カカの天下67「カカ天劇場」
こんにちわ、トメです。
今日も仕事が終わって帰ってきたら、どうやら妹のカカがサエちゃんと部屋で遊んでいるようです。
一声かけたあと、僕は気が利くお兄さんを演出するためにお茶を用意して持っていくことにしました。
「おーい、入るぞー」
片手にトレイを乗せたままノックし、扉を開ける。
するとそこには……なにやら異空間が広がっていた。
「こんにちわー」
「へい、らっしゃい。何にぎりやしょう」
「ラーメンを」
「お、ねーちゃんいい目してるね。今朝入ったばかりのピチピチだよっ」
「獲れたて?」
「おうよ。近所の湖でおいちゃんが釣ってきたのさ。長いだろう」
「そりゃラーメンだし」
ツッコミどころ多すぎるなぁ。
面倒だからいいや。
「カカ、なにやってんだ?」
「あ、おじゃましてます」
サエちゃんは丁寧にお辞儀してくれたが、
「へいらっしゃい!」
カカは寿司をにぎるマネなのか、お客にゴマをすりたいのか、単に寒いだけなのか……両手をこすりながら威勢よく言った。
「何にぎりやしょう」
「……じゃ、ソバとか?」
「お客さん馬鹿だねー。ソバなんかにぎれるわけないじゃん」
「ラーメンはいいのか」
「いいんだよ。サエちゃんだから」
ひいきだ……
「で、お茶もってきたんだけどさ」
「ありがとうございますー」
「ん、ご苦労。そこ置いといて」
指差された場所にトレイを置いて、僕は改めて聞いてみた。
「それでさ、なにしてたの」
「お店屋さん劇場」
なんだ劇場って。どこにあるんだ。いや、ここか。
「つまりはごっこ遊びか」
「そうそ。トメ兄もやる?」
ふむ……僕がごっこ遊び卒業したのっていつだっけ? 思い出せないほど昔なのは確かだ。長らくそんなことやってないけど、たまには妹に付き合ってやるのもいいか。
「やるかな」
「トメ兄、いい大人なのに恥ずかしくないの?」
「やかましいわ」
「いいじゃないですかー。大人だって子供に戻りたいときもありますよね?」
なんで最近のガキはこうも悟ったようなことばっか言うんだろう。
「じゃ、トメ兄とサエちゃんお客さんね」
「ほいほい」
とりあえず僕とサエちゃんは一旦部屋の外へ出て、改めて客として部屋に入ることになった。
「ではいきましょー」
「へい、らっしゃい」
「こんにちわ、ここの席でいいか?」
「だめ。お客さんヨゴレだから」
汚れてるって言いたいんだろう多分。
「あ、おねえさんは綺麗だね。ここの席どうぞ」
早速サエちゃんをひいきするカカ。いいけどさ、実際綺麗だしこの子。
「おねえさん、年いくつ? 番号聞いてもいい?」
「いやん」
「口説いてんじゃないよそこの店員。さて、じゃあトロでもにぎってもらおうかな」
「お兄さん、うち、うどん屋だよ?」
「いつのまに店変わったんだよ」
「二人が店を出たときに。ちゃんと書いてあるでしょ」
「どこに」
「私の顔に」
見えねーよ。
「あ、私いくら丼食べたい」
「サエちゃん、ここは今うどん屋らし――」
「あいよ、いくら丼一トンはいりまーす」
そう言って後ろを向き、なにやら作業をするカカ。
「あるんかいくら丼。しかも一トンもかよ」
「サエちゃんの注文だもの。火星人だって仕入れてみせるよ」
すごいVIPだなサエちゃん。しかし食うんか火星人。見てぇ。
「ちなみにどこで仕入れるんだ?」
「裏の畑」
近いな火星人。
「あ、すいません、二トンでー」
「一トンじゃ足りないのかよ! ……じゃ、僕は普通のうどん一つ」
「ごめんねお兄さん。うち、うどん置いてないんだよ」
「うどん屋じゃないのかよ!」
「変更したの。私の顔に書いてある」
「本当に書いてやろうか……大体さっきから何をして」
唐突にカカが作業していた手を止めた。そして細かく切った赤色の紙を僕にふりかけて、っておい。
「さぁいくら丼です。どうぞ」
「僕が食われるんかっ!?」
「いただきます……ふふー」
「え、や、ちょっと、サエちゃん何そのエロティックな手の動きは」
「醤油かけますねー」
「はぁ、もう好きにしてく――ってそれ本物の醤油!? 待て、好きにするな! あああ」
こんな感じで、僕らは妙なお店劇場を楽しんだ。
ちなみに本当に醤油をかけられたかどうかは……言うもんかちくしょー。
うう。
これは泣いてるんじゃない。目に醤油が入って痛いだけさ……マジ痛ぇ。あ言っちゃった。