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カカの天下  作者: ルシカ
630/917

カカの天下630「元気な人」

 こんばんは、トメです。


 今日は久々にテンと二人で居酒屋『病院』へと飲みにきています。


「ご注文はよろしいですか?」


「心臓を生で」


「オレは腎臓を生で」


「かしこまりました」


 断っておくが、決して臓器を注文したわけでも妙な料理を注文したわけでもない。これは単に生ビールの注文だ。メニューの注意書きに書いてあるんだよ、『体内の臓器のうち、どれかと生、と言って注文しないと売りません』って。


「お待たせしました。心臓の方?」


 端から聞いたら意味わかんないねこの呼び方。


「はい、僕ね」


「どうぞ。ではこちらが腎臓で」


 適当に料理を注文すると、店員は「オーダー入りまーす! オペ準備!」と厨房に向かって叫んでいた。


「相変わらずおもしれー店だぜ、ここは」


「ほんとにな。んじゃ乾杯!」


「乾杯!!」


 カチンとジョッキを合わせ、二人そろってぐいっとあおる!


「ぷはぁ! よぅトメ、最近どうよ」


「どうよもこうよも、そうよ」


「そうか」


「そうなのさ」


 なんとなくもう一度乾杯し、ぐびぐびビールを飲む。


「くはぁ……テン、あれだ。お疲れ」


「おぅ、疲れたな」


 何に疲れたとは言わないが、大人には色々あるのである。ビールを飲んで無意味にダラダラと語るときが一番楽なんだよなぁ……


「お、明太だし巻きがきた」


 今度リベンジするために参考にしなければ。


「ノンノンノン、トメ。ヘンタイだし巻きだ!」


「大声で言うなよ」


「なんだなんだなんだ!? なにそのオモシロ料理!! 見せてちょ!」


 こっちこそなんだなんだなんだ? 知らない女性がいきなりこっちのテーブルに――


「なーんだ、普通のメンタイだし巻きかぁ。でもヘンタイだし巻きか、いいセンスしてるね!」


「ふふん、そうだろ。いぇーい」


「いぇーい!」


 親指を立てて拳を付き合わせる、妙に楽しそうな女性二人。


「じゃあ手羽先明太は、手羽先ヘンタイになるのね!?」


「うあ、あんたもすげぇチョイスをするな。やらしすぎだろ」


「手の先がヘンタイなんだよ? うっしっし」


「しかも羽だからくすぐるんだろ」


「あはは! やーん」


「このヘンタイめ」


「なんで二人とも最後に僕を見るのさ!?」


 くそぅ、たまに僕宛てでなぜか『この変態め!』とか『このロリコンめ!』とか手紙がくるけど、なぜ僕がそんな扱いを受けねばならんのか。警察のお世話になるような邪な考えは一切浮かべたことがないのに……


 すいません、嘘つきました。


 昨日、会社のゴミ袋を一つ、失敬しました。だって買うの面倒だったんだもん。


 やることちっちゃいとか言うな。


「あんたも飲めよ」


「おうよ! そこの格好いい店員さーん!!」


「はい、お呼びで」


「ごめん、あんまり格好よくなかった」


 オイ。ごめんって言ったことをごめんなさいするべきだと思います。


「格好いいじゃなくて可愛いよ!」


「あ、ありがとうございます!」


 ……あれま。うまいこと褒めるねぇこの人。


「とも臓を生でくらはいな♪」


 ともぞうって誰だ!?


「おお、しぶい臓器じゃねぇか」


 どんな臓器だ。身体に居るんか、とも臓。そこだけ老化してそうなんだけど。


「とも臓がんも怖くないぜぃ!」


 病気のがんより銃のガンみたいだな。ともぞーガン。


「――お待たせしました! とも臓!!」


 いねーよそんなやつ。ていうかなんでそいつだけ呼び捨てなんだ。なんで向こうに座ってる爺さんが振り返ってるんだ。もしやあんたの名前、とも臓か。だとしたらなんとなくごめん。ともぞーガン撃つなよ?


 心の中でそう呟きながらも、輝かしい笑顔でジョッキを受け取る女性を見つめる。なんともまぁ元気溢れる人だ。しかしテンのやつ……


『乾杯!!』


 カチン、とジョッキを合わせる。それはいいけど、知り合いなら紹介してくれればいいのに。


「くはぁ! うめぇな!」


「いい飲みっぷり!」


「あんたもな。で、あんた誰だ?」


「ぶふっ!!」


 び、ビール吹いた。


「オレはテンだ。あんたは?」


「あたしはメグ! ん、どしたのおにーさん」


「い、いや……あんたら初対面?」


 そだよ? と仲良く頷く二人。


「なんて初対面でそんなに意気投合してんだ」


「んふふ、甘いねおにーさん。居酒屋とはそういうモノなのだよ。ねーテンちゃん♪」


「なーメグっち♪ 乾杯だぜ!」


「おうよ!」


「トメも飲め!」


「そうそう。甘いトメちゃんはビール飲んで苦味をつけたほうがいいよー」


 これが酔っ払いの真髄か……僕も修行が足りないな。


「や、しかし。知らない人間同士でいきなり飲むなんて経験あんまりないぞ、僕は」


「わかってねぇなトメ。ここはな、心寂しい人間が集う場所なんだよ。気に入ったヤツがいたら話しかけて語り明かして飲み明かして朝日を拝みてぇヤツらの集合場所なんだよ!」


「いつからここは精神病院になったんだ」


「いやいや待って。考えてみてみて?」


「なにさメグさん、だっけ」


「そそ。アタシ思うんだけど、心臓とかを生で注文してる時点で精神病院いきじゃね?」


 すんごいごもっとも。


「で、でもここの店長だって個性を出そうとマジメに考えてるのかもしれないし!」


「そうなのかよ、店長?」


「ん、なんだ。マジメに心臓がほしいのか」


「いらねーし!!」


「アタシ見てみたい! そして食べさせてみたいね!」


「なんで僕を見る!?」


 そんなこんなで、なんだかよくわからない合流をした僕ら三人はそのまま盛り上がって飲み続け――


 潰れた。


「おーい、二人ともー。もう限界?」


「……メグさん、つおいね」


 僕もテンもぐでんぐでん。僕はなんとか意識あるけど、テンはすでに半分寝てる。


「おーい、テンちゃん。大丈夫?」


「……丈夫」


 なにが。


「テンちゃん! おーい! ……よし。色々質問してみれば意識はっきりするかな。テンちゃん、質問に答えなさい。お名前は?」


「テンちゃん……」


 あのテンが自分のことをちゃん付けするところなんて滅多に見られるもんじゃない。しかし脳を責める酔っ払い電波が強すぎてそれに注目する余裕はない。


「よーしテンちゃん。歳はいくつ? 何歳?」


「みっつぅ……」


 テンちゃんさんしゃい? 酔いでそこまで退行したか。


「みっつじゃないでしょ。サバ何匹読んでるの」


「よっつぅ……」


「あら?」


「いつつぅ……」


 なんの数を数えてるんでしょうかねこの人。サバか。


「仕方ないなぁ。トメちゃんは大丈夫?」


「おぅ……」


 なんとか……


「じゃ聞くけど。トメちゃんなんさい?」


「人災……」


「アタシのこと!? あははは! そんだけ言う元気があれば大丈夫だね。じゃーお代は払ってタクシー呼んでおくから、回復してからゆっくり帰りなよ!」


「さんびゃくさんじゅうぅ……」


「テンちゃん数えるのはや! あは、またね。さーて明日はライブだ! 元気は充電したし、あとは寝るだけ!」


 そのメグさんという女性は、嵐のように去っていった。


 でも、姉のようなはた迷惑な嵐ではなく、なんとなく周りを元気にしてくれるような、心地のいい災害だった。


 そう、災害だ。とりあえずこの頭痛だけは。


 タクシー代まで払っておいてくれたらしいし……いつか恩返ししないとなぁ……


「いちおくぅ……」


「それは嘘だ」




 正体不明の元気な人が通り過ぎるお話です。

 さてさて、この方は何者なのでしょうか。別に新レギュラーキャラというわけではありませんが、しかし……?


 ま、スルーしてください=w=


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