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カカの天下  作者: ルシカ
63/917

カカの天下63「しんどく格好よく」

「はぁ……」


「はぁ……」


 いきなりすいません、トメです。


 僕は会社から、妹のカカは学校から帰ってきて、二人で居間に座り……共に最初についた一息は、深い深いため息でした。


「……カカ、なんかあったのか?」


「トメ兄こそ」


 僕らは不機嫌そうに、しかし睨み合うでもなく、ボーッと中空に視線をやりながら言葉をかわす。


「僕は……あれだよ。仕事で結構大きい失敗してさ、怒られまくったところ」


「私は……ちょっと、サエちゃんとケンカしたとこ」


 僕とカカはしばらく沈黙して、再びため息をついた。


「大体さ、あんな怒ることないじゃん。人間、たまには失敗だってするさ。ちょっと見落としがあっただけでさ」


「そりゃさ、約束破ったのはこっちだよ。でもこっちにも用事ってもんがあるんだからさ、そんな何でもかんでもうまくできないっての」


「確かに僕にも不注意なところはあったさ。でも上司だからってあんな勝手なこと言う権利あるわけ?」


「確かに私が遅刻したのが悪いよ。でもちゃんと遅れるって連絡入れたしさ、それ以上に何ができたわけ?」


「おまえはそんなこともできないのか、ってさ。そんな怒るほどあんたは失敗なしの人生歩んできたのかっての!」


「遅刻は遅刻、ってさ。じゃあんたは待ち合わせに遅れたことないの!?」


「僕だって頑張ってるんだよ」


「私だって間に合おうと頑張ったんだよ」


 ひとしきり愚痴りあって……ふと僕らは目を合わせた。


「ねぇ、トメ兄。なんで私達、こんなこと言ってるんだろ」


「んー……多分さ、自分の失敗が許せなくてさ、格好悪いからじゃないか?」


 そう、わかっている。


 自分が悪いんだってことも。相手に難癖つけて自分を慰めようとしてるのも。


 でも――


「でも、さ」


「うん?」


「こんなこと言ってる私達って、格好いい?」


「……それは」


「私は、トメ兄、格好悪いと思う」


「僕も、カカのこと格好悪いと思う」


「……じゃあ、どうすれば格好いい?」


「……そう、だな」


 話は極めて簡単だ。


 自分の失敗が許せないなら、認めることができないなら、それを格好悪いというならば――逆にすればいいだけの話。


「自分を許せばいい。失敗を認めればいい……のかな」


「それって……格好いい、かな?」


「格好悪いよ」


 素直に過ちを認めて、謝る。


 他人から見れば誰が悪いのか一目瞭然な状況は、よくあること。


 どれだけでも馬鹿にできるような失敗や謝罪も、よくあること。


 他人のことなら好きなだけ言えても、自分のこととなると認めるのが怖くなるのが過ち、失敗というものだ。


 でも、これだけは言える。


「格好悪いけど……失敗を認めないよりは、格好いいんじゃないかな」


「……うん、そうかも」


「認めて、素直に謝るしかない、よな」


「うん……トメ兄みたいに格好悪いままじゃ、やだし」


「カカも結構、格好悪かったぞ」


「それは、やだね」


「うん、やだな」


 失敗を認めて、改善して、進んでいく。


 誰でも思いつきそうな、陳腐な言葉。


 それでも、実行するのは――


「しんどいな」


「しんどいね」


 僕とカカはため息をつきながら、思う。


 とにかく頑張ろう、と。そんな簡単でしんどいことを。


 じゃないと僕らは、いつまで経っても前に進めないのだから。




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