カカの天下632「サユカの任務、策略編」
さ、サユカです!
ちょっと聞いてくださいっ! だだだだ大事件が起こったんです!!
今朝ですね、カカすけとサエすけといつものように登校してきて、教室に入ったらですねっ!
黒板に巨大な相合傘が書かれていたんですよ!!
相合傘ってわかりますよね? 三角形の頂点から対辺へ直角に線を引いて、そのまま辺を突きぬけて適当な長さで止めて傘にして、その線を中心として両脇に男女の名前を書き、二人がラブラブだということを世界に知らしめるものよっ!!
ああ、動揺のあまり小学生に似つかわしくない説明をしてしまったわっ! なによ頂点と対辺って! まだ習ってないのに! いいえ、そんなことはどうでもいいのっ!
重要なのは……その相合傘にわたしの名前が書かれているということ。
そして、その相手がトメさんなら問題はなかった。
でも、でも……その相手が!
「なんでタケダなのよっ!?」
全くもって不可解だわっ!
「へー、サユカンってそうだったんだ」
「トメさんはもう飽きたんだねー」
「そんなわけないでしょっ!! 誰よ、こんなの書いたのはっ!!」
すでにほとんど揃っているクラスメイトの皆は「さぁ?」とニヤニヤしながら答えた。
全員犯人ってことでぶっ飛ばしてやろうかしら。
「と、ともかく、これ消すわよっ!」
黒板消しでごしごしごし!!
あれ。
「消えない!? うわこれチョークじゃなくてペンで書かれてるじゃないのっ! なんてタチの悪い――」
「おーし、てめぇら席つけー」
朝礼のために教室へ入ってきたテンカ先生は、黒板の相合傘を見てピタリと動きを止めて……
「席ついとけよ」
ピシャン! と引き戸を閉めてどこかへ行った。
「な、なんなのかしら」
「サユカン、とりあえず座ろうよ」
「それ、消えないよー」
「う、うん……」
釈然としないながらも渋々席に向かうわたし……うぅ、なんか周りのニヤニヤした視線がうざいわ。
ピシャン! と再び開く教室の引き戸。
「よぅ、待ったか」
あ、テンカ先生――は!?
「そこの生徒。どけ」
「あの俺の名前――」
「知らん。いいからどけ。で、向こうの教室で空いてる席に座れ」
「は、あの――」
「いいから行け」
有無を言わさず教室移動することになった、わたしの隣の席の男子。
そして、代わりにそこに座ったのは――タケダ。
「な、なんだね一体! 俺はここのクラスではないぞ!」
「さ、朝礼を始めっか」
「テンカ先生!! どういうことですかっ!」
「あん? 大丈夫だって。タケダのクラスのじーさん先生ボケてっから。一人くらい生徒が入れ替わっててもバレやしねーよ」
「そういう問題じゃないわよっ! なんでこんなのが隣にいるの!?」
「だってラブラブなんだろ?」
「だからどこをどうしてそんな有り得ないことになってるのよっ! ゴキブリに恋する女なんていないでしょうっ!?」
「さ、サユカ君。その言い方はあんまりでは――」
「黙れゴキブリ!!」
トメさんに比べればあんたなんかゴキブリよ! 熱湯とか中性洗剤でもかぶってればいいんだわ! そして蒸発しろっ!!
「さて、黒板を消す前に写メとってトメに送らねぇと」
「にゃああああああああああああっ!!」
「じゃ私はサユカンとタケダのラブラブツーショットを」
「机くっつけちゃおっかー」
「うぎゃあああああああああああああっ!!」
「サユカン、その叫び方は女としてどうかと」
「あんたらの所業は人としてどうかしてるわよっ!!」
はぁ、はぁ、はぁ……ちょっと一休み。
「ここでトメお兄さんと電話が繋がっておりますー」
「休ませる気なしねっ!?」
「はいどうぞー」
こうなったらわたし自身が誤解を解かなければ!
「もしもしっ、あ、あのですね」
『似合ってるよ』
がーん……
と、トメさんの口から……そんな言葉が……
「こうなったら……タケダを殺すしかっ」
「な、なんでそうなる!?」
『やれやれー』
「なぜ誰一人として止めない!?」
えーと、彫刻刀は、と。
「……む?」「ん?」「おぉ」「あれれー?」
へ。どしたの皆、驚いたような声だして。
「あら。あなたは」
彫刻刀を探してて気づかないうちに……目の前にインドちゃんが、もじもじしながら立っていた。
「あ、あの……その……」
「どうしたの、インドちゃん。わたしに御用?」
「そ、その……!」
なにかしら。なんだか怯えられているような。インドちゃんの後ろのほうではアヤちゃんやイチョウさんが「言え!」とか「頑張ってくださいまし」とか応援してるけど……
「さ、ささ、サユカたん!」
「……たん?」
「か、噛みまちた、じゃなくて、えっと……」
すごい必死だわ。なんだか初めてトメさんを目の前にしていたわたしみたいね。
「ぅぅ……」
そうそう、こんな風に言いたいことがあるのに言葉にできなくて、感情だけが溜まっていって、
「…………!」
爆発するのよね。
「手が滑りました!!」
パコーン、と。
思いっきしアンダースローで手から滑ったカレー入りタッパーはわたしの額を直撃。そのままゆっくりと倒れていくわたし。
地面に倒れるまでの一瞬のうちに、わたしが思ったことは一つだけ。
――ああ、タッパーの口開かなくてよかった。カレーかぶるのはさすがに勘弁だわ。
「ぐは」
ばたりと倒れるわたしの身体。
そしてそんなわたしから少し離れたところでタッパーが弾けとび、カレーが床に零れる。セーフ。
それからはちょっと騒ぎになった。クラスメイトはインドちゃんの暴挙に唖然としたりカレーを片付けたり。インドちゃんはわたしに必死に謝ったりなぜかタケダにも謝ったり。
そして。
「ごめんねサユカちゃん。まさかこんなことになるとはー」
「……サエすけ。まさか」
「あれ書いたの私だよー。黒いことするって言ったじゃん」
そういやこの子、今日は日直で早く来てたんだったわね……今朝わたしたちと合流できたのは玄関に迎えに来てくれたからだし。
「サエすけ……君ねぇっ!! やっていいことと悪いことが――」
「てぃ」
痛っ! 無理やり気味にわたしの耳に当てられたのは、携帯電話?
『もしもーし! サエちゃん!? ……まったくもう、さっきのをもう一回言えって? 仕事中に恥ずかしいんだけど……まぁいいか。サユカちゃん、昨日の服、似合ってたよ』
え。
「本当ですかぁぁぁぁっ!?」
『う、うん』
「嬉しいですっ! 昨日の服はお気に入りでしてっ!」
「うわ、すんごいニッコニコだねサユカン」
「ふふ、ちょろいねー」
「どうやったのサエちゃん」
「あらかじめトメさんに『昨日の服がおかしくないかサユカちゃんが不安に思ってるので元気づけてください』って電話しておいたの。これでサユカちゃんの機嫌はばっちり。計画通りー」
なにか聞こえた気がするけど、わたしの頭は幸せモード! トメさんとの会話一色に染まった。
染まりすぎて目障りな黒板に椅子を投げつけようとしたら、さすがに止められたわ。危ない危ない。心が爆発するのも考えものね。
でも……インドちゃんはなんでわたしに爆発したんだろう。
ま、まさか……あれも恋の爆発!?
つまり。
わたしのことが!? どうしようっ!!
策略編といいつつ、策略にハマるお話です。インドちゃんガンバレ。
あとタケダがカレーをかぶるべきだったと思う人は挙手ノ
しかし最近サエちゃんの黒さが目立ちすぎですな。明日からはちょっとカカよりに戻そうかなっと。
あとどうでもいいけどビールとラーメン最高です(ほんとにどうでもいい