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カカの天下  作者: ルシカ
628/917

カカの天下628「ボクの大冒険」

 こんにちはです!


 ボク、ミートボールです! 初めまして! 生後三十秒です!


 えっとですね、いま作られたばかりでですね、ファミレス東治の小鉢の中です! 小鉢ってあれですよ、小さい器のことですよ!


 なんだか店の黒板に『定食は全てミニサラダ、ミニうどん、小針、清物付き』って書いてありますけど、小鉢ですよ! 小針が料理についてきたら怖いですからね! あと字が違いますけどきっと漬物ですよ! 清物ってなんですかね! 誰か書き直さないんですかね! ボクが書き直したいところですけど手も足もないんで無理なんですよね! ミートボールなんで!  


「――ご注文は以上でよろしいですか? シューさん」


「はい、お願いします!」


 ボクは厨房で、定食に使われるのを待ってるんですけど、ホールの方からはお客様の声とかが聞こえてきます!


「オーダー入ります。ミックスフライ定食、から揚げ定食、パスタランチ、オールワンです」


「はーい」


 おっと、そろそろ出番ですかね! ボクをのせた小鉢がお盆の上に並べられました!


「おやクララちゃん。ちゃんと注文を聞いてこれましたか?」


「はい! クララばっちりです!」


 おやおや可愛らしい店員さんがいますね!


「えっと、こーら、うーろんちゃ、えっと……」


 がんばれ!


「あ、おれんじじゅーす、ホールインワンです!」


 さっきと何か違う?


「あっはっは! どこに何が入ったのでしょうねぇ。少なくとも私のツボには入りましたが。可愛い可愛い」


「クララこれ持ってきます!」


「ええ、頑張ってきてください」


「はいです!」


 持っていかれます! いやぁ、やっぱり料理の一つとして生まれたからには誰かに食べられないといけませんよね、楽しみです!


「あ、手が滑りました」


 ――かちゃん。


 ……あ、ああああ! 


 ボク、落下!! 床に落ちました!!


「クララしょっくですぅ! キリヤ!」


「はいはい、片付けますよ」


 ああ……ボクの人生はこんなところで終わるのか……人じゃないから肉生か……肉屋さんみたいな名前だなぁ……しくしく……


「待ってくださいキリヤ。その肉団子、捨てるですか?」


「ええ、もう汚いですからね」


 汚れてしまったボク……もうあの頃には戻れないんですね……


「クララ、捨ててきます」


「おや。ではお願いします」


 持ってかれるボク……え?


 ちょこん、と。厨房の隅っこで隠れるようにこっそりと新たな小鉢の中にのせられたボクは、困惑した表情で女の子を見上げました。顔ないけど。


「生きろ」


 渋くそう言った女の子は、そっと他の小鉢と一緒に並べてくれました。 


 なんて優しい女の子なんでしょう……嬉しいです……でもボク、床の汚れついてるけどいいんですかね。


 あ、お盆にのせられました! そしてまたあの女の子に持ってかれます! 本当にいいのかなぁ、どきどき。


「お待たせしました! シュー、受け取るです」


「あ、はいクララ先輩。ありがとうございます」


「これもこれもです」


「はいはい。ほらタマ様、お義姉様、お料理がきましたよ。はいお箸です、はいお水いれますね」


「なにさまだ!?」


「ええ! 僕がそれ言われるんですかぁ!?」


 なにやら下僕のごとく甲斐甲斐しく働く男がいますね! 哀れです!


「ん、シュー」


「なんでしょうかお義姉様! おしぼりですか!?」


「そのミートボールさ、汚れてない?」


 ボクのことですか!?


「ほ、本当ですね! こんなものをタマ様やお義姉様に食べさせるわけにはいきません!」


 こんなやつに、こんなものって言われてしまいました……


「こんなものはポイです!」


 うわぁ、投げられた!?


 飛んでいく……飛んでる! 鳥になった! ボク、鳥になったよ! 鶏肉じゃなくて豚肉だけど!


「……あら?」


「どうしたんだいアヤ坊」


 な、なにやらカップルのテーブルに着地しました。おおお? 女性の方にスプーンですくわれて……


「見てよニッシー。ここに変なものが」


「変なもの……スプーンに映った自分の顔かい?」


「ぶっとばすわよ!?」


「あはは、冗談だよ。アヤ坊はいつだって可愛いよ」


「ば、ばか……」


「さ、ほら……」


「ん……」


 そんなお互いの唇を食べる前にボクを食べてくださいよ! ああ、スプーンから床へ落とされた……


 ころころと転がるボクの身体……


 もう誰にも食べられないのかな……僕の一生は、ゴミ箱に捨てられて終わるのかな……誰かの身体の中で、たんぱく質として活躍したい。ボクの望みは、ただそれだけだったのに。豚肉だから吸収効率もいいし、他のお肉よりも頑張ってスタミナつけるぞって、そう、意気込んでいたのに……


「あ、もったいな」


「お義姉様!?」


 ひょい、ぱく。


 あ。




「――という夢を見たんだよ」


 カカです。ミートボールじゃありません。


「壮大ないいわけだな、オイ」


「ほんとに見たんだってば! 信じてよテンカ先生!」


「わかったわかった、信じてやるからそのミートボールは捨てろ」


「うぅ……世の中には三秒ルールというものがあってだね」


「そりゃ姐さんなら大丈夫さ、てめぇの夢物語みたいに拾って食ってもな。三年ルールくらいありそうだしよ。しかし教師として言わせてもらう、落ちたものは食うな。腹壊す」


「もったいない……」


「その気持ちは立派だがね」


 ――お察しの通り、今までのは全て私が見た夢。


 給食中に落としたミートボールを拾って食べようとした私をテンカ先生が止め、私はこういう夢を見たからコイツが可哀想で食べずにはいられない、と主張したのでした。却下されたけど。


 ところで、どの辺で夢だってきづいた? 


 夢だと気づくためのおかしな点はこんなところだ。


 まず、シュー君のセリフが多い。


 クララちゃんが普通に働いている。時給は千円。高すぎる。あとたまに渋い。


 やっぱりシュー君のセリフが多い。


 落ちて汚れた食べ物をお客様に出すのはあまりにもひどすぎる。 


 シュー君が喋りすぎ。


 ニシカワ君とアヤちゃんが必要以上にラブラブでとても目ざわり。


 お義姉様とか先輩とか言っている。しかもシュー君が。


 そもそもミートボールに意思などない。


 とにかくもうシュー君のくせにセリフが多すぎる。


 以上だよ。わかったかな?




 パッと開いてみるといきなり肉団子に自己紹介されるという、あるいみ出オチちっくなこのお話、いかがでしたでしょうか。

 

 まーその実は夢オチなんですが。

 頑張ってシュー君に喋らせて違和感を表現してる中、私は本当に彼に出番を与えてないんだなぁと実感しました。

 なのでもっと出番を減らそうと思います。

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