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カカの天下  作者: ルシカ
612/917

カカの天下612「この日のその理由」

 こんにちは、サエですー。


 ちょっと大変なことになってます。前回の続きですー。え、省略しすぎですかー? 説明めんどいんですもん。


 とにかくー、カカちゃんが「おもしろいことが思いつかなくなった!」と騒いでいるのですよー。


「どうしよう! 生まれたときからおもしろいって言われてきたこの私が……」


「どんな生まれ方したのよっ」


「……えっと……んっと……」


「こんな質問なら即答していたカカすけが!!」


「考えてるー!?」


 いつも一緒にいる私たちにはわかる。これは絶対にいつもと違う!


「うぅ……? リハビリし始めたときは調子よかったのにな。3とか三とか。その後からなんだか調子が狂ったような……」


 そのあとはー……何かあったっけー?


「カカすけ、今までにこういうことってなかったの?」


「なかった。私はいつも変だったはずだ」


 いつも自覚はあったのねー。


「でもさー、もしカカちゃんが普通になったとして、何か問題があるのかなー?」


「あるよ!」


「どんなー?」


「……んー、なんか、口にできないけど、それは沢山の人が困る結果になるような気がするんだよ……」


 よくわかんないねー。別に私たちの様子をテレビで見ている人がいるわけでもなしー。


「これ、どうしたのかね君たち」


「あ、教頭せんせー。実はカカちゃんが」


 私は事情を説明してみた。


「ふむ……こんな話がある。とある家庭で、ろくでなしの夫がいたそうだ。その夫は後々に家を出て行ったのだが、そのとき子供が母親にこう聞いた。『ねぇねぇママ、パパはどこにいったの?』と」


 教頭の声マネ、きもい。


「すると母親はこう答えた。『まぁまぁアキオちゃんたら』と」


 とても渋い中年の裏声をご想像ください。


「母親は言った。『あの人のことをパパだなんて呼んじゃいけませんよ。父と思っちゃいけません』と。子供は答えた。『じゃあなんて呼べばいいの?』と。母親は言った。『獅子は何よりも大事な誇りを失ったとき、死を迎える。つまり名を半分失ったのだ、それと同じことよ』と」


 戦国武将のようなママですね。


「母親は続ける。『父は何よりも大事な妻の信頼を失った、だから“ちち”の半分が削られ、“ち”だ、“恥”と書いて“ち”だ。パパでもあるから頭が“パー”でも構わんぞ。どちらか好きなほうを選ぶがいい』と」


 いつのまにか口調が一般家庭の奥様からかけ離れていますがー。


「ちなみにその父親が出て行った理由は、パチンコで大負けして借金を作ったかららしい」


 パチンコ。パチ。パ、ち……なるほど。この小話、どこから出てきたんだろー。なんだか慣れない人が必死に作った感じがするー。


「つまり何が言いたいかというと、だ。カカ君」


「ん」


「ユーモアを失った君は、今から“カ”だ!!」


「カ!?」


「それが嫌ならば意地でもユーモアを取り戻すがよい。私はそれを期待している。以上だ」


 去って行く教頭。


 その途中、小さく「やはり私にユーモアの才能はないな」とぼやいているのが聞こえた。そっか、これって教頭が作った話なんだー。多分、ユーモアな話を作ろうとしたんだろーなー。でもこんな小難しい話になってしまったとー。教頭らしいなー。あの人は言葉じゃなくて態度にユーモアがある人だからねー。


「それで、どーするのー? カちゃん」


「カチャンって! 私をそんな音で呼ばないでよぅ」


「じゃ、カーちゃんかしらっ」


「貴様のような娘を産んだ覚えはないわ!」


 カチャン。


「あ、筆箱落としたー」


「さぁぁぁえぇぇぇぇちゃぁぁぁん」


 むー、こんなに簡単にカカちゃんをいじれるのは怖い話のとき以来だなー。でも今は怖い話なんかしてないし、種明かしもしたしー……なんでこうなってるのか、わかんない。


 こうなったら最終手段だねー。


「ちょっと電話するねー」


「どこへよっ」


「――あ、もしもし、トメお兄さん? ちょっとお願いがあるんですけどー」


 なるほど、と頷くサユカちゃん。ちょっと恥ずかしそうに俯くカカちゃん。二人の無言の了解を得て、私は仕事中でも電話に出てくれたトメお兄さんに事情を説明した。


『へ? 元気ないままにしとくんじゃないのか』


「それはそうだったんですけどー……家に帰ったら説明しますので、とりあえずお願いしますー」


『わかった』


『――おいトメ! 仕事中に誰と電話してやがるんだ!?』


 あ、トメお兄さんの後ろから声が。まずいかなー?


『すいません、いまうちの姉がヤクザの親分との別れ話から勃発した一人VS組全員の戦争を始めようとしてるので止めてるんです』


『なにぃっ!? おまえの姉って……アレだよな?』


『アレです』


『思う存分電話してくれ。そして止めてくれ』


『話がわかりますね先輩』


『一度、アレの戦争に巻き込まれたことがあるんだよ……古傷がうずくぜ、あんな想いは二度としたくねぇ……俺はあのときに大事なものを失ったんだ……金とか……』


『……よし、先輩は行ったぞ。続きだ』


「トメお兄さん、嘘がうまいですね」


『キリヤに習った口車だ。それに昔に実際あったことを今言っただけだから、嘘と言っていいやらどうやら』


 ……今度、詳しくきこーっと。


「それで、その、カカちゃんなんですが」


『わかったわかった。元気にさせればいいんだろ?』


 え、そんな簡単にー?


『カカに代わってくれ』


 言われた通り、携帯をカカちゃんに渡してみる。でも会話内容が気になるので……カカちゃんの耳元にある携帯に、サユカちゃんと二人して自分たちの耳を近づける。


「あん? 合体でもすんのかてめぇら」


 顔をくっつけあう私たちを見かけたテンカ先生がそんなことを呟いたけど、今は電話内容のほうが気になるのでスルー。 


「ねぇトメ兄。私、変だよね!?」


『すごく』


「どこが変だったっけ!?」


『脳』


「他は!?」


『全部』


「でも変なこと思いつかないんだよ!」


『んじゃ聞くが、今朝に歯ブラシで眉毛を磨いていたのはなんでだ?』


「眉毛が汚れてたから」


『やっぱりおまえは変だ、以上!』


 えー! 終わりー!?


 私は思わずカカちゃんから電話をひったくった。


「トメお兄さん? いったい今のは――」


「……なんか調子戻った気がする」


「カカすけほんとっ!?」


 えー? なんでー!?


『あー、サエちゃん? カカが元気ないのは僕のせいでもあったんだよ』


「どういうことですか」


『昨日から僕は、カカがどんな変なことをしようとツッコまなかった。それで調子狂ったんだろ』


 なるほど――そう思うと同時に気づいた。


 カカちゃんが今朝から元気がなかった原因の半分は、トメお兄さんに相手にされなかったからなのでは?


 カカちゃんはリハビリしようとしていた。ならその相手は、やっぱりトメお兄さんじゃなければいけなかったのでは?


 漫才大会を経験したからこそわかる。ボケとツッコミはタイミングが命だ。それによって調子が変わるのだ。だからこそ、テンカ先生のツッコミでリハビリしようとして、失敗した。


 トメお兄さんと言葉のやりとりを交わすことで、成功した。


 お笑いって……深い!


「カカすけっ! さっきの問題やってみてっ!」


「私は変な人間です! 私が絶好調だと、とっても変なのです!」


「まさにそのとおりねっ!」


 この調子ならプレゼントを渡しても喜んでくれそうだし、結婚式でも全開で変なことしてくれそうだねー!


『大体な、変なやつが変なこと考えようとしたらマトモになるに決まってるだろうに。変なやつは無意識に考えること自体が変なんだ。余計な頭使わなけりゃいいんだよ』


 なるほどなるほどー! 本当に深いですねー!


 ……はてー? それにしてもー。


 なんで私はお笑いについて研究してるんだろー。


 変なの。




 というわけで、カカの復活に加え、ちょっと変わったお話の形にしてみました。ここから610話の最後に繋がるわけです。


 気がついたらトメのツッコミ性能をアピールする結果に。タイミングとか声とかは文章じゃ表現しにくいですからね、それを話を通して表現したということで……

 

 よく読者さんにも言われますが、やっぱりカカ天の基本はこの二人なんですよね。サユカちゃんやテンちゃんがツッコミをできるようになってきても、彼にはまだ敵いません。多分!


 さてさて、カカ&サエちゃんのプレゼントですが。

 明日までとします。つまり……?


 カカも元気取り戻しましたしねー。 

 

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