カカの天下670「メリー・クリスマした」
――クリスマスの後日談、そのいち。
「はい、テンカせんせー」
「お、おお。サンキュー、サエ」
皆がわいわいとプレゼント交換する中、こそこそと隅で交換するテンカとサエ。
「それで、またあの指輪してないんですかー?」
「うっせぇな……」
「せっかくこういうときのために誕生日にあげたんですからー。普段でもしてほしいですけどー」
「そりゃ確かに親子そろって、そうだけどよ、でもな――」
「何をこそこそしてるのかな!?」
「うわぁ!?」
突然現れたユイナの声に驚いたテンカは、サエから受け取ったプレゼントを思わず落としてしまった。
「あらら?」
「あーあー」
その、『笠桐結乃の月気球』という題名が書かれた本を。
「あらあらあら? これって私の写真集だよね。来月発売のはずなのに、どこから手に入れてきたの? すごーい!」
マイペースに喜ぶ笠桐結乃(芸名)本人さんとは裏腹に、テンカはダラダラと汗を垂らしながら固まっていた。
「ん? どうしたのかなテンカ君」
ユイナはその様子をおかしく思って聞いただけだった。
しかしテンカはこれ以上ないほど狼狽して、
「ち、違う、違うんだ!」
「はい?」
「お、オレは別にあなたのファンってわけじゃなくてだな! 親子そろって大ファンってわけでもなくてだな!?」
「はぁー」
「違うんだぞ!? 去年のプレゼントでサエに写真集もらって密かに喜んでたとか、それがきっかけでサエに知られて誕生日プレゼントに『結乃LOVE!』とか書かれた親子おそろいリングもらったりもしてねぇし!!」
「なるほど」
「夏休みにこっち来るって言ってて、来たらカカにオレも呼ぶように言っておいたのに呼ばれなくて、それで密かに落ち込んだりとかもしてねーし!」
「なるほどなるほどー」
「去年も今年も近くで話してて舞い上がりそうになるのを必死に抑えてたりとか、ぜってーねぇんだからな!!」
どう見ても舞い上がっているテンカの言葉は、
「握手」
「ぴ!」
「ぷらす、抱擁こーげき♪」
「ぴゃ!?」
あり余るファンサービスによって、妙な鳴き声と共に止まった。
ちなみに言うまでもないと思うが、今までのテンカの言動は逆の意味にとると正しくなる。
「あーあ、バレちゃったー。でも幸せそうだから、いっかー」
一人事情を知っていたサエは愉快そうに笑いながら……ユイナに抱かれ、かつて誰も見たことのない顔をしているテンカの写真を撮るのだった。
何枚も。
――クリスマスの後日談、そのに。
「こ、ここでクリスマス会が行われていると聞いて!」
「俺も! 俺も参加したいいいいぃぃ!」
「あたしなんかプレゼント持ってきたのよ!」
先日の結婚式のように、再び群がってきたカカたちのファン。いつぞやの漫才大会で魅了した人々の熱は、いまだに冷めないらしい。
しかし、立ちはだかるは鉄の肉壁。
「うおおおおおおお! なんで俺ばっかりいっつもこんな役なんじゃあああい!!」
嵐のように振り回される豪腕に、為す術も無く吹き飛ばされるファンたち!
「でもサエ様のためじゃああああああ!」
ゆーたというでっかいお兄さんは、今日も今日とて輝いているのでしたとさ。めでたしめでたし。
――クリスマスの後日談、そのさん。
「なぁカカ」
「なによトメ姫」
「クジのさ、鼻毛とか鼻水とか鼻血とかあったじゃん。あれって意味あんの?」
「ないよ?」
「……ないのか」
「うん、なんとなくつけただけ」
めでたしめでたし。
――クリスマスの後日談、そのよん。
「おお、母上。首尾はどうだ」
「あのパンツの件じゃろう? 問題ない」
「そうか、クリスマスに間に合ってよかった」
「うむ。一仕事終えたのう」
「たまには親子で一杯やるか」
「付き合おう」
クリスマスの夜。黒いサンタ二人は、さらなる闇へと消えていくのだった。
――クリスマスの後日談、そのご。
「ゆーたさんに、勢いで追い出されてしまった……」
一人でそう愚痴をこぼすのはタケダ。どうやらカカたちファンへの攻撃に巻き込まれて、屋敷の外まで吹っ飛ばされたらしい。
「はくしゅ!! うう……寒っ……昨日からあやしいとは思っていたが、まさかこれは、風邪をひいたか? ああ、そういえばどこぞの風邪の菌を移されたことがあったか……あの翌日に大丈夫だったから甘く見ていた。くそう、あらかじめ薬を飲んでおけば、あの鉄壁に再挑戦するのに」
はくしゅ、と小さなくしゃみをもう一度して。
「……帰ろ」
せっかくのクリスマスだからこそ、体調管理はするべきだった。タケダは胸中で後悔しつつ、寂しく家へと帰っていくのだった。
あーあ。
しかし帰ってみれば温かいご飯とケーキが待っていて、家族と過ごすのも悪くないなーなんて思うのだった。なんだかんだでめでたしめでたし。
ただし翌日、風邪は悪化した。
――クリスマスの後日談、そのろく。
「ゆーたさんに、勢いで追い出されてしまった……」
おまえもか、ということでシューも誰かさんと似たような状態だった。
「うう、食材などなどにお金を出したから、小銭すら残っていない……いいや、帰ろ」
ゆーたという鉄壁に立ち向かうという勇ましい考えなど浮かぶはずもなく、とぼとぼと帰ろうとするシュー君。しかし気づく。
「は!? そ、そういえばうちの家族は旅行に行ってて留守なんだ。帰る場所が……ない」
愕然とするシュー君。どこかに泊まる? いいやお金が無い、この寒空の下で野宿するしかないのか!?
しかし、そのとき。
「あ、あれは!!」
シューは地面にへばりついた。
お金だ、なんとお金が落ちている。結構な額だ。
「やった……これだけあれば漫画喫茶になら泊まれる! 神様、いいえサンタさん、ありがとうございます!」
先日、とある二人が焼き芋を買おうとしたときに落とした小銭が一人の男を救った。これを奇跡と呼ばずなんと呼ぼう。
「へへ……サンタさんっているんだ」
小さな幸せをかみ締めながら、シュー君は漫画喫茶へ向かうのだった。
めでたしめでたし。
ただし満室だった。
――と、いうのはさすがに可哀想だからやめておこう。
――クリスマスの後日談、そのなな。
「ふー……飲んだ、飲んだ、飲みすぎた」
深夜、すでにぐっすり眠っているカカを背負って帰ってきたトメ。姉や母はそのままサカイ宅で飲み明かすらしいが、何よりも兄としての自覚が勝るトメは一足先に帰ってきた。
カカを部屋まで連れて行き、ベッドに寝かせる。
「はなげ……」
「だからなんで鼻にこだわるんだっつーの」
相変わらず妙な寝言をもらす妹に苦笑しながら、おやすみ、今日はありがとな、と囁いて部屋を出る。
「うーん……なんか腹減ったな」
料理はもちろんかなりの量が並んでいたが、食べたのは随分と前の話だ。後半はお酒と会話が中心だったので、小腹が空いてしまったのだろう。
「なんか冷蔵庫にあるかな……お、あったあった」
ラップした料理が奥にあった。酔っていたトメは何の疑問も持たずにラップをはぐって口にした。
「おえええええええ!!」
その料理は完全に悪くなっていた。まずさと刺激に酔いが醒める。おそらくほぼ腐りかけ、一体いつラップしたものなのか……今のトメには思い出せない。ただ一つ、思い出したのは、
「クリスマスの占い……当たった」
先日やったKY占い。石鹸ケーキを食べたときと似たようなプレゼントをもらうことになる――見事に的中していた。
これは教訓という名のプレゼントだ。酔ったときは気をつけろ、調子に乗るな、いい思いしすぎだ、モテすぎだ、そのポジション代われや――そういったメッセージが込められているに違いない。
「誰だ、こんなプレゼント考えたの……」
私だ。まいったか。
メリー・クリスマス。
見ての通り、クリスマスの後日談。
そして数々のさりげない伏線回収でもあります。果たしてみんな「あ、これ伏線だな」という部分を全て見つけられていたかな!?
伏線が小さすぎ? ふはは、どうだまいったか。
さてさて、明日からは普通のお話に戻りますかねー。何を書くかは……明日考えます^^