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カカの天下  作者: ルシカ
623/917

カカの天下623「押し売り注意!」

 こんにちは、トメです。


 今日は文化の日。貴桜小学校では例年通り、生徒によるフリーマーケットを開催しています。そんなわけで顔を出してみたわけですが……


「……あんまりだぁ」


「しくしくしく……」


「これは泣いてるんじゃない……泣いてなんかいない……やっぱ俺泣いてる」


 なんで一部だけお悔やみムードなんだ。


「お、トメじゃねぇか」


 振り返るとそこには、なにやら黒い布をひらひらさせながら手を振る、見覚えのある顔が。


「テン? や、なんかこの人たちが死んだみたいで」


『死んでないもん!!』


 や、でもそんなムードですよ? あなたがた。


「どうしたんだろうな。テン、わかるか?」


「おぅ。死んだのはうちのクラスのフリマを見てきたやつらだな」


『だから殺さないで!!』


 無視。


「うちの、ってカカたちのクラスでもあるよな。なんだ、そんなに恐ろしいものを売ってるのか?」


「いいや、普通にいらなくなったものや古いものしかねーぞ」


「じゃあ問題ないじゃないか」


「古くなったパンとか」


「捨てろよ!!」


 確かにいらないけど売るなよ!!


「まー落ち着け。やつらが気を落としたのはカカとサエの出展物を見たからだ」


「やっぱうちの妹が絡んでるのか……何売ってたんだよ」


「誕生日でもらったプレゼントをいくつも」


 ……うわぁ、としか言えない。


「あれ見てオレも売るのやめたよ」


「ちょと待てテン。おまえまでもらったプレゼント売るつもりだったのか」


「だってオレもあいつらもわけわかんねぇプレゼント多かったんだもんよ」


 言われてみればたしかにカカも変なものをもらってたな。履けないトイレのスリッパとか。


「あー、そうそう。カカやらサエの場合はな、プレゼントと一緒にラブレターとかついてるのが沢山あったらしいぞ。だからそれの返事なんじゃないかね、これは」


 ……だとしたらそうとうエグい返事だな。思いついたのはサエちゃんと見た。手軽に返事もできるしフリマは盛り上がるし一石二鳥だし。


「ふむ、ところでテン。気になってたんだが」


「んだよ」


「さっきから手持ち無沙汰っぽくブンブン振り回してるその黒い布、なんだ?」


「トメのパンツ」


「なんでそんなもん持ってんだ!?」


 慌ててひったくる、って本当に僕のだし!


「売ってたんだよ、カカが」


「ああそんなこったろうと思ったさ! そしてなぜに買うのか!?」


「けっけっけ、てめぇの慌てる顔が見たかったからだ。このネタが百円なら安いもんだ」


「無駄遣いするなよな!」


「てめぇはオレの母親か」


 ええぃ、くそ。最近僕のパンツが減っている気がしたのはこのせいか。これは早急にカカたちのフリマを直撃して他にヤバイものがないか調べなければ!


「行ってくるがいいトメ捜査員」


「なんじゃそりゃ」


「まだ仕事あるから回れねーが、楽しめよ。んじゃな」


「おう」


 ひらひらと黒い布を振って去っていくテン。


 って――いつのまに!?


「パンツ返せよ!!」


「追ってくるがいい、ボクサーパンツ派のトメ捜査員! けけけけ!!」




 ――さて、妙な笑い声をあげるテンを追っかけまわして遊んでいるうちに迷ってしまった。


「どこだここ……お、見覚えのある顔を発見」


 ちょこちょこと廊下を歩き回る小さな影に声をかける。


「や、クララちゃん」


「トメです!! こんにちはです!」


「はい、こんにちは」


 礼儀正しい良い子だ。


「ちょうどよかった、道を聞きたかったんだけど」


「クララ知ってます! それってデートの誘いですよね!?」


 ……また何のテレビ見たんだこの子は。


「クララちゃん、デートっていう言葉の意味知ってるの?」


「えっちな意味です!」


「誰が説明したんだそれ!?」


「クララ逃げるです!!」


 あぁ……いってしまった。ここで追いかけたら僕が危ない人に見られてしまうし……むむむ、本当に道を聞きたかったんだけどなぁ。


 おろ? もいっちょ見覚えのある顔が見えた。


 タケダと、たしかヤナツ。なんだあいつら、中庭でコソコソと。いってみよっと。


 どれどれ……何やら二人で真剣に向き合って――


「俺はおまえが好きだ、ヤナツ!」


 おぉう。


「タケダ……い、いや、その、俺は……」


 あぅち。


「今日はフリーマーケットだ、この俺自身を君に売ろう……おまけに、俺の人生をつけようではないか」


 あぅちあぅちあぅちあぅち。


「……ローンは、組めるか?」


「一生分OKさ!」


 吐いていいか?


「――よし! 完璧なキメ台詞だ! カカ君への告白練習、協力感謝するぞヤナツ君!」


「気にすんな。俺もその台詞を使わせてもらうんだからな……サエ相手に」


 ……なんだ、よかった。本当によかった。


 世界はまだ人に優しかった。


「しかしイケるんじゃないか? 今の台詞、男の俺でもゾクっときたぜ」


 誰でもそうなる。男だと特にだ。


「うむ。これなら成功間違いなしだな!」


 なぜ子供という生き物はこうも自信満々でいられるのだろう。ちょっと羨ましい。とはいえあぁはなりたくはないが。


「よし、今度はヤナツ君の番だ。俺に向かって練習するがいい!」


「よっしゃ! 絶対告白を成功させるぜ!」


 成功? 


 無理だな。だってとってもうざいし。


 んー……


 だからこそ教えてやらないけどね。


 兄としてはこんなやつらと妹たちがうまくいくのもヤだし。くっくっく。


 しかしここどこだろう。




 そして、なんだかんだでカカたちの教室にたどり着けなかったので不貞腐れて帰ってきた。やがてカカも帰ってくる。


「カカ、おかえり。今日どうだった?」


「二十個くらい売れて、三個くらいビーズ買って、二人ぶっ飛ばした」


 サエちゃんの分も跳ね除けたか。ご苦労さんである。




 タケダやヤナツなんて誰も買いません、ええ。


 ……買います?

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