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カカの天下  作者: ルシカ
634/917

カカの天下634「何がない」

 トメでーす。


 今日は例によってカカたちは学校帰りに遊んでくるそうで。一足先に帰った僕はせっせと夕飯の用意をしています。


「んー……また腕あげたな、僕。これは美味い」


 鍋の中の秋刀魚の味噌煮を一口つまんだ僕は自画自賛した。やはり味噌が決め手だな。といっても白味噌と赤味噌を適当に合わせただけのものだけど。


「カカ喜ぶかな……」


 僕が不覚にも恥ずかしいことを呟いたそのとき。唐突にバタン! と玄関のドアがぶっ壊されそうな勢いで開いた。


 そしてズンズンのっしのっしアンギャーとばかりに騒がしくこちらに向かってきたのは言うまでもなく、


「トメ兄! 聞いてよ!!」


「ただいまがないぞ」


「ただいま聞いてよ!」


 ただいまの意味が変わってるような……ま、いっか。


「さっきね、私ね、うらないしてきたの!」


「占い? そんなことできたっけ、おまえ」


「誰だってできるよあんなの!」


 ふむ。


「なんでおまえはそんなに怒ってるんだ」


「そうそうそれだよ私が言いたいのは! さっきさ――」




「ねぇねぇ八百屋さん、これください」


「売らない!!」


「売れよ!! ってなんだこの女の子!」




「ね!?」


「何が『ね!?』なのかはさっぱりわからんが、確かに誰でもできるうらないだ」


 そして誰もやらないうらないだ。ていうかやろうと思わないだろうに。


「つーかさ、なんでカカが八百屋さんやってるのさ」


「この間さ、買い物に行ったときに対応が悪かったんだよ。だからお手伝いして立て直してあげようかと」


 なんつーでしゃばりな小学生だ。


「でも売らないなら手伝ってないじゃん」


「特別企画って売れるんだよ? だからうらない。売るための売らないだよ」


 この娘の思考回路は相変わらずどっか飛んでいる。


「それで、続きは」


「そうそう、あのね――」




「まったくもう、手伝うならちゃんとやってくださいよカカちゃん」


「ごめんよおっちゃん」


「可愛いから許します」


「そんじゃお客さん待とっか」


「ええ、そうですね」


「いらっしゃい! いらっしゃい!」


「いらっしゃいませー!!」


「…………」


「…………」


「売れない!!」


「大きなお世話です!!」




「って怒られたんだよ! ひどいと思わない?」


「たしかにとてもひどい」


 おまえがな。


「そもそも占いの意味わかってないだろおまえ。でもそれであっさり引き下がるのは、カカにしては珍しいな」


「うん、今朝の占いで『しつこいのはいけない』って言ってたから」


 ああ、意味はわかってるのね。じゃーなんでそんな――と聞いたらきっと『うらないと占いは違うんだよ』とか言い出しそうだなぁ。わけわかんないなぁ。いつもこうだなぁ。なんでだろうなぁ。父親が悪いんだなぁ。いいアイデアだなぁ。そういうことにしとこう。


「どしたのトメ兄」


「カカはカカだなぁ、としみじみ」


「そうだよね! やっぱ私は私らしくするべきだよね!」


「おまえはいっつもおまえらしいが、どういうこと――おい!?」


 気がついたらカカは駆け出していた。




 その後。カカに聞いた話によると、こんなやり取りがあったらしい。


「あ、カカちゃん。また来たんですか」


「うん、八百屋さんに言いたいことがあって」


「あ……その、こっちこそごめんね? さっきは言い過ぎました」


「ほんとだよ」


「オイ」


「せっかく私がこの店に足りないものを教えてあげようというのに!」


「……さっきはうらないが足りない、とか言ってましたが?」


「そうそう、うらないじゃないんだよ。のらないだった」


「は?」


「ノらない。おいちゃんノリがないんだよ」


「八百屋に海苔は置いてませんが」


「ちっがーう。キャベツを注文されればキャー。トマトを買うお客さんにはトメィトゥと言うようなノリが足らないんだよ」


「そ、そんなこと言う店員いませんよ」


「ここではそれが普通だよ。よし、もうこの際だから完璧に矯正しちゃおう」


「去勢!? それだけはやめて!!」


「何言ってるのかわからないけど、ほら。大きな声でいらっしゃいませって言ってみて」


「い、いらっしゃいませ!!」


「もっと大きく!」


「いらっしゃいませ!!」


「んむ、これじゃ普通だね。よし、ノリよく自己紹介してみよう」


「ど、どんな風にですか」


「僕は元気がない、ってひたすら元気よく言ってみて」


「わけわかりませんよそれ!!」


「いいから、正直に」


「ぼ、僕は元気がない」


「ほら元気がないよ!」


「だからそう言って――」


「いいから元気よく元気ないって言え!」


「僕は元気がない!!」


「もっと大きく!!」


「元気ない!!」


「その調子で別の自己紹介行ってみよ!」


「何も売れない!」


「そうそう!」


「店特徴ない!」


「その通り!」


「客来ない!」


「いいよー!」


「僕甲斐性ない!」


「だから?」


「彼女もできない!!」


「それで?」


「寂しくない!」


「ほんとに?」


「寂しくないもん!!」


「そっか。それはそうと恥ずかしくない?」


「恥ずかしくない!!」


「でも?」


「情けない!!」


「自分が?」


「不甲斐ない!!」


「おお、ほら! なんかおいちゃんを可哀想なものを見る目なお客さんがいっぱい入ってきたよ」


「泣いてない……」


「おいちゃん?」


「え、ええ。これでうちの店はノリのいい店として繁盛するんですかね?」


「しらない」




「ね!?」


 遠慮ないのは認める。カカらしいのは認める。でも僕に言えることは一つだけだった。


「どうよ!?」  


「しらない」


 とりあえず秋刀魚食え。




 いつぞや似たような話がありましたね、あれの続編です(たぶん


 どことなく丁寧なおいちゃん。出番はおそらくもうないでしょう。八百屋がんばってね(ぇ

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