カカの天下613「お結び式 開場しまーす」
こんにちは、トメです……本日はご来場、誠にありがとうございます。
え、どういうことかって? いやですねぇお客様。
カカとサエちゃんの結婚式会場――スカイリード・チャペルへようこそと言っているのですよ!
「……ぽかーん」
「……ぱかーん」
「……きかーん」
効かないどころか効果はばつぐんだ!
「トメ兄……本当に、ここ?」
「ここって、紛れも無く、正真正銘の結婚式会場ですよねっ!?」
「てっきり、うちででもやるのかとー……」
驚くのも無理はない。僕がカカサエサユカを連れてきたのは、三人の言うとおりの場所だったからだ。小鳥が羽でも休めていそうな、柔らかな彫刻が施された門。それをくぐると視界に入るのは鮮やかな緑の絨毯に白銀のタイル道、そして城。
「あらあらー、お待ちしてましたよー!」
ひたすら呆然とする三人娘を前にどうしようかと悩んでいると、城のほうからサカイさんが腕をぶんぶん振りながら歩いてきた。
「ほらほら、こっちですよー」
相変わらずぽかんと口を開けたまま、手招きに誘われて式場内に入っていく三人娘。僕もそれを追いかける。
「ね、ねーお母さん。ここ、どうしたの?」
「借りましたー」
「どうやってよっ!? す、すんごくお金がかかるんじゃないのっ!?」
「タダですよー」
「サカイさん、何したの」
お、カカ鋭い。
「いえいえー、お祖父さんにお願いしただけですよー?」
何にでも手を出している空読財閥は、結婚式のプロデュースも請け負っている。その会社にサカイさんは“たまたま”面識があったらしい。そう、たまたまだ。とある時期にその会社が一度潰れかけた経験があったり、サカイさんが電話で「今度こそ潰されたくなかったらー」とか言ってたのなんて聞いてない、聞いてないともさ。
「こっちですよー」
サカイさんの案内で城に入る。厳密には城じゃないんだけど、これ以上に適した表現が浮かばない、式場のスカイリード・チャペルというのはそれくらいに立派な建物だった。
「いまドレスルームでサラさんが準備してますのでー、ちょっとここで待ちますかー」
僕らはロビーのソファで一息つくことに。緊張で喉が渇いてきたとかいっちょ前のことを言うカカたちに小銭をやると、三人はキョロキョロしながら自販機へと走っていった。
「はぁー……サエも結婚ですかー」
「フリですけどね」
「本気だったら断固阻止ですよー」
なるほど。サカイさんのことだから反対するかと思ってたけど、快く引き受けてくれたのはこれが子供の遊びだと割り切ってるからか。サエちゃんを相手にしているときは子供にしか見えないけど、根はちゃんと大人なんだなぁ。
「トメさん、うちのサエをよろしくお願いします」
「うあ、恥ず。何ですか改まって」
「ほらー、結局はこれからも一緒に仲良くやってくわけじゃないですかー」
それも、そうだな。結婚式なんて冗談みたいなことをできるのも、僕らが家族ぐるみで仲がいい証拠だし……
「そうだな、うん。こちらこそカカともども、これからよろしく、サカイさん」
「はい、どうぞよろしくです」
握手、と。
「ところでトメさん、お近づきのしるしと言ってはなんですがー」
「なんですか?」
「口座番号を教えてください」
「近づきすぎ!!」
とかなんとか言ってるうちに、カカたちがジュースを買って戻ってきた。
「ほら、まずはサエちゃん」
「えー、カカちゃんから言ってよー」
「じゃんけんに負けたでしょ、ほらっ!」
ん、なんだサエちゃん。僕の方に身体を向けて、頭を下げた? ああ、結婚前の挨拶ってやつか。
「トメさん、ふつつかものですが末永くよろしくお願いしますー」
君は僕と結婚すんのか?
「娘さんは私が必ず幸せにしますー」
娘とちゃうし。
「だから口座番号教えてください」
「君もかい!?」
似たもの親子め!
「ちょっとサエすけっ! 君、まさかお金目当てで結婚するの!?」
「そんなわけないよー。か、ら、だ、め、あ、てぇん♪」
その妙な色気はどっから出てくるんだ女子小学生よ。
「サエちゃん、私も身体目当てだよ!!」
「待てぃ」
悪ノリするカカを止めつつも周囲を見渡すと、徐々に見知った顔が増え始めてきた。
「キリヤ! 神父役を交代するです!」
「おやま、クララちゃん。できるのですか?」
「クララ経験者です! 誓いのキックも完璧です!」
「では任せました。私は司会に専念しましょう」
キリヤは僕に気づくと軽く手を振った。僕もそれに応えるがキリヤはこちらには来ず、すぐに奥へと消えていった。段取りに忙しいんだろう。おや、あれは?
「兄貴、腕がなるな」
「おおよ弟。なんなら勝負するか?」
「待ちな! 今回の料理長はあたしだよ、勝手なマネは許さないからね!」
「おお、姉貴。料理長の格好が似合いすぎだぞ」
「やはり料理長たるもの、身体が太くなければな。細身の料理長が作ったものはどうにも美味そうに見えなくていかん」
「うむ、おばちゃんおばちゃん」
「ふん、この歳になっちゃ太いとか言われても怒る気ゃしないがね、仕事はきっちりやるんだよ!」
「任せろ、ファミレス東治の繊細な味つけと」
「セイジ食堂の派手な見た目と!」
「給食の栄養を兼ね備えた、究極の料理を用意してやるかんね!!」
こちらもこちらで忙しいようだ。しかし店長二人と給食センター仕切ってる人が料理作るって……友達ってだけで呼んだんだろうけど豪華すぎるな。
おや? 気がつけば……カカとサエちゃんが離れたところに二人して座っていた。
そう、だよな。結婚前だもんな。きっと改めて愛を語り合っているんだろう。
「――ん?」
くい、と引っ張られる服の裾。振り返るとそこには、
「サユカ、ちゃん?」
今にも泣きそうな顔をした、サユカちゃんが。
「どうしたの」
「トメさん……あの……」
サユカちゃんは瞳に涙を溜めながら、カカとサエちゃんのほうを見つめていた。
「あの二人が……結婚するなんて……」
「うん」
「一番仲のよかった、あの二人が……」
「うん」
「こんな、大きな場所で……」
「うん」
「こんなに、皆に祝ってもらって……」
「うん」
「わたし……わたし……!」
「うん、感極まったんだな」
「はい……! 幸せそうなあの二人を見てると……わたし……っ!」
「うん」
「本当に……本当にバカらしくてっ!!」
「僕もそう思う」
何やってんだろねー僕らはホント。
呆れつつも、もうちょっとで結婚式が始まります。
始まります、なんちゃって結婚式。ほんと何やってるんでしょうねこいつらは笑
カカサエプレゼント受け付け〆切りはちょっと延長して、明日一日いっぱいまでとします。遠慮なくどうぞ^^