カカの天下672「モンスター」
「もきゅー!」
おはようございます、カカです。今の発言に意味はありません。
ただいま冬休み中、のんびりまったりお寝坊してみたのですが、部屋寒っ! というわけで毛布に包まったまま右手だけちょこんと出して、カーテンを開けてみます。
「ゆきゅー!」
今のは意味があります。外に薄ら雪が積もっていたからです。もきゅーの雪版でゆきゅーです。
「んー……」
白い、白いね。
白いもん見てたら黒いもん見たくなってきた。
サエちゃんに会いに行こう。
「……寒い」
雪積もってるだけあってホント寒いなぁ。毛布から出たくないなぁ。
よし、このまま会いに行こう。
ええっと、このままだと毛布が濡れるから……お、ちょうどいいところに大きな黒ゴミ袋が。大掃除用にトメ兄が持ってきたやつだ、これを……
「んしょ、んしょ」
出してた右手が冷たくなってきたので、今度は左手を出して一所懸命にゴミ袋を開く。
「んし」
開いた。ここに毛布に包まったまま私の身体を入れて……
「んしょっと」
左手一本でなんとか内側から結んだ。
よし、これで防水対策バッチリのカカ団子が出来上がりだ。きっと外から見ると、中身の詰まった黒いゴミ袋にしか見えないに違いない。でも「外見ばかり気にしてはいけない、大事なのは内面だ」ってトメ兄が言ってたから、気にしないことにする。
さて、これから……ん?
んん?
ああ。
そっか。
右手を解放。
「はぁ!!」
気合一発正拳突き。ゴミ袋に一つ、横穴を空ける!
「ぷはぁ……息できなかった」
空気穴おっけー。適当に毛布に隙間つくって視界もおっけー。さぁいこう。
いざ、外へと飛び出そう!
わっしゃ、わっしゃ、と袋と毛布を擦り合わせながら、全身のばねを使って跳ねながら移動。
空気穴から右手だけ出して、窓を開け放つ。
そして飛び出す!!
ちなみにここ二階ね。
飛んでいる……私はいま、妙な姿で飛んでいる!!
たーのしー!!
ぼす、と軽い衝撃と共に着地。すでに手は引っ込めてある……ふ、やはり私の毛布はさすがだ、危険なんかありゃしねぇ(下に雪があるとはいえ、実際にはとても危険です)
さて行こう。
横穴から雪とか水が染みないように気をつけながら、わっしゃわっしゃと道へ移動開始。
わっしゃ、わっしゃ。おお、意外といけるじゃん。寒くないし。
「うおぉあ!? な、なにあれ」
「ご、ゴミ袋が歩いてる? いや、跳ねてる!?」
(皆さん、お騒がせしまーす!)
「み、見なかったことにしよう」
「世の中、不思議がいっぱいだわ……」
あれ、声を出したつもりなんだけど。毛布とゴミ袋に遮られて聞こえてないみたい。
ま、いいや。なんか面白いから遠回りして行こっと。
わっしゃ、わっしゃと移動中。
「く、黒くて丸い妖怪じゃああああ!」
む? どうした息子夫婦連れのおばあちゃん。
「不吉じゃああ、この世の終わりじゃあああ」
「お、お母さん落ち着いて!!」
「そうですよ、お養母さん。せっかく私たちが結婚したばかりなのに、そんなに早くこの世が終わっては困ります」
「違うんじゃあああ! きっと今年と共に最期なんじゃああああ! おまえらが」
「なんでうちら!?」
「ダメ嫁は死んでしまえ」
「それが本音か!?」
なんか大変だね。ご苦労様です。
華麗にスルーしてわっしゃわっしゃと移動中。
「ひっ!?」
(おやサユカン。奇遇だね、って聞こえてないか)
「な、なになに? なんなのコレ、黒くて丸い……え、なに?」
わっしゃ。
「ひ」
わっしゃわっしゃ。
「な、なんか来る、なんか来るっ」
わっしゃわっしゃわっしゃわっしゃ――
「来るなああああああっ!!」
うはははははははははははは!
一通りサユカンを追い掛け回して遊び、満足した私は再び移動中。今度は商店街を横断してます。
「ど、どこの店だよ! あんなゴミ捨てたの!」
「セイジ食堂じゃないの? あそこ変なメニュー出すし」
「じゃ、じゃあ、あそこからここまで動いてきたのかよ!? 捨てられたまま? い、いったい何が入ってるんだ……」
うーん、大騒動だねぇ。黒いゴミ袋が道を歩いているだけなのに。
「あ、カカちゃん。やっほ」
(あ、お姉だ。やっほー)
「どこ行くかは知んないけど、気をつけてねー」
(はーい)
爽やかに挨拶を交わしてわっしゃ、わっしゃと移動中。あれ、なんかおかしい? 気のせいか。
ズボッ!!
……ん? なんだこの音。
「か、カラスがゴミ袋の妖怪にクチバシ攻撃を!?」
説明ありがとう、通行人のかた。
「で、でもなんか、クチバシ抜けないみたいだぞあのカラス」
ほほう? ならば――右手解放!
「うわ、ゴミ袋から手が生えた!?」
ここらへんかな。
「うおお!? 身動き取れないカラスを掴んだ!!」
てい。
「自分の身体からカラスのクチバシを抜いて――」
とぉ!
「うおおおおおおお!! 抜いたカラスのクチバシを地面にブッ刺した!? すげぇ! なんかよくわかんないけどすげぇぇぇぇ!!」
ありがとう、ありがとう、声援と解説をありがとう知らない人。
さーて、面倒なので片腕生やしたままわっしゃ、わっしゃと移動中。なんかすっごい怖がられてる。
やがてたどり着いたサエちゃんち。
ピンポーンと呼び鈴を鳴らしてしばらく。パタパタという足音と共に、おっきな扉が開く。
「はーい、どちらさ――」
よう、とばかりに気軽に手を上げると、ビクッ! と身をすくませるサエちゃん。
(さすがに私だと気づかないよね。よーし、このままイタズラを)
「…………!」
(おや、ビクッとなったまま固まってますよサエちゃん。サエちゃん?)
たたた、と意外と機敏な動きで近づいてきたサエちゃんは、ぐいっと私の身体を持ち上げて――
「えーい!!」
たまたま近くに来ていたゴミ収集車へと私を放り込んだ!!
「おーかーあーさぁぁぁぁぁん!!」
そのまま泣きながら家へと帰っていった……なんだかさすがに怖かったみたいだ、周りの反応聞いてたらカラスの血とか付いてたらしいし。きっと勇気を振り絞って得体のしれないモノを退治したって感じなんだろうな、って。ん?
ちょっと、ちょっとちょっと?
ゴミ収集車動いてますよ?
お、降ります、降りまーす!!
――その後。なんとかして帰還した私は、妖怪カカ団子を封印することを誓ったのだった。
よーし、今日は張り切ってカカに変なことさせるぞー。
というわけで書きあがった話がコレです。
どう?




