カカの天下610「ダメなものはダメ」
おはようございます、サユカですっ!
いろいろ赤かった誕生日の翌朝、いつもの待ち合わせ場所でサエすけと一緒に、カカすけを待っているのですが……
「こないねーカカちゃん」
「こないわね……サエすけ、君いまは近所でしょ。来る途中に声かけたりしなかったの?」
「したよー。でも寝癖ついたトメお兄さんが出て」
「そこんとこ詳しくっ!!」
「んーと、ここあたりの髪がこんな風に跳ねてて」
サエすけがなぞった辺りの髪を、ぐいぐい引っ張って跳ねさせてみる。うりゃ、うりゃ、これくらいかな?
「跳ねてたのはそのぐらいだねー」
「……えへ」
トメさんとおそろい……
「続けていいー?」
「どうぞんっ」
「トメお兄さんの話だと、まだ部屋から出てこないってー」
……嘘。
「そ、そこまで昨日のがショックだったのかしらっ!」
「そうかもー」
「ねぇサエすけ? もうバラしちゃダメかしら」
「ダメなものはダメ! これはカカちゃんを喜ばせる魔法なのー!」
うう、そうかもしれないけど辛いわよぅ。
「サユカちゃんてば随分とカカちゃん想いなんだねー」
「ち、違うわよっ! ほら、これだとカカすけを苛めてるみたいで、わたしが悪者になったみたいでイヤってだけっ!」
「大丈夫だよー友達想いのサユカちゃん。想像してみて?」
「だから違うって――」
「カカちゃんが落ち込んでいますー」
「……ええ」
「そこで私がバラしますー」
「……うん」
「バラバラ殺人事件」
「…………」
「ごめんなさい、やりなおしますー」
「よし」
「バラすうちに、カカちゃんの口元が徐々ににやけてきますー」
「……想像はできるわ」
「あまりの嬉しさに我慢できなくなったカカちゃんは発射しますー」
「どこへよっ!?」
「ずごごごごごごー」
「何が発射してんのよっ!?」
「ぷにゃん」
「何が起きたのっ!?」
「ロケット噴射な感じで幸せの国へ一直線ですー。これこそ魔法!」
確かにそれは魔法だけど……そんなにうまくいくかしら、ん?
背中からじゃり、と砂を踏む音。カカすけ?
わたしとサエちゃんは同時に振り向いた!
するとそこにいたのは――
「む、どうしたサエ君サユカ君。俺の顔に何かついているか?」
「タケダ君の顔がついてるー」
「ええ……とても残念ね」
「どういう意味だ!?」
はぁー……と同時にため息をつくわたしたち。
「俺の顔がついていたらいかんのか!?」
「そんな顔どうでもいいからどっかいってよー」
「そうよ。新しい顔でも探しにどっかいきなさいよっ」
「きつっ!!」
きつくもなるわっ! だってわたしたち、こう見えてストレスが――
「あ、カカちゃーん!」
来た!!
カカすけは……うわぁ。
なんだか、見るからに、どんよりしているわ。
「……あ、サエちゃん、サユカン、おはよ」
「う、うん。おはよー」
「元気ないわねカカすけっ!」
タケダなんか目に入ってもいないし! いつものことだけどっ!
「カカ君、おはよう!」
「誰あんた」
あ、タケダ石化。やばいわ、どうでもいい人のことは忘れるくらいに落ち込んでるじゃないのっ!
「どうしたのよカカすけ、ほら、元気出して?」
「うん……はぁ」
そんなカカすけの、深々とつくため息を見て。
「痛っ!?」
わたしは無意識に、隣に立っているタケダの足を踏んでいた。
「カカちゃん? 元気出してー」
「うん……でも、昨日のショックが抜けなくて」
「ひぎっ!?」
わたしはタケダの足をかかとでぐりぐりした。反対側にいるサエすけはタケダの指を一本だけ握って捻っている。
そう、耐えているのよ。タケダを罪悪感とストレスのはけ口にしながらっ!
「そ、そんなにショックだったー?」
「うん……だってさ、あんなに怖いものがいっぱい送られてくるなんて、私、嫌われてるんじゃないかって」
「ぬぐぉぉぉぉぉ」
「そ、そんなことないわよっ! きっと相手に悪気はないのよ!」
「そうかな? だって私の嫌いなのばっかり」
「ぬぐぁぁぁぁぁぁ」
「ほらー、相手がちゃんとカカちゃんのこと知ってるとは限らないでしょー? それでたまたま悪いの選んじゃったんだよー」
予想外なほどの落ち込みように必死でフォローするわたしたち。あれらが本当に善意のプレゼントってことさえバレなければいいのよ、証拠さえ隠し切れればいいの。それさえ守れればドッキリは、魔法は成功するわっ!
「ぐぃぃいぃぁぁああぃぃあ」
それにしてもうるさいわねこの男っ! ちょっと四肢が捻られてるだけでなによっ!
「そうかな……偶然かな」
「そうだよそうだよー」
「そうよそうよっ!」
「そっか……そうだよね」
ほっ……どうやら切り抜けられそうね。毎回見るたびに思うけど、本当に怖いのダメなのね……
「ほら、学校いこー?」
「うん……」
「ほらほら元気出せって言ってるでしょっ! 週末が本番と思えばいいじゃないっ!」
「うん……」
ごめんねカカすけ、ダメなものはダメなの。魔法を成功させるためには、もう少し、ね。
あれ? そういえばタケダの声がしなくなったわ。どこに……?
地面に落ちてるわ。
静かになってよかったわ。
「さ、学校行くわよカカす――」
「でもね、去年があれだけ嬉しい日だったのが、今年はあんなに怖い思いをする日になっちゃったんだと思うとさ……なんか」
あ。
「なんか、泣けてきて……」
ええと、タケダは?
感情のはけ口は――
「なんか……」
我慢。
ダメなものはダメ。
「なんか……ぅう……ひっぐ」
そう、ダメなものはダメ。
そうよ、こんなの――我慢なんかできるかぁっ!!
「カカすけ、ごめんっ!!」「カカちゃんごめぇぇんー!!」
「……えぅ、なに、二人して」
「あぅぅぅぅぅー実はね実はねかくかくしかじかでー!!」
「かくかくしかじかじゃわかんないよ」
「わかりなさいよ気が利かないわねっ!! つまりねつまりね――ということよっ!」
「――じゃわかんないよ」
「うるさいわねっ! それで説明したことにしなさいよっ!」
ごめんなさい。無理でした。魔法は失敗です。
カカすけのあんな顔を見たら、もう我慢できなかったの……!
「……え、じゃ、あれ、わざと?」
「そうよっ! 一回落ち込ませたほうがもっと喜んでくれるって――」
「サユカちゃんが言うからー」
「ちょと待てっ! 言ったのは君でしょうがっ!!」
「だってだってー! もっと喜んでもらいたかったんだもーん!」
「そう、だったんだ……」
あーもー!!
「そのつもりだったのに、カカちゃんがまた泣くからー!」
「そうよっ! 台無しよっ!」
「二回も泣かれたら我慢できるわけないでしょー!」
「どうしてくれるのよっ!?」
「へ? は、はぁ、すいません」
カカすけ、君ねぇっ! 謝って済む問題じゃないのよっ!! 謝るのはこっちだからよっ!
「わかったらさっさと許しなさいよっ! 誕生日おめでとうっ! ごめんっ!」
「そうだそうだー! めでたいだー! 誕生日だー! ごめんだー!」
ヤケになっていたわたしたちは激しくカカすけに詰め寄った! なんだかもう言ってることもメチャクチャで、カカすけに魔法をかけられなかったのが悔しくて、もうわけわかんなくて――
「許さない」
その言葉を聞いて、不覚にも涙が出てきて――
「なんですってぇっ! ふ、ふざけんじゃないわよっ!! 本当に悪かったわよぅっ! 許してくださいお願いしますよっ!」
「えぅぅ、そうだよ早く許してよー! カカちゃんに見放されたら死んじゃうよぅー! ほらこれ! 昨日のプレゼントのちゃんとしたメッセージカードだよー!」
「これは届いてた三角定規十個よ! 購買部と届け先間違えてないっ!?」
「それから雑貨屋さんからスッポンエキスと安全マットが届いてるよー! ほらほら、チョイスが意味わかんないけどケロリン味でケロリン柄だよー!」
「ほら驚けっ! 『世の中のでゅみゅみゅみゅう』って本よっ! 好きでしょっ!?」
「ほらほらー、なんか知らないけどバイクまでもらっちゃったんだよー!!」
ほらほらほら! これでも許してくれないのっ!?
「……その、ランドセル……一体、どこへ、繋がっ……四次元? どうやって、入れてたん……」
なんか落ちてるタケダっぽいのから音が聞こえた気がするけどそれどころじゃないので無視っ!!
「どうよー!?」
「どうよっ!?」
「許さない」
「そこをなんとか頼むわよぅっ!」
「どんなことでもするからー!!」
「罰として、私に抱きつけ」
ぎゅ、と。
そんなことを言いながら、抱きついてきたのはカカすけのほうで。
すごく近い、その横顔を見て。
幸せそうな、その顔を見て。
あ、なんだ。魔法、成功してんじゃん、なんて。
そんなことを思ったら、すごく気が抜けてきて。
わたしもサエすけも、泣けてきちゃって。
カカすけも泣いちゃって。
しばらくその場で抱き合いながら、三人で泣いちゃった。
道のど真ん中。周囲に人は少しだけいて、何事かと見られていたけど構わない。遅刻? それがどうしたっていうの。
「誕生日っ」
「おめでとー!」
「……ありがとう!」
サエすけ、作戦失敗ね。腹黒くてもまだまだ子供。そうそう、うまくはできないわよね。
でも、結局は最後の最後にハッピーエンド。
少しくらい早まったって、構わないわよね?
そう思ってたんだけど……
「構うに決まってるだろ!!」
学校が終わったあと、トメさんに怒られたわ。
「我慢してた僕の想いはどうなるんだああああああ!! すんごい辛かったんだぞカカにあんな顔させてるの! それを勝手に解決するなんて!」
「ご、ごめんなさいトメさんっ!」
「あのときのカカちゃんの顔、可愛かったー」
「……二人とも、そのときの話を詳しく」
隠しておいたプレゼントの物色にカカすけが行ってる隙に、トメさんは話を聞いてきた。
でも、ちゃんとカカすけが幸せそうだったと聞くと、「ならよし!」と許してくれたわ。
わたしたちって……ヘタに騙すこともできないくらいカカすけが好きだったのね。悔しいから口には出さないけど。
「このプレゼントを送ってくれた人を全て呼ぶがよい! 私が抱きついてくれるわぁ!!」
「やめとけ。面倒だから」
「じゃーその分、私に抱きついてー」
「ハイ喜んで!」
「僕はさすがに遠慮しとくけど……サユカちゃん? 行かなくていいのか」
「べ、べつにっ!!」
どうせ抱きついてくるもの。
……ふん、口に出さない代わりに、せいぜい抱きつき返してやるわっ!
何度も言うけど、おめでとうっ!
話が違う? 皆で一緒にカカを騙すんじゃなかったのかって?
HAHAHA! 小説は読者さんを騙してなんぼですよ! オコラナイデネ。
はい、というわけで。前回あんなことを言いながらも即行でバラしてしまいました。えー、ハイ、お二人がどうしても我慢できないと言うもので。どれだけ説得しても聞かないもので。
今回は笑ったり大騒ぎでいこー! とか言ってたのにこんな感じとなってしまい……そこは謝ります。これコメディですもんね。こんなんばっかじゃダメですよね。 でも……話はカカたち任せにしてるので、勘弁してください。この分はきっと、結婚式で弾けてくれるはずです、きっと!
……ほんと、オコラナイデネ。
カカ、何度も言うけど誕生日おめでとう!