 笑ってるやつ――何の苦労もせずに笑ってるやつら、全員気にいらねぇんだ!!」


 なんだ、これ。


「おまえらに俺の苦しみがわかるか!? 去年から受験勉強で毎日苦しんで、親に目の仇のように毎日叱られて……毎日だぞ!? 外へ出ることも三時間しか許してくれなくて、それと寝る時間以外に休まる暇がない俺の気持ちがわかるか!?」


 は?


「俺なんか去年から親一人いねぇんだぞ!? なのによ、どいつもこいつも同情してるフリして何もしてくれねぇし」


 はぁ。


「俺のほうがひどいさ! 十六歳になったときから親に無理やりバイトさせられてんだぜ!? なのに、どれだけ頑張っても『あれができてない、これができてない』とか『ガキだから仕方ない』とか散々言われて……仕方ねぇじゃねぇか、年齢なんてどうにもならねぇんだから!」


 ……言って、いいか?


「おまえらはさ、どうせ苦労なんかねぇんだよな? だから、たかが新年ってだけで、そんなに笑ってられるんだ」


 言っていいよな。


「バカな大人はいいよな、バカな子供はいいよなぁ!!」


「――せぇ」


 ああ、テンが言うか。じゃあ任せた。


「不幸な俺たちと違って、笑ってられ――」


「小せぇ」


「あん?」


「さっきからグダグダと小せぇことばっかり言いやがって。なんだてめぇら? 自分の小ささ自慢してオレを笑わせてぇのか? だったら大成功だよあっはっは!」


「んだと、このアマ!!」


「てめぇらはよ、視野が狭ぇんだ。狭すぎるんだ。多分車の免許取ろうとしても受からねぇんじゃねぇか? 右折とかできなくて」


 ああ、あれっていろんな方向見なきゃいけないもんな。


「色々と言いたいことはあるが、面倒くせぇからまとめてやる――てめぇらうぜぇ。不幸自慢なら余所でやれ、そんなもん聞きたくねぇよ」


「な――」


 あれま。思いのほかバッサリ斬っちゃったな。教師ならもうちょっと、


「ダメだよテン君。教師ならもうちょっと、道を指し示してやらないと」


 って、なんで母さんが出てくるのん?


「……なんだ、てめぇは」


「ん、ママです♪」


 その自己紹介はどうかと。


 そうツッコミすら入れられない雰囲気の中で、母さんはいつも通りに笑った。


「ねぇ、君たち?」


 そしてゆっくりと語りかける。


「苦しみ一を十と取るか、幸せ一を十と取るか」


 その柔らかすぎる雰囲気に、たじろぐ高校生たち。


「苦しみ十を一と取るか。幸せ十を一と取るか」


 声は綺麗に、言葉は鮮明に、


「本人次第、考え次第。零にも百にもなるでしょう。あなたなら、どうしたい?」


 彼らに届いたはずだ。


「私たちが笑うのは、そういうこと」


 誰にだっていつだって、幸せも苦しみもある。その中で、どちらに目を向けるか……それが大事なのだと、昔教わったことがある。


 どうせなら幸せ一を十と取りたい。だから僕らは笑っている。


「う、うるせぇ……」


 言葉は伝わっても、気持ちは伝わらなかったのか。


「うるせぇうるせぇ!! やっちまえ!!」


 時代劇のようなセリフと共に、未熟な子供たちはヤケになって――


「仕方ないですね。スケさんカクさん、懲らしめてあげなさい♪」


 それと似たようなセリフで迎えうった。


 そして二秒後、死屍累々の高校生たちが……って二秒ってはやっ!!


「ねぇ母さん」


「なんだいトメ君」


「カクさんが姉なのはなんとなくわかる」


「カッ君を短くして、カクね♪」


「スケさんは?」


「スケベの略」


 ああ、父さんか。


 というわけで、妙に小さくキレまくった高校生集団は、姉が一人の足を持つ→そのままそいつを武器にして三人まとめて殴り飛ばす→残った二人はなぜか泡吹いて倒れる(おそらくスケさんの仕業)という一瞬で片付いてしまったのだった。


「ゆ、ゆ、ユイナさん!! 大丈夫なんですか!?」


 おお、そんなに慌ててどうしたテン。さっきまでの迫力が嘘みたいだぞ。


「女優の度胸をなめるな♪」


「い、いや、そうじゃなくて身体は」


 大丈夫に決まってんだろ。うちのスケさんカクさんすげぇんだぞ。


「しかしなんだったんだ、新年から……」


「そだね! 確かに景気が悪い!」


 おお、カカ。なんか黙ってると思ったら。


「つまり。この人たち、笑えないんだよね?」


「ああ、そだな」


「じゃ、私の今年の抱負を実行するとしようか」


「え――」


「いくぞ、サエちゃんサユカン! こいつらを笑わせろ!!」


 こちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!


「あははははははははははははははははははひはははははっふっははははは!!」


 新年早々、景気のいい笑い声が神社に響き渡った。


 うむ、終わりよければ全てよし。


 いい一年になりそうだ。




 なんかちょろっとママンの話を書こうとしたらこんなのできちまうからカカ天はこえぇぜ。

 というわけで。

 登場した高校生たちは端から見ればとてつもなく情けないですが、意外とこうやって愚痴る人、いるんですよねぇ。

 苦しみを十と取ってしまうんですよねぇ。

 逆がいいですよね^^

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