カカの天下614「お結び式 乾杯しまーす」
「入れてください!!」
「僕もカカちゃんやサエちゃんを祝いたいんです!!」
「ええい、ならん! ここは身内しか通せないのだ!」
「くっ、なんだこの巨大な番人は……」
「せっかく二人の晴れ姿を見にきたのにー!! あ、サエ様! 門の向こうにサエ様がいるぞ!!」
「皆、突撃だ! 意地でも結婚式に出席するんだ! 同士諸君、撃鉄を起こせ!」
「いつまで寝てるのよ撃鉄!!」
「誰だよ!?」
「ゆーたーがんばってー」
「うおおおおお! そのお声さえあれば俺は際限なくパワーアップする! 見よ、我が身体は百三十キロから百六十キロへと進化した! 愛だけで三十キロ増量した筋力を見るがいい! ぬぅあああああああああ!!」
「全軍、突撃!!」
「――うわぁ!? 無理です敵いません!」
「諦めるの早いし!」
「ふははは! む? なんだ貴様、その携帯の待ち受け画面は! サエ様の運動会のときの写真ではないか! 削除削除ぉ!」
「あぁ! サエ様ファンクラブ秘蔵の写メがぁ!」
「うわ、削除とかいいながら自分の携帯に送ってるよこの人!!」
「俺はいいのだ! 貴様らはダメだ!!」
「なぜに!?」
「文句があるなら腕で語れぃ!」
……どうも、引き続きトメです。
ただいまカカとサエちゃんの誕生会、なんちゃって結婚式を進行しているのですが……
「あんな催し物は予定になかったはずなんですけどー」
窓の外を見ながら呟くサカイさんに同意する。なんだあの外の大騒ぎは。あそこだけ戦争でも起きてるのか。
「あ、おかえりサエちゃん!」
「新郎を放っておいてどこ行ってたのよっ?」
「ちょっと煽ってきたー」
……この娘のせいだったのか、アレ。
「カカちゃん、サエちゃーん! お待たせしました、ドレスルームへどうぞ!」
この声はサラさんだな。衣装の準備をしているって話だったけど……って、え?
「どうですトメさん。似合いますか?」
「似合う、けど……」
面食らった。呼びにきたサラさん自身が純白のウェディングドレスを着ていたからだ。ボディラインに沿ったシルエットが美しく、特に胸元の刺繍されたレースが華やかで綺麗で……ってどこ見てんだ僕は。
「ど、どうしたの、それ」
「いやー、ドレスルームにあったんですよう。そうしたらついつい着てしまいまして……トメさん、せっかくですし私たちもこのまま式を――」
「そんな風に遊ぶなんて、随分と余裕があるんですねー」
調子よく喋っていたサラさんの言葉がストップ。冗談なのはわかっててもちょっとドキッとしていたところなのでホッとする。
「仕事も喋るのも遅いサカイさんとは違うので」
「結婚だけは早かったんですけどねー。彼氏もいない誰かさんと違って」
「だから失敗したんですか?」
「いいですよねー失敗する心配がない人は」
ごごごごごご、となんか重い音がする。何の音かはわからないけどホッとしたのは間違いだったことだけはわかった。どうしよう。
「……ん?」
その心臓に悪そうな音よりも不吉な予感が胸をよぎった。
「おーい! 弟よ!」
「ん、姉か?」
いいや、きっと気のせい――
「どうよこれ! なんかドレスルームにあったからついつい着ちゃってさー!!」
くる……近づいてくる……何かが……とてつもなく似合わないものを身に纏ったナニカがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
さて、ちょっと見苦しいものを見て目が腐ってしまったが、準備は滞りなく終わったようだ。スタッフらしき人に呼ばれた僕らは披露宴会場へと移動した。
本来なら結婚式を終えた後に披露宴という形なのだろうが、僕らにとってこれは単なる誕生会だ。細かい順序などは気にせずに、楽しそうなところだけをこだわって進めていくことになっている。
今回は僕ら大人組にサユカちゃんを混ぜて――つまりはカカとサエちゃんを除いた皆で段取りを決めた。とはいえ『次にこれをやって、次にこれをやる。これを誰に任せる』という基本しか決めていないので、実際に誰が何をするか詳細はわからない。だから司会のキリヤが適当に仕切っていくことになっている。
『さて、皆様。お集まりですね?』
カカとサエちゃんを抜いた参加者がそろった。僕、姉、シュー君にタマちゃん。テン、クララちゃん、司会のキリヤ。サラさんとサカイさんも主役の着替えを終わらせたらしく、会場に入っている。テーブルの上にはすでに派手な料理がずらりと並んでいるが、料理人三姉弟の姿は見えないのでまだ何か作っているのかもしれない。
ちなみに母さんは父さんに背負ってもらいながら高速ダッシュでこちらに向かっているが、少し遅れるらしい。そんなメールがさっききたのでキリヤには伝えてあるんだけど……ん、またメールだ。なになに?
『背中に母さんの胸が当たってうふふふ』
死んでしまえ。
『それでは! 新郎新婦の入場です!!』
おっと、腐ったメールに気をとられているうちに決定的瞬間が!
人数が少ないわりには大きな拍手に祝福されながら姿を現したのは――意外な光景だった。
タキシードにウェディングドレス、これは予想通り。でもサエちゃんがタキシードでカカがウェディングドレスとは……てっきり逆だと思ってた。だってカカのほうが男っぽいし!
「くっ、カカすけ綺麗じゃないのっ!」
悔しそうなサユカちゃんの言葉に素直に頷いた。確かに可愛いというより綺麗だ。まさか僕がカカにこんな言葉を使う日が来るとは思わなかった……僕も歳をとったか。
それが派手なドレスだったなら、ただ可愛いと思っただろう。しかし実際にカカが着ているのは、どちらかというとシンプルでスレンダーなドレスだった。トップとスカートにだけあしらわれたレースが上品さを、肩紐の小さな花と胸元のコサージュが清楚な可愛らしさをアピールしている。髪には小さな花々が揺れている細工が美しいシルバーのティアラ、そしてウェディングベール。柔らかな純白、そして透明感のある白――ありとあらゆる白に包まれたカカはいま、紛れもなく綺麗だった。
そしてサエちゃん、シックなブラックのタキシード。サエちゃんほどの細身が着ると、不思議と可愛らしさと格好よさが同居したような印象を受ける。どちらとも言えるのだ。長い髪は後ろで一つで縛った彼女はまさしく男装しているのだが、何よりも男装しているのは顔だと思う。うん、なんかキラーンって感じで色男風にカカを見ている。
「行こうか、まいはにー」
「はい、だーりん」
ほんとにもうなんなんだろねコレ。またサユカちゃんうずくまってるし。泣いてるのか? や、多分笑いをこらえてるんだろう。
色んな意味をもつ生暖かい視線を浴びながらゆっくり歩くカップル二人は、のろのろと勿体つけて歩いたあとに会場の奥に設けた主役席へと着席した。
『さてさて皆様、お手にグラスをお持ちください』
各々、テーブルに並べられたシャンパングラスを手に取った。
『それでは、乾杯の音頭をテンカ先生にお願いしたいと思います。先生、どうぞ』
呼ばれたテンはニヤニヤしながらマイクを受け取り、
『ありえねー。乾杯!!』
とても正直な感想を口にしながらグラスを掲げ、披露宴のスタートを告げるのだった。
なんだかまたもや予想より一話ほど長くなりそうです。それもこれもこの子たちが「ありえねー」なことするから笑
と、いうわけで。明日の話で皆様のプレゼントをーと思っていたのですが明後日になりそうです。なので明日一日の間ならまだプレゼントOKですよ^^
……もう、かなーりいっぱいきてるんですけどね笑