カカの天下658「四者四様」
こんにちは、カカです。
今ですね、サエちゃんサユカンと三人でクリスマスの練習をしているのですが……どうにもうまくいきません。
「どうすればいいんだろうねー」
「テレビの通りにやってるのに、うまくいかないわっ!」
もう一度振り返ってみると……
「えっと。くるりんくるっと回るステップ、止まりかけておっとっと。恥ずかしそうに照れて笑って、右手で可愛く頭をコツン。気を取り直して深呼吸」
「んとー、『いくわよっ』って叫びながらスキップで進んでー、シュタッとポーズー」
「ウインクしながら、『あなたに私をプレゼント!』でいいのよねっ」
うーん、間違ってはいないはず、なんだけどなぁ。
あ、いきなりごめんね。わけわかんないよね。
私たちがやってるのはね、CMでお母さんがやってる動きなの。サンタ姿のお母さんがこんな可愛いアクションした後に、指でバッキューンって画面から撃ってくるんだよ。やられるよね。悩殺だよね。むしろ自分をプレゼントしたくなるよね。
「何かが違うのよねっ!」
「でも違いがわからないねー」
「んー」
そして私たちはその動きを練習中。クリスマスに計画してるコトに使うためだ。
「じゃ、他の人がやってるの見てみよっか」
と、いうわけで。
「エントリーナンバー、一番。トメ兄!」
「なんだなんだなんだ?」
「いいからこれやってくださいー」
「へ? はぁ!? これって母さんの――おいおいマジか」
問答無用でスタート。
くるりんくるっと回るステップ――
「えっと、くるーっと」
遅い! おりゃ!
「うえあうえ!?」
コマのようにぐるりんっと振り回し、いい感じな回転がついたトメ兄。そこで止まりかけておっとっとだ!
「とぁっとっと!」
そこでセリフ!
「い、いくわよ」
次はスキップ! らんらんらーん、と!
「ら、らんらんらーん」
「もっと可愛く!!」
「らんらんらーん♪」
「キモ」
「おまえなぁぁぁぁ!」
「いいから続き!」
「くそぉ……シュタッ!」
ポーズを決めて、ウインクして、
「あなたに僕をプレゼント」
指でバッキューン。
ズッキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
……はて。
いま、トメ兄の指からの発射音と同時に、ものすんごい着弾音が聞こえたような。
「ぷしゅー」
「サユカちゃんが悩殺されたー」
「あれま、ほんとだ。幸せそうな顔しちゃって……いいプレゼントもらったみたいだね」
「夢という名のプレゼントだねー」
「お、サエちゃんいいこと言った」
「……なぁ。結局、僕がここまで恥を捨てた理由は?」
「次いこか」
「そだねー」
サユカンひきずってこ。ずるずるずる。
「おい? おまえら、おーい?」
続きまして。
「エントリーナンバー、二番。お姉」
「ほむほむ? 母さんのマネっこか、よしきた!」
本物のコマのように高速回転してビタッと止まり、「いくわ!」と軽々スキップ開始、加齢に、じゃなくて華麗にシュタッとポーズを決めて、ウインクしながらバッキューン!!
「あんたにあたしをプレゼント!!」
「いらないですー」
「ちょっとサエちゃん!? あんまりの言葉にさすがのおねーさんもびっくりよ!!」
「あははー、つい」
気持ちはわかる。誰も家に核兵器なんか置いときたくないだろう。バッキューンどころかカッ! チュドォォオォォン!! って感じだし。
「それにしても完璧すぎて可愛くないね」
「わたしもこれはいらないわ」
「サユカちゃんも言うねー」
「でも、私たちには無い何かがあったと思う」
「物理的な破壊力じゃー?」
確かにあの高速回転に巻き込まれたら吹っ飛ばされそうだけど。
「次いこう」
さらに続きまして。
「エントリーナンバー、三番。キリヤン」
「ふ、お任せを」
くるりんくるっと回るステップ。すらりと伸びた手足が美しい。
しかしストップにしくじり、おっとっと。「私としたことが、お恥ずかしい」と頬を染め、甘い視線で微笑んだ。
「いざ、あなたのもとへ」
囁きながらダンスのように優雅なステップ、そして忠実なる執事のように跪き、
「私の全てはあなたのもの、どうぞお好きに」
キラーンキラリーンと無駄に輝く瞳と歯でダブルフィニッシュ!!
「や、改造しすぎ」
「でもとてつもなく格好いいねー。ほら、周りを見て? 女性の方々の心をまとめてズッキュゥゥゥン! って感じだよー」
「おお、さすが色男。サユカンどう思う?」
「ま、なかなか」
さすがだ。トメ兄以外は眼中にないのね。こっちのがよっぽど格好いいと思うんだけど。
「満足していただけましたか?」
「んむ、くるしゅーない」
「よかった。それでは仕事に戻らせていただきます」
すごいよね。何がすごいって、仕事中にこれをやることが。
「サインください!」
「はっはっは、お客様。そんなものよりデザートはいかがですか?」
あの人、ホントすごいよね。さて、最後に行こうか。
ラスト!
「エントリーナンバー、四番。トウジのおっちゃん」
「おい、カカの嬢ちゃん。ちょっとこいつぁ、いくらなんでも……」
「だって近くにいたから」
「いや、そりゃうちでバイト中のキリヤに会いにきたんなら、俺も当然いるだろよ」
「やってくださいっ! 見たいですっ」
「減るもんじゃないですしー」
「待て、俺の尊厳とか色々と減るものが」
「私たちのは減りませんしー」
「オイ」
「ねね、トウジのおっちゃん。ごにょごにょごにょ」
ちょっとした切り札発動。
「ぐぐぐ、仕方ねぇ、俺も男だ!」
ふ、ちょろいぜ。
「おっちゃん、お願い!」
「おうよ!」
おっちゃんが動く!
あらよっと! とぐるりと回転。
歌舞伎のポーズで片足おっとっと、たたらを踏んで、
「いくぜぃ」
がに股でのっしのっしと歩いて止まり、ドスンとシコ踏みはっけよい!
「のこった!」
「や、そこセリフ違うから」
「おぉ悪りぃ。ついな」
「でも、すごく男らしい動きだったねー」
「だろう? 惚れたかサエ嬢ちゃん」
「私があと五十年、歳をとってればー」
「サエすけ、それ褒めてないわよね?」
ともかく。
「ありがとう皆! おかげで私たちに足りないものがわかったよ!」
「おおー、本当なのカカちゃん!」
「なによ、わたしたちがこの動きをするにあたって、足りないものって!?」
「身長」
どうしようもねぇ。
まだまだクリスマスの準備は考える余地がありそうだ。
カカたちは何をしようとしているのでしょうか。
謎です。
この大人たちはいい歳して何をしているのでしょうか。
とても謎です。