カカの天下637「カカとしりとり、レベル4」
「しりとりしよう」
「おう、いいぞ」
こんにちは、トメです。
今日も今日とて特になんでもない日。居間でのんびりしてるとき、ふと思いついたように呟いたカカの言葉から、しりとりをすることになりました。
「普通のしりとりか?」
「や、それはおもしろくない」
やっぱりか。
「今日のしりとりはね、動きでするの」
……なんのこっちゃ。
「例えばね、トメ兄がしりとりで、『ゴリラ』って答えようとするでしょ」
「ふむ」
「そしたらトメ兄はゴリラの物真似をするの。うほうほーって」
「ほう」
「で、真似をするだけで、答えが『ゴリラ』ってことは言わないの」
「……ん?」
「それで、私がそれを『ゴリラ』って当てることができたら、私の勝ち」
「おい」
「私がわからなかったらトメ兄は答えを言って、次は私が『ラ』から始まる答えを考えるの。『ラッパ』ならラッパの真似をして、トメ兄がそれを当てることができたら勝ち。これの繰り返し。どう?」
どうもこうも……
もはやしりとりじゃないし。
「でも……暇だし、それでいっか」
「よーし。まずは私がやるから、当ててよ?」
「わかった」
二人して立ち上がって向かい合う。要は、カカが何の真似してるか当てればいいんだよな。
「まずは定番、しりとりの『り』から始まる言葉ね」
「おっしゃ」
「いくよー」
カカはその場にしゃがみ込んだ。
「……え、それだけ?」
「うん」
しゃがみ込んで、丸まってるだけだぞ。
え、これ、なに?
「わからん」
「ギブアップね。正解は『りんご』だよ」
「わかるか!!」
「え、だって丸まってたじゃん」
「この世に丸いものがいくつあると思ってるんだ!」
「いいからいいから。次はトメ兄の番だよ。りんごの『ご』ね」
むぅ……や、逆に考えよう。とてつもなく当てにくいのは向こうも同じ。だらだらと続けるには最適の暇つぶしじゃないのか、これは。
「えーと」
ともかく『ご』だな。『ゴリラ』はさっき例に出したからつまんないし……よし。
僕は背筋を伸ばしたまま腰を曲げて、壁に背をつけ、寄りかかる。足も伸ばしたままなので、僕の身体は『く』の字のまま壁に押し付けられた。
「……それだけ?」
「おう」
「ご……ご……ご?」
ごごごごご。
特に空気が重みを増しているわけでもない。カカの背後のイメージである。なんかこう、漫画的に『?』マークと一緒に『ご』って文字がいっぱい浮いてるみたいな感じ。
「ごー……降参!!」
「答えは『五時』だ」
時計の針な。
「わかるかー!!」
そうだろうそうだろう。さっきの『りんご』もそうだった。レベルたけーよこれ。
「ほれほれ、次はカカだぞ」
「よーし、絶対わかんないかんね」
カカはその場に座り、ついさっきまでしていたように、ズズズとお茶を飲み始めた。
「あれ、しりとりやめたのか?」
「やめてないよ」
ということは、これが答え……でも、いつも通りだし……
「降参」
「ふ、『じじい』だよ」
「いつも通りじゃないか! いつもじじいなのかおまえは!」
「トメ兄だって似たようなものでしょ!」
く、のんびり緑茶をすすって「はー極楽」とか呟くのがじじくさいというのならば、反論はできん……
「次トメ兄ね! 今度は当ててやる!」
「よし、『い』だな」
僕はその場で立ったまま、じっとしていた。
それだけである。
「……え、しりとりやめたの?」
「やめてないぞ」
「え、でも何もしてないし……むー、い、い、い、い」
いいいいいいいいいいいいいい!
変な鳴き声。あ、別にカカがこれ叫んだわけじゃないよ? カカの背後のイメージね。
「わかんない!! 答えは!?」
「『息』」
「わかるか! いつも通りじゃん!」
や、だってねぇ。仕方ないじゃん?
「じゃあ私だね、これはどうだ――」
一分後。
「わかったぞカカ、それ『吸血鬼』だ!」
「ぶっぶー! 答えは『キシャァァ!』だよ!」
「擬音とかズルくね!?」
数分後。
「わかったよトメ兄、それ『待ち合わせ』でしょ!」
「ブー。『間に合った』でした」
「似たようなもんじゃん!」
「さっきのおまえの『貝』と『牡蠣』だって似たようなもんだっただろ!?」
一時間後。
「……なにやってんの、弟と妹よ」
対決中に姉が訪問してきた。
そのときの僕らはすでに順にやるのが面倒になっていて、互いに同じ頭文字の動きを見せ合っていた。最初に当てたほうが勝ちだ。
僕はかっちんこっちん動き、カカはタコみたいな口をしながらくるくる回ってる。
「……もう一度聞くけど、なにやってんの?」
「いま勝負中!」
「ねぇお姉、私たちのこれ、何に見える?」
「ばか」
姉に言われた!!
「違うの! 『す』から始まる言葉!」
「すごいばか」
姉に言われた!!
「違うよ!!」
「そうだ、違うぞ姉!」
「……じゃ、なにさ」
「僕はするめイカだ!」
「私は酢飯だよ!」
「どこが」
「するめイカってかたいから、硬い動きしてたろ」
「酢飯ってすっぱいし寿司にも使われるから、すっぱい顔して握られるっぽい動きしてたでしょ」
「やっぱあんたらすごいばかだ」
姉に言われた!!
でも、仕方がない気もする。とりあえず暇は潰せたのでめでたしめでたし。
地味に長く続いているしりとりシリーズ、四話目です。
ええ、もうしりとりかどうかあやしいです。
でもまー単なる暇つぶしですのでね。
――お客さん、もしお暇で相手がいるなら、やってみたらどうっすか?




