カカの天下661「やぁやぁ皆様、今宵は冷えますね」
とてもとても寒い夜。
外は当然、屋内も冷えきっています。温かいはずのお布団は冷たすぎて、逆に体温を奪うでしょう。
さてさて、そんな中。
彼女たちは、どうやって過ごすのでしょうか?
ちょっとした夜の出来事を覗いていきましょう。
覗きは犯罪です。
だからどうした。
というわけで、まずはカカちゃんの部屋を覗いてみましょう。
「さむっ!!」
ついさっきまで温かい居間でのんびりしていたため、ひんやりとした自分の部屋に入った瞬間にカカちゃんはそう言わずにはいられませんでした、
「むぅ……」
布団を触ったカカちゃんは、その冷たさに思わず唸ります。布団を被らなければ寒い、しかし布団が温まるまでこの冷たさを我慢しなければいけません。居間へ戻ろうにも、すでに就寝時間。コタツで眠るとお兄さんに怒られてしまうため、それも却下です。
「よし」
そこでカカちゃんは新たな選択肢を思いつきました。
部屋を出て廊下をしばらくトットット、と飛び跳ねながら歩きます。少しでも身体を温めるためです。無駄な努力です。
やがて見慣れた扉の前で立ち止まったカカちゃんは、ノックもせずにその部屋へと突入しました。
「トメ兄!!」
そこには衝撃の光景が!!
「なにさ」
――何もありませんでした。お兄さんはベッドの上で布団をかぶり、今まさに眠るとこだったのです。つまらないです。この男はコメディというものをわかっていませんね。期待はずれです。凍え死ね。
「……なんだか、誰かにひどいことを言われてるような気がする」
「トメ兄、寒い」
「んあ? そりゃ冬だもん。寒いに決まってる」
「だからトメ兄」
「まさか一緒に寝たいってか? そりゃ二人で寝れば温かいだろうけどさ、おまえももう小さい子供じゃないんだから――ってなぜツカツカと問答無用で寄って来るのさ」
「てりゃ」
カカちゃんはお兄さんをベッドから転げ落としました。
「んが! 何する!?」
ベッドから落ちたお兄さんは怒ってカンカンです。だからどうした。
「おー、やっぱ温かい。人肌ってすごいね」
お兄さんの体温でぬくぬく状態になった布団に入り、カカちゃんはご満悦です。
「……おい、カカ。そこ僕のベッドなんだけど」
「今日だけベッド交換しよ」
「おまえのベッド小さいだろ? あぁもう、わかったよ。一緒に寝よう」
「何言ってるのトメ兄。小さい子供じゃないんだから一人で寝なさい」
「てめっ……!」
言ってることはもっともであり、お兄さん自身もカカちゃんの自立は良い傾向だと思っているので言い返せません。ざまぁ。
「……ち、わかったよ。今日はそこで寝ろ」
「おやすみー。私の布団は好きに使っていいよ」
「はいはい」
そう言いつつ、「もう小さい子供じゃないんだから」と先ほど発言した手前、小さくない女性(自称)である妹の布団を使う気になれなかったお兄さんは……結局コタツで眠ることにしました。
そして翌日、カカちゃんに「コタツで寝ちゃダメって言ってたくせに」と怒られることになるのです。ざまぁ。
さて、次はサエちゃんの家を覗いてみましょうか。
何度も言いますが寒い夜。自分の布団を目の前にして、サエちゃんは顎に手をあて考え込んでいます。
「んー……どうしよー」
説明しましょう。サエちゃんはお母さんと一緒に寝たいのです。最近ようやく共に住むようになってからお母さんに甘えまくってきたサエちゃん、その調子で今夜も……そう思ったのですが。
「恥ずかしー」
小学五年生、少しずつ自我が芽生える時期です。もう小さくないのに母親と一緒に寝てしまっていいものなのだろうか、と悩んでいるサエちゃんなのでした。端から見ればサエちゃんは小さくて可愛すぎるお子様にしか見えないので問題ないと思うのですが、本人からするとやはり気になるところなのです。
「よーし」
そこでサエちゃんは思いつきました。
お母さんがまだ仕事部屋にこもっているうちに……お母さんの寝室を冷房でさらに冷やします。そして氷を詰めたナイロン袋をベッドに入れて冷やしまくります。
ただでさえ冷たい部屋が極寒になったところで、サエちゃんは証拠隠滅して撤収しました。
やがて、お母さんの仕事が終わるころ。
「サエー! 今日は冷えるのー、すごい冷えるのー、嫌がらせのように冷えるのー、だから一緒に寝よー」
計画通りに事が進み、サエちゃんはニヤリと笑うのでした。
……いいえ。
ニコニコと、天使のような笑みを見せるのでした。
可愛いなーコンチクショウ。
こほん、さて、最後はサユカちゃんです。
寒いながらもベッドに入ったサユカちゃん。徐々に温かくなっていく布団……しかし。
「まだ寒いわね……もっと温かくならないかしらっ」
この家にはみかんという室内犬がいるのですが、布団が抜け毛でスゴイことになってしまうからという理由で一緒に寝てはいけない決まりになっています。とても温かいのですが……
「よしっ」
そんなわけでサユカちゃんは、別の策に出ました。
「トメさんと一緒に寝よう」
トメ二号〜三十号、と名づけられただけのタダのぬいぐるみが、布団の上にズラリと並びました。
「これだけ一緒に寝れば温かいわねっ」
数分後。
「寒い……まだ足りないわっ!」
トメ三十一号〜八十号、と名づけられただけのタダのぬいぐるみが、さらに布団の上にズラリと並びました。
「わーい、これでトメさんがいっぱいだわっ」
さすがはぬいぐるみ、これで布団もぬくぬくです。
「トメさん温かい……っ」
サユカちゃんは泣いていました。
「でも虚しすぎて心がとても寒い……っ」
ご愁傷様です。明日にでもトメさんに会って色々な成分を補充してください。
さて、長々とお付き合いいただきましたが、そろそろお開きとさせていただきます。
はて、私が何者か、ですか?
ふっふっふ。前回、このようなナレーションで話が始まった話を覚えてますか? 今回の話の冒頭を読んで、ピンときた人、さすがです。
実はですね、私は――それとは無関係なタダのナレーションです。残念。では。
おまけ。
カツコの場合。
「あー寒い! 寒っ!! こんなんじゃ布団に入っても寝られやしないわ!」
三秒後。
「ぐー」
いつもとは違った趣向でいってみました。
寒くて眠れないとき、あなたならどうしますか?
人の温もり……一番の睡眠薬ですよね。
はぁ……
た、ため息に意味なんかないんだからね!!