カカの天下668「サンタワールド展開中」
――カカサンタの部屋。鼻水ペア、サカイ&ユイナ。
ママでーす。
「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁー! 私はサエサンタの部屋に行くのー!」
「だーめです。ママとしては、末っ子の晴れ姿を見ないといけないんですから♪」
嫌がるサカイ君をずるずる引き摺って廊下を進んでまーす。ちょっと重いでーす。サカイ君、運動不足かな?
「わ、私だってー、たった一人の娘の晴れ姿を――」
「ああ、娘とクリスマスを過ごすなんて何年ぶりかしら」
「う……私だって結構なー」
「もしかして初めてかも」
「ぁ、あぅー。で、でもでもー、私だって一緒になってから初めての」
「愛する子供と年に数時間しか一緒にいられないこの辛さ……誰か、わかってくれないかな」
「わ――わかります! 私も子供とずっと離れてたからわかりますー!!」
「あ、わかる!? 一瞬一瞬が本当に大事なんですよね!」
「そうですそうですー、私は最近ようやく娘と一緒にいられるようになったんですけど、毎日毎日一分一秒が幸せでー!」
「じゃ今日くらいはいいですよね♪」
「……あぁぁぁぁぁぁー、なんかこの人に勝てる気がしなぃぃぃー」
ふふ、年長者をなめてはいけません。たったいま情に訴えようとしたのも、さっきサンタの部屋を決めるときにズルいクジにしようとしたのもお見通しです。そのときは先手を打って、逆に他のペアが他の部屋にいくように話の流れを変えて、阻止させていただきました。女優の演技力と洞察力を甘くみましたね♪
あ、ちなみにどういうことか詳しく説明しますと。私は女優です、演技が主な仕事です。演技するにはその役柄や役職をよく見なきゃいけないでしょ? それで培った洞察力を活かし、相手をよく見て、話の流れが思い通りになるように演技しながら喋ったというわけです!
「あ、ここだね。『カカサンタの部屋』って書いてある扉はっけーん」
「ううー、楽しそうですねー、まー私もカカちゃん好きですからいいですけどー」
扉で血文字みたいに殴り書きされているそれを楽しく眺めたあと、私はウキウキしながらその部屋へと突入しました!
「メリーメリークリスマス!!」
出迎えてくれたのはカカ君サンタの声。そして――大きなケロリンがいっぱい。大人の身長より遥かに背が高いケロリンもいる、これは人形? 違う、公園によくある遊具みたいなものかな。太ったケロリン型のジャングルジム、キリン型のケロリン滑り台もあるし、蛇型ケロリンの平均台や豚型の洞窟みたいなケロリンもいるし……あれ、ケロリンって何の生き物だっけ。
「さて課題です!」
ウシ型ケロリンの上で仁王立ちしたカカ君サンタは、可愛いサンタ服を揺らしながら楽しそうに宣伝した。
「鬼ごっこ! 私を捕まえなさい!」
「え? え? えー?」
「あは、いきなりなになに?」
「捕まえたらプレゼントをやろう!」
おお、そーゆーことか!
宣言すると同時に走り出すカカ君! このケロリンたちの間を駆け回るカカ君を追いかければいいんだね。
「ほらサカイ君、追いかけよう!」
「えー、だるいですー」
「プレゼントがほしくないんですか?」
「んー、サエのじゃないから別にー」
「これサエちゃんが用意したもんだよ」
「サカイミエ本気モード!!」
おお? お母さんパワー発動か!
猛然とダッシュしたサカイ君、慌てて豚型ケロリンの洞窟に潜り込むカカ君!
サカイ君はなんと、その豚の腹を蹴り上げた!? 揺れた洞窟にビックリしたのか、慌てて出てくるカカ君、そこにサカイ君が猛禽類のごとく飛び掛かる!
「うぁお!?」
その形相に恐れをなしたのか、カカ君は腰が抜けたかのように身を落とした。振り下ろされたサカイ君の腕は空振り、近くのケロリンの身体を爪で削り取る。
「こ、殺す気!?」
さらに襲い掛かってくるサカイ君に、さすがのカカ君も逃げることを諦めたのか迎撃を試みる。けどサカイ君の方が早い!
早い!
早い!
スタミナ切れるの早い!
「ちかれたー、あしいたいー、おれたー、つめいたいー、はがれたー」
パタリコと倒れたサカイ君はゴロゴロしながら泣いて唸り始めた。もちろん足は折れてないし爪もはがれたわけでもない。
「歳だわー……」
む、私より十歳以上若いくせに軟弱な。
「はー、はー、死ぬかと思った。この人、娘のこととなると人の限界超えるわ」
カカ君、母親ってそんなもんだよ。多分ね。
「さてさて、次は私の番だねー」
「お、お母さんはこんな風にはならないよね?」
「さーねー。ではではいきますぞ」
そこから先の展開は詳しく話したくないかな。
だって恥ずかしいんだもの♪
別にサカイ君みたいなアブナイ暴走はしてないよ?
ホントだよ?
むむ、そんなに疑うなら少しだけ見せてあげよう。
「まてまてー」
「捕まらないよー」
「あはは、こいつぅ」
「やーん」
ニコニコ顔で平均台で追いかけっこしたり一緒に滑り台する私たち。ほら恥ずかしい。
でも最後には。
「おいでカカ君♪」
「はーい」
おとなしく自分から私の胸へと飛び込んできてくれました。
そしてもらえたプレゼントは、一枚のカード?
書いてある文字は『そのいち。おいかけっこ』と、それだけ。
「あらー? 裏に何か書いてありますよー」
おや、寝転がっていたサカイ君だからこそ気がつけた盲点だね。
どれどれ、裏には……『と』って、大きく書いてある。
これだけ?
「ねーねーカカちゃん、サエが用意したプレゼントはー?」
「これサエちゃん直筆」
「ならよし」
いいんだ……
あれ? でもこれ、どういう意味なんだろ。
「お母さん、こっち」
「え?」
――サエサンタの部屋。鼻毛ペア、カツコ&テンカ。
『おー……』
よ、テンカだ。
廊下を進み、『サエサンタの部屋』の部屋に入ったオレたちだが……姐さんと一緒に呆然としてしまった。
「ジャングルだ! ウホッ!!」
やはり野生の血が騒ぐのか、姐さんが雄叫びをあげる。そう、ここはどう見てもジャングルだった。一室の各所に置かれた植物、というか木、木、木!! そして部屋の真ん中には、最近サカイさんちに住み着いた動物の皆様。
「めりーくりすますー」
その中心に動物女王のように君臨してるのがサエ。アマゾンの奥地にでもありそうな光景の中で、サンタ服が異様に似合ってねぇ。
「めりくりです!!」
そしてサエサンタの背後からピョコっと顔を出したのは、クララだったな確か。こいつもチビッこいサンタ服姿だが、妙に所々キラキラしてるのはなんでだ? まぁいいか。
「んでサエ。プレゼントをくれるという話だったが?」
「はい。私の出す問題に正解することができたらプレゼントをあげますー」
ほう、そういう趣向か。生徒が教師に問題たぁおもしれぇ。
「いいですかー? では問題です、今から総理大臣がモノマネをしますので、何のマネか当ててください」
……ネコが、モノマネだぁ?
「じゃークララちゃん、お願い」
「にゃーにゃー!」
まるで総理大臣に話しかけるかのように言うクララ。まさかな?
「ハイ! おねーさんわかっちゃった! ネコのモノマネだ!」
「姐さん、話聞いてないだろ。クララじゃなくて、ネコの総理大臣がやるモノマネを当てるんだよ」
ほら、ちゃんと見ろよ。総理大臣が指示に従って……
「ニャーニャー」
従っ……って……
「ニャーニャー」
「さぁテンカ先生! 総理大臣は何のマネをしているでしょうかー!?」
「……ネコのマネ」
「ぶー」
わかるかああああああああああ!!
「もー、先生こそ私の話聞いてないんじゃないんですかー?」
「そーだそーだ、あたしと一緒じゃん」
「はっきり聞いてるし総理の声も聞こえてるが、それをネコ以外の何と見ればいいんだ!?」
サエはやれやれ、とため息をつきやがった。
「ダメですねー、正解は『犬のマネ』です」
「……どこがだ?」
「ちゃんと『わんわん』って言ってるじゃないですかー」
「どこがだ!?」
「ネコ語で」
「わかんねーっつーの!!」
「もー。苦労したんですよ、芸を仕込むの。犬のポーズまでしてるのに」
どっちも似たような四足動物だろが。
「ちゃんとマジメに考えてください」
ぐぅ……動物に言葉を仕込む? アホらしい、が、ここはきちんと子供の話を聞いてやるのが教師としての勤め……
「次は日本経済、どぞー」
「モーモーです!」
再び牛に話しかけるクララちゃん。そして、
「モー、モー」
案の定モーモーしか言えない美味そうな食材。
「くそぅ……アレはなんのマネなんだ」
「何ってテンちゃん、牛のマネじゃないの?」
「アホか姐さん。さっきはその考え方で失敗したんだろが。さっきのが犬のマネをするネコなら、今回は……」
待てよ、ここにいる動物を見てみろ。ネコ、犬、豚、牛、山羊だ……前来たとき山羊なんかいたっけ? まぁいいや。この面子で、さっきはネコが犬を演じていた。一般的に対に考えられている動物同士だ。同じ思考でいくならば、牛肉の対は豚肉!
「わかった! 豚のマネだろ!?」
「答えは『牛のマネ』です」
「ほらー! あたし合ってたじゃん」
「帰っていいか!?」
こんなもん国家試験より難しいわ!
「まーまーテンカ先生。カンで言えば当たるかもしれないじゃないですかー」
「……じゃあ、次の問題出してみろよ」
今度はラスカルとかいう犬が出てきた。
「ワン! ワンワン!」
……わからねぇ。
「さぁ先生、答えは?」
「どう思うよ、姐さん」
「総理大臣じゃないかな?」
「あのネコか、さすがに同じような答えはやらないだろう……いや、腹黒いサエのことだ、ありうる」
ここは姐さんに賭けよう!
「答えは、『ネコのマネ』だ!」
「ぶー」
やはり違ったか……
「答えは『総理大臣のマネ』でしたー」
「は? いや、それ合ってるんじゃ」
「んーん、ラスカルは『日本の国の経済社会情勢は厳しい状況でありますが、日本としては、日本の国にふさわしい、外国で困難に陥っている国々、あるいは災害によって被災を受けて窮乏している被災民の方々に対して、できるだけの支援活動をしていきたいと思っております』って言ったんだよー」
「帰る」
やってられっか。
「待って待って待ってー!」
その後、すったもんだのあげく。
なぜかは知らんが、姐さんの答えをそのまま言えば問題のことごとくが正解だったことに気づき、任せると一発で正解した。
どこをどうしたら『カカのマネ』をする豚を見分けられるんだ。わけわからん。
ともかく、そんな苦労をして手に入れたプレゼントは、一枚の紙切れのみ。
書かれているのは、『そのに、クイズ』という言葉だけ。
「むむ、その裏にも何か書かれている気がするわ!」
「おお? ほんとだ。なんでわかった姐さん」
「なんか受信した」
あんたほんとにナニモンだ。
それはともかく、書かれているのは……『が』という大きな文字だけ。なんじゃこりゃ。
「はいはい、本番はこれからですよー」
「あん? サエ、っとと、押すなよ」
「なにかにゃなにかにゃ、うはは」
オレたちはどこへ連れてかれるんだ? お、おい――
まずは小手調べだ。
と三人の部屋の様子を書くつもりが、二人で手一杯だったぜぃ。でもクリスマスは明日だぜぃ。だから明日で完結させるぜぃ。
長くなりそうだぜぃ笑
とりあえずメリークリスマス・イブ!!
本番はここからだ!




