カカの天下616「お結び式 贈呈しまーす」
引き続きトメがお送りいたします。
『それでは登場していただきましょう! どうぞ!』
キリヤの声と共に開かれる会場の扉。
――カカとサエちゃんにとって、最も思い出深い方をお呼びしますと、キリヤは言っていた。
誰だ? ここにいるメンバー以外でそんな人いたっけ?
僕は何も聞いていなかった。
だから、驚愕した。
それを見て。
あまりにも予想外で。
ほら、会場の皆も絶句している。
目を輝かせているのはカカとサエちゃんだけ。
『皆さん、驚きの様ですね』
それも当然。
『ご紹介しましょう!』
登場したのは――
『二人が仲良くするきっかけとなった、高級かつおぶしと高級漬物と高級洗剤と高級納豆のセットです!!』
『人じゃねーのかよ!?』
カカサエ以外の声を揃えたツッコミに、キリヤは微塵も動じずに続ける。
『えー今回ですね。お二人が仲良くなったエピソードを聞いた私は、どうしてもこの方たちをお呼びしなければならないなーと思いまして』
あくまで擬人化して話を進めるのな。
『しかし集めるのは楽でした。この内の高級かつおぶしと高級漬物は、なぜか一般の方からのプレゼントとしていただきまして。差出人はレイさんといいます。なんでも夏祭りですれ違って以来ファンになったのだとか。そんな彼がなぜ二人の思い出の品をチョイスできたのかは謎です。おそらく変質的なしつこい愛の力でしょう。世の中ってふっしぎー』
そんなファンがいるとなると身内としては非常に心配なんですが。まぁ姉とか父とかバケモノ護衛がいるから大丈夫とは思うけど。
『さぁ! お二人とも。思い出の方々に、どうかメッセージを!』
無茶言うなオマエ。
『まずはかつおぶしに! カカちゃん』
「味噌汁うめー」
うわ適当。
『お次は漬物に! サエちゃん』
「ご飯うめー」
『洗剤に! カカちゃん』
「驚きの白さ」
『納豆に! サエちゃん』
「ご飯うめー」
『ありがとうございます! 皆さん、大きな拍手を!』
わけもわからず手を叩く一同。とりあえずわかったことは一つ、サエちゃんは白米が食べたいのだ。
『さて、人気者のお二人には他にもたくさんの方々からプレゼントが届いております。まずは綺麗な花束がお二方に』
おお、普通だ。
「わー、ありがとー」
「何の花だろ。あとでお姉に聞いてみよ」
……普通だ。
『差出人は『弟より』となってます』
普通じゃねぇ!!
「誰の弟だ!?」
『わかりません。もしかしたらカカちゃんの? だとしたら……ユイナさん、若いですね』
「その言い方ヤメロ!!」
確かに若いけどさ!
『しかし、この中で他に弟といったら……』
「ま、まさか私の弟! ヤナツ!?」
『でも東京湾ですし』
「決定なの!? ねぇ、それ決定なの!?」
『続きましてー』
サラさんいじるの好きだなぁキリヤ。もしかして好きな人は苛めたくなる例のアレか。
『差出人はアレスさんで、ビッグでフラッシュなプレゼントが届いております。どうぞ!』
暗くなる照明、それと同時に現れたのは巨大な光る箱!
しかし眩しいわけではなく、静かに、幻想的に光るその箱は――キリヤが雇ったスタッフの手によってゆっくりとカカたちの目の前へと運ばれていく。箱は随分と重量があるらしく、車輪付きのカートに乗せているが、それでもスタッフは重そうにして運んでいた。
やがて二人の目の前に運び終わると、箱から発せられる光を浴びたカカのドレスが煌びやかに輝いた。まるで妖精の姫君のよう。そんなクサい台詞が出てくるほど、そのときのカカは美しくて。
カカが箱を手に取り、開ける。
すると、さらに僕のクサい台詞が炸裂した。
「なまぐさっ!!」
『たっぷりぎっしりホタルイカだそうです。綺麗でしょう? でも生臭いですねぇあっはっは!』
いきなり漂いまくる海のかほりに僕らは辟易し、感動も忘れてさっさとホタルイカ箱を退場させた。何を思って送ってきたんだ、あんなもん。
『続きまして、愛の貴公子様より、高級黒豆セットが届いております』
次に二人の前に差し出されたのは、大きな器にこんもりと積み上げられた黒豆。煮豆かな、あれは。
『二万円だそうです』
生々しいなオイ。さっきのイカには負けるが。
『サエちゃんを食べる気分でお召し上がりください、とのことです』
次の瞬間、カカはものすごい勢いで豆を貪り食い始めた。
『あの……カカちゃん?』
「サエちゃんは私が食べる!!」
『えーと、サエちゃん。いいのですか?』
「いいですよー。どーせ夜になれば私がカカちゃんを食べるんですからー」
そうそう、結婚初夜には花婿が花嫁を――ってサエちゃま? なんであなたってばたまにそんなにアダルティなんですか。
『はっはっは、わかりました。カカちゃんがサエちゃんを食べ尽くし、むしゃぶり尽くしたところで次にいきましょう! えー、マツタケが七本、ちくわが五本届いてます』
「カカちゃん、私たちって業者さんにファンが多いのかなー」
『差出人は、ぶーたんさんです』
「ここまできたら、その人も食べれそうだよね」
とんかつ屋にありそうだ。
『お、次は普通です。若木瀬さんからお二人へ祝辞が。『Congratulations! and Happy Birthday!』だそうです』
「コング拉致ローション?」
コングを拉致ってナニする行事だそれは。
『コングラッチュレーション。おめでとうという意味です』
「わー、ありがとー」
『さてさて、次はサイボーグ様から。すごいですね、サイボーグに知り合いがいるんですか、強そうですね!』
どっかで聞いたフレーズだな。
「はん、あたしのほうが強ぇ」
姉の言葉に頷く一同。これもどっかで聞いた話だ。
『えー読みます。出来心でクッキーを贈ったら、悲しい話にしてしまい、本当にスイマセン。お詫びにサエちゃんとお揃いの四つ葉の髪留めを贈ります。カカは飾りとして使って下さい。本当にスイマセン、だそうです』
「お揃いのものくれたから許す!!」
よかったねサイボーグさん、姉に破壊されなくて。
『続きまして雑貨屋の天上さんから、判子が二つ届いております』
「おー! 『酒井香加』って書いてある!」
「こっちは『笠原小枝』だよー」
おお、味なマネをするなぁ雑貨屋。
「ねね、サエちゃん! これ早速押そうよ!」
「そだねー!」
「ねぇねぇトメ兄! なんか押すもの持ってきて!」
「なんかって言われても、判子押すような書類なんて……」
「借用書ください」
「サエちゃん……君さぁ、君さぁ、もしかして金に困ってるのか!?」
「あははー、これさえあれば私も笠原家だねー」
「何をする気だ!?」
「おかーさん、あげるー」
「一番渡してはいけない人に渡すなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
はぁ、はぁ、なんとか阻止できた。じ、実印登録はしてないし、大丈夫だよな? や、でもサカイさんなら何かをどうにかしかねない。注意しなければ。
『さてさて、他にも多数のプレゼントが届いてあります。衣服類も多かったので、まとめて後でご覧ください』
ほんといっぱいきてるんだなぁ。
『なお、私をあげる、俺をあげる等のメッセージも多数いただきましたので、焼却しておきました』
ぐっじょぶ。
『最後に、よくわからないプレゼントを紹介します。ええと、カカちゃん宛てですね。調査員鶏助さんという方から調査書が届いているのですが』
「なにそれ」
『なにやら先日の連続ひったくり事件についてらしいです』
ひったくり? はて、最近そんなことが身近であったような。
「んじゃ私読んでみるね」
カカはその調査書を音読し始めた。
『その日、いつものようにひったくりをしようと、人通りの少ない道を物色していた僕が見つけたのは、いかにも高価そうなバッグを不用心に持っていた美少女と、その美少女を変態的な眼差しで見ながら隣を歩く男の二人組でした。
僕はその二人の背後に近付き、慣れてしまった動作で美少女の持つバッグを奪い取り逃げました。(なぜか二人は追いかけてきませんでした。きっと美少女のほうは、男の変態的な眼差しに恐怖し動けなかったのでしょう)
安全圏まで逃げ切ったと感じた僕は、その日の収穫を確かめようとバッグを開けると……あ……あぁぁ……そこからは覚えてません……気がついたら、ここにいました……ただ、バッグの中にとても恐ろしい何かを見た……そんな気はします。
――以上が、今回起きた不可思議な事件の被害者からの証言である。
この事件の発端となったバッグについてだが、被害者である男性を発見した警察官(名前は忘れた)によると現場には何も残っておらず、男性の虚言ではないかとの見方もあった。しかし、その男性が自身をひったくり犯だと自供した時点でこの虚言は意味を成さず、意図も不明だ。被害者――いや、被疑者の言葉には信憑性があるとして、何者かが持ち去った可能性も考慮しつつ捜査が続けられている。
また、そのバッグの所持者であった少女が何らかの事件に巻き込まれていた可能性もあり、少女と事件当時その少女と一緒にいた男についても詳しい情報を集めている』
しーん、となる一同。
誰かが言った。
「なにこれ」
誰かが答えた。
「ギャグだろ」
全員が頷いた。
『一般の方々からのプレゼントは以上となります』
というかさ。
色々くれたこいつら……誰だ?
若干カカラジっぽくなった今話です。
プレゼントを贈っていただいた皆様、ありがとうございました^^ここで紹介されなかったプレゼントもさりげにまだチャンスはありますので、希望を捨てないで見守ってください笑
でも正直、サエちゃん宛てのプレゼントが一番おもしろい^^