カカの天下657「今日のカレーは黒い味」
もぐもぐアヤです! もぐもぐは苗字じゃないわよ!
いま給食中なの。すっかりお馴染みになったメンバー、私とニッシー、インドちゃんとイチョウさんの四人で仲良く食べてるわ。ご飯にはもちろんインドちゃんのカレーね!
「……ねぇ、インドちゃん」
「は、はい?」
「もしかして、何か悩みでもある?」
びくり、と身体を震わせたのを、私は見逃さなかった。
「ど、どうして、そう思うの?」
「カレーの味が落ちてるわ」
ほらまた。ビクッとした!
「何かあったんでしょう」
なんて悲しそうな顔で俯くのかしら。
「ほら、顔をあげて」
きっと、すごく切ないことがあったのね。
「私が話を聞いてあげるから、ね? 話してみて。何があったの?」
「今日のカレー……自信作だったのに」
「普通にごめん!!」
私が原因だったの!? そりゃ自信満々のカレーが美味しくないなんて言われたら悲しくなるわよね……うぅ、いつもと味が違うと思ったら、予想と逆だったのね……
「味が高尚すぎてアヤ坊の口に合わなかったんだよ、な?」
「失礼ねニッシー! こう見えても私はたまにフランス料理のお店に連れてってもらってるのよ。この私の舌のどこが高尚じゃないと」
「高尚じゃなくて……ごめんね……」
「ああああああ」
そんなつもりじゃなかったの! うう、天邪鬼な自分の性格が憎い!
「せっかくニシカワさんがフォローしてくださったのに。それくらいきちんと感じ取らなければ、ラブラブカップルになどなれませんよ?」
「なるつもりなんかないわよ、そんなもの!」
「まぁ、ではラブラブバカップルに? 友達としては嬉しいやら目ざわりやら」
「……イチョウさん、キャラ変わったわよね」
「あぅ!? や、やはりそうでしょうか。なにやらサエ様を崇拝しているうちにブラックな面が生まれた気がしていたのです」
ブラックイチョウって感じかしら。なんだか語呂が悪いわね……
黒イチョウ。
黒い腸、嫌ね……リアル腹黒にも程があるわ。
じゃあ、黒い蝶。
なんか怖いわっ!!
「ねーねーイチョウさん。なんでサエちゃんを崇拝してんのさ。僕、その話題知らないんだけど」
む、ニッシーいいとこ気づいた。私も知らないわね。
「え、ええと……言えません!!」
「なんでよ?」
「十八禁なのです!!」
『おいおいおいおい』
思わず声を合わせてしまう私とニッシー。
「あ、今のは結構バカップルのようでしたよ、お二人とも」
「あのね」
「わたくし羨ましいですわー。あらインドちゃん、どうしたのですか? やはり何か悩みでも?」
イチョウさん……逃げてるわね。
「あ、あの……あのね」
う、でもインドちゃんが口を開いたわ。さっきは失礼なことを言った手前、こっちを優先しないと。
「あの……タケダ君のこと」
「なるほどタケダか!」
「タケダのことね!」
「タケダさんのことだったんですね!」
私たちが脳裏に浮かんだ話題は一つだけだったわ。
『誰だっけ』
「……むぅー」
「ごめんねインドちゃん! ほら、タケダといえばこういう扱いだから!」
「……むぅー」
「ほら、僕なんか特にあいつとは憎まれ口を叩き合う仲じゃん? だから許してくれよー」
「……むぅー」
「ええと、インドちゃん。タケダさんって男子でしたっけ女子でしたっけ」
「……イチョウさん嫌い」
「あああごめんなさい! わたくしもたまにはこんなお茶目をしてみたかったのです!」
最近多いよね、イチョウさんのお茶目。お茶目っていうか単なる毒舌のような気もするけど。
「よし、今度からイチョウさんが毒舌になるときは『黒い蝶、降臨!』って感じで盛り上げていこうか」
「にににニッシー!? あんたどこまで私の心を読んでるのよ!?」
「アヤ坊の考えてることなんて大体わかるよ」
「に、ニッシー」
ちょ、ちょっとドキッとしちゃったじゃないの。
「だって大体は声に出てるから」
「うっそぉぉぉぉぉぉぉ!?」
ドキッどころかギクッって感じよ! なに、そんなに声に出してた!? き、気をつけないと我が身を滅ぼしてしまうわ!
「大丈夫、イチョウさんには聞こえてないから」
「ほっ……って、本当でしょうねニッシー」
「じゃあその証拠に。ねぇ、イチョウさん!」
「はい? なんでしょうかニシカワ君」
「黒い蝶ってどう思う?」
直球!
きょとんとするイチョウさん。やっぱり聞こえてなかったようね。よかったぁ。
「はぁ、なにやら暴走族のような印象を受けますわね。わたくしのだいっ嫌いな」
聞こえてなくて本当によかったぁぁぁぁ! イチョウさん怒ると怖いし!
「ねぇねぇアヤ坊」
「なによニッシー、そんな小声で」
「やっぱり『黒い蝶、西から降臨!』ってことでもいい?」
「なんでもいいわよ!!」
そんなことより大事なことがあったわ!
「インドちゃん!」
「は、はい?」
私とニッシーが取り込んでいる間、イチョウさんに慰めてもらっていたインドちゃんはまたもや身体を震わせた。ここまできたら寒いだけなんじゃないかとも思うわ。
「タケダに言いたいことが言えなくて悩んでるんでしょ?」
「う、うん」
「言いたいことを言う勇気がないと」
「……そう」
「この前、サユカに立ち向かっていったじゃない? あの勇気はもうなくなってしまったの?」
「……!」
「あのときみたいに、私たちが見守っていてあげる。だから、ね? 勇気を出して。あのときのように」
「……うん!」
「よし、じゃあ早速タケダのところへいきましょう!」
立ち上がる私たち!
ふう、うまくまとまったわ。色々あったけど終わりよければ全てよし! これにて一件落着ね!
「た、タケダ君!」
「む? どうしたのだねノゾミ君」
「え、えーい!」
「ぐわああああ!」
「ちょ、なんでカレーをぶん投げてんの!?」
「確かにあのときと同じだ」
「で、でも、ええと……お似合いですよ!」
黒い蝶さん、それフォローになってませんよ。
「君たち……」
カレーまみれのタケダを見て、インドちゃんは大いに嘆く。
「わ……私が殺したぁ!!」
脱兎のごとく逃げ出すインドちゃん。
終わりよければ全てよし、のはずだったんだけど。
「オチがついたからいーじゃん」
「それもそうね」
「おい、俺は……?」
『お似合いですよ』
このハモり具合、私とニッシーはやはり名コンビだと思う。
「お、お二人とも、そのようなことを仰っては失礼かと」
あんたが言うな。黒い蝶。
イチョウさんが順調に毒舌キャラ化してます。
黒い蝶といってもサエちゃんとはまた違います。あの子は腹黒いだけで口は悪くありませんから。多分。
とりあえずタケダにカレーをぶっかけてほしいとのリクエストがたくさんあったのでやってみました。
タケダカレー、どうぞ召し上がれ。
私はいらんが。




