カカの天下603「再利用、不可?」
こんばんは、トメです。
運動会を終え、打ち上げで大騒ぎした翌日である本日、仕事を終えてきました。
ダルいです。
日ごろたまにランニングしているとはいえ、全力で走るのは久々のこと。さらにはカカと呼吸を合わせて――なんていうハイレベルなことをしたせいで身体は筋肉痛で重いのです。だから疲れた。ダルい。当たり前ですね。
そんなわけで僕はダラーっとした顔で帰宅しました。
「ただいまー」
返事がない。でも靴はある。家にいることは確かだけど……
「代休だしゆっくりするとは言ってたが、まさかまだ寝てるなんてことは」
ないだろうな、と呟きかけて。
いつもの習慣でホワイトボードの方を見て。
絶句した。
「おいカカ!」
「んー……」
妹の部屋に突入してみると、案の定そいつはまだベッドの中だった。気持ちよさそうに眠っているが、僕は気持ち悪い気分なので起きてもらう。
「おい。おーい、起きろ」
「……ん……や」
「ヤじゃなくて!」
「やー」
くそぅ、起きない。こうなったらこいつが最近気に入ってるこの言葉で!
「ほらカカ。あそこに、でゅみゅみゅみゅうがいるぞ」
「でゅみゅみゅみゅう?」
あ、起きた。それにしても言いにくいなこれ。
「んー?」
むくりと身体を起こしたデンジャーケロリン柄パジャマのカカは、少し目をしばたいて僕へと焦点をあわせた。
「なに言ってるのおにーちゃん。でゅみゅみゅみゅうって九時から始まるんだよ?」
「おまえこそ何を言っとるのだ」
まだ寝ぼけてるな。
「カカ、おまえまさかずっと寝てたのか?」
「んー? んーん、おひるね」
「それならいいけど……そんなことより! なんだよ、あのホワイトボードのところにぶら下がってたのは!」
「ブラ、下がる? トメ兄おっぱい垂れたの?」
「そうそぅ最近気になってきてこれも歳かなーって違う!! ふんどしだよ!」
そう、運動会で使われたあの垂れ幕ふんどしが、玄関の壁一面にでかでかと貼り付けてあったのだ。
「そっかぁ。トメにー、ふんどしに出迎えられて興奮したんだね。はなぢぶー?」
「なんだそのとてつもない文章は! 疲れてるところにふんどしから『おまえを殺す』宣言されてめっちゃ気分が悪いわ!」
「んー……うっさいなぁトメ兄。まだ眠いのに」
「いいから、なんでアレがあんなとこにあるんだよ!」
「なんでってトメ兄。『おまえを殺す』だの『ふんどし』だのでっかく書かれた垂れ幕なんて、学校っていう教育の場に置いておくわけにはいかんでしょう」
ええい、言われてみればもっともだがソレを公共の場で発表したやつが何を偉そうに。
「とにかく、あんなもんいらないから捨てとくぞ」
「待てぃ、もったいなかろうが」
「なんだその口調は」
「いいからおぬし、あれはリサイクルするのじゃ、活用法をのべよ」
まだちょっと寝ぼけ眼だなこいつ。
「はよぅのべよ」
「リサイクルったってなぁ……」
「仕方ないの、わらわが提案してしんぜよう」
「誰だよおまえ」
「例えばじゃ、んーと、デパートはどうじゃ?」
「デパート……?」
想像する。
ある晴れた日、高々と上げられたバルーンから下げられる垂れ幕にはこう書かれていた。
『大安売り、おまえを殺すふんどし』
「いらねー」
「宣伝文句は、上手い早い臭い」
「何が!?」
「殺し方が」
全然よーわからんがソレだけには殺されたくはないな。
「それではあれじゃ、クリニックはどうじゃ?」
想像する。
病院の壁に下げられた幕にはこう書かれていた。
『おまえを殺すふんどし、治します』
「治せねー」
病気じゃねーし。
「自動車屋はどうじゃ」
想像する。
『最高時速三百キロでおまえを殺すふんどし』
とてつもなく恐い。
「ならばあれじゃ。お笑い番組でどうじゃ」
「お笑い……?」
「笑えるおまえを殺すふんどし」
「どこをとっても微塵も笑えんのですが」
「じゃー笑いながらおまえを殺すふんどし」
「なんだその妖怪は」
「じゃー笑いながらおまえを殺すふんどし妖怪タケダ」
「タケダどっから出てきた!?」
「それに今までのを合わせてー」
今までのを、合わせて……?
『大安売り! 最高時速三百キロで笑いながらおまえを殺すふんどし妖怪タケダ、治します』
なにこのカオス。
「めでたしめでたし……」
なにやら自己完結して眠りやがったこの小娘。
んー……
変なことに使われる前にアレ燃やしとこう。秋だし焚き火の一つくらいいいよな。
僕はそう決めると、速やかに作戦実行に移るのだった。
久々にふっつーの話を書きました。ちょこっと運動会の名残をのこしつつも、どうでもいーまったり話です笑
え、またでゅみゅみゅみゅうなのかって?
だって……なんだか知らないけど皆やたら使うんだもん。だから好きなのかと……