カカの天下601「貴桜運動大戦 お昼休み」
こんにちは、トメです。
色々あった運動会。お昼休みの時間となり、ようやくゆっくりとお弁当を食べることができます。
思い思いの場所でシートを広げ、昼食をとる父兄と生徒たち……
「ニッシー! さぁお弁当をよこしなさい!」
「はいはい。だってさお母さん、お弁当出して」
「あ、おばさま! こんにちは!」
「あらあらアヤちゃん、こんにちはぁ」
「ニッシー、ちゃんと手伝ったんでしょうね」
「半分は僕がやったよ」
「よろしい!」
「いつも一切手伝わないアヤ坊がなんでそんなに偉そうなのさ」
「その分いつも遊んであげてるからよ」
「ヒドイ! 僕とのことは遊びだったのね!」
「へっへっへ、楽しい思いができたんだからいいじゃねぇか」
「返して! 僕がいままで貢いだお弁当を返して!」
「トイレにいけば多分あるんじゃない?」
「……アヤ坊、いくらなんでも女子にその返しはないかと」
「はいはーい、お二人さん。仲がいいのはいいけどお弁当広げてー」
「あ、すいませんおばさま」
「アヤちゃんのご両親は、まだ?」
「海外です」
こんな風に仲のいい男子と女子が集まったり……
「テンカせんせー」
「お、ふんどし三人組」
「……テンカ先生、その呼び方はどうかと」
「んだよ、自分たちのふんどしを皆に見せつけてたじゃねぇか。格好よかったぞ」
「誤解を招く言い方やめてくださいっ! 女がふんどしするわけないじゃないですかっ」
「サユカン、男もしないと思う」
うんうん。
「オカマはー?」
知らん。
「お、サエ。足はもういいのか?」
「とりあえず歩くことはできますー。ところで……」
「おろ。どした母さん。オレの背中に隠れて」
「あ、あはは……元気のある子たちですね」
「圧倒されたか。ほんと母さんは気が弱いな」
「あ、ちゃんと私たちが贈ったペアリングとかネックレスとかつけてくれてますね!」
「あらあら、じゃああなたたちがテンカのいつも言ってる……」
「む、なんて言ってるんですか?」
「ふんどしトリオと」
「それついさっき生まれたネタでしょっ!?」
「それにしてもー……ふーん、確かにペアアクセサリをつけてるけどー……」
「なんだよサエ」
「アレはー?」
「うっせぇ。ほれ、てめぇらはトメたちと一緒に食うんだろが。さっさと飯食って来い!」
「ふふふー、照れちゃって」
「それじゃ親子でごゆっくり! いこいこ」
「……サエすけ、アレってなに?」
こんな風に教師も親子でお弁当を食べたり……
「……サユカ」
「あ、お父さん、お母さん」
「あなた……借り物競走で……」
「ひぅっ!? ききき聞いてたのっ!?」
「うぅ……」
「母さん、泣くな……うぅ」
「泣くほど格好悪かった? ごめんねっ、ごめんねっ!」
「立派になって……」
「どういう感想っ!?」
「おまえは俺たちの誇りだ!」
「一体何をどう誇るのか詳しく述べよっ!!」
『愛をっ!!』
「わたしの親っていったい……」
こんな風に午前の雄姿を語る親子がいたり……
「あらあら教頭先生、どうしました?」
「共に弁当を食す相手がいないのです」
「おほほ、寂しいですね」
「とても」
「わたくしはクララちゃんと食べますが」
「ご一緒しても?」
「どうしますかクララちゃん?」
「ヤです!」
「フラれてしまった!!」
「あらあらクララちゃん、どうして?」
「教頭はデザート全部食べちゃうからです」
「たしかに」
「教頭先生? デザートを食べないという約束ならご一緒しても――」
「それは拷問です」
こんな風に一人で食べるハメになった人がいたり……
色々な昼食風景があるわけだが、さてさて僕らのほうは。
「トメ兄。お弁当は?」
「あ、僕作ってないぞ」
「なんだと!?」
「心配するな。こういうときのお弁当はやっぱり母親の手作りにすべきだろう」
「……そりゃそうだけど、お母さん仕事でこれないし」
「弁当だけなら作ってくれたらしいぞ」
「ほんと!?」
「ほら、届いた」
なにやらざわついている方向を見ると、相当な人数の注目を集めながらサンタ姿のおっさんが現れた。
「ふぅ……周りの視線が熱いわい」
「ご苦労様です。この天気だと、その衣装が単純に暑いんだと思いますが」
「ほっほっほ、それもあるのぅ。ほれ、ユイナさんのお弁当じゃ」
「わざわざありがとうございます……ん、どしたカカ」
ぽかーんと口あけて。玉子焼きでも放り込めばいいのか?
「と、とめ、トメ兄!」
「なにさ」
「こいつナニブツ!?」
「サンタ」
「や、わけわかんないから!!」
あれ、会うの初めてだっけ?
「この人は――」
「まぁまぁ、わしはサンタ。それでいいじゃないか」
「や、しかし。せっかくお越しいただいたのに」
「よいよい、わしもわしで忙しいのじゃ。それではの」
「ありがとうございました! ほら、カカもお礼言って」
「え、あ、うん。ありがとー!」
「ほっほっほ、また会おう」
唖然とする周囲の人を全く無視して、のっしのっしと去っていくサンタのおっさん。
「……ねぇ、トメ兄。あの人、なに?」
「うちのばあちゃん」
「はぁ!?」
思えば僕もあの人に会うの二年ぶりくらいなんだよね。滅多に人前に出てこないし。
「え、は、うそ、どう見てもおっさんだよ!?」
「変装だよ」
「なんでサンタ!?」
「正体を隠せるから」
「なんで隠すの!?」
「正体バレるとすぐに命狙われるからって」
「え、待って待って待って……ばあちゃんって、あのばーば? 戦隊モノ好きだった」
「覚えてんじゃん。本当はサンタじゃなくてなんとかレンジャーになりたかったらしいけど」
「死んでるでしょ!?」
「死んだフリしてんだよ。過去にいろいろやったから」
「毎年墓参りに行ってるのは!?」
「じいちゃんの墓参りついでのカモフラージュ。だってあの人が死んだ場面なんて見たことないだろ」
「嘘……じゃあ、なんか、墓参りに行く度に聞こえた気がしたばーばの声って……」
あれ、カカも聞こえてたのか。んじゃやっぱ墓参りの度に近くにいたのかね。声かけてくれればいいのに。
「なんでうちの家系にはまともなのがいないんだろう……」
「や、片親がまともじゃないんだから仕方ないだろう。父さんは忍者、その母親も忍者。ギャグだよな」
マジなのが笑えないところだが。
「今日は父さんも忙しかったらしくてな、母さんの弁当を届けてくれたわけよ。ほれ、食べるぞ」
「う、うん……」
相当ショックだったのか、カカは困惑した表情のまま頷いた。まったく、毎日毎日頭を使わず感性の赴くままに行動してるからそういうことに気づかないんだ。父さんのことも一度忘れてたしな。
……まぁ、軽々と身をくらます忍者がオカシイんだが。
「あ」
「お」
僕たちのシートが敷いてある場所に戻ると――そこにはなんと、ヤナツ君が。
「……どういうことだろ」
「さぁな。サエちゃんとサカイさんと対峙してるけど。お、サラさん」
「トメさん、カカちゃん。トドメちゃんと刺してきたよ!」
「へぇ、その結果があれか」
「うん!」
「ねぇサラさん」
「ん?」
「トドメを刺したのに、ヤナツはなんでまだ生きてるの?」
「……冗談よね? 冗談だよね? トドメってそういうことじゃなかったんだよね!?」
カカの遊びはともかく、あちらはどうなってるかな――
「えっと……サエ」
「んー?」
「あ、その、な……えっと……」
「んんんー?」
「だから……」
「はよぅ申せ」
「俺が悪かった! どうか許してくれ!!」
「許さん」
「ぐはぁ!!」
「お母さん、ここは私が答えるところー」
うん、今許さんって言ったのサカイさんね。
「えー」
「えーじゃないの。ごめんねヤナツ君」
「い、いや。許されないのも当然だ! だけどサエ、ど、どうか許してほしい!」
「うん」
「許してくれるのか!」
「だめー」
「ダメなの!?」
今のはサエちゃんね。おーおー、ペコペコと謝って。
これこそがサカイさんの立てた作戦の最終目的――本人に心から謝らせること。痛めつけるだけじゃなく、自分たちがそれぐらい痛かったんだとわかってもらうこと。
やり口はとてつもなく邪悪だったけど、結果オーライってとこか。
「うまいことやったみたいだな、サラさん」
「どういうトドメさしたの?」
『わかってもらう』という部分がすなわちトドメだったわけだが。
「……えっと、恥ずかしいんですけど」
ほほう?
「言え言え」
「えっと、うう、はい。んー、うちの家訓にですね、『敵には全力で当たれ、泣いても許すな。叫んでも許すな。涙が枯れたらちょっとだけ許せ』っていうのがあるんですけど」
「それに加えて恥ずかしいって一体ナニやったのさ」
「そんな感じで容赦なく叩きのめしたとか? 恥ずかしい言葉を叫びながら」
「ちちち違います! そんなことしませんよ! いやらしい!」
ナニ考えたの。
「ただ、全力で八つ当たってどうするの? って話をしただけですよ」
家訓活かされてなくない? いいけどさ。きっとクサイこと言ったんだろうなぁ。それで言うの恥ずかしいんだろうなぁ。でも家族の間なら、それくらいでちょうどいい。ある意味、今回の作戦の中でサラさんが最も適任者だったかもしれないな。
「一体どうしたら許してくれるんだ!?」
お、ヤナツ君が叫んだ。
「じゃーおもしろい話言ってー。笑える話」
「なに!? う、いや、俺はそういうのは苦手で」
「最近あった恥ずかしい話でもいいからー」
「……調子に乗って、皆に一位宣言しておいて……ボロ負けした」
「あははー、カッコワル」
「死んだほうがいいねー」
「お母さん、それはキツすぎ。せめて笑ってあげよう?」
「あはははバーカバーカバーカ」
「うわぁぁぁぁぁぁん!! ねーちゃん! 俺笑えねーよ!!」
助けを求められたサラさんは能天気に「がんばれー」とだけ応援した。薄情だ。
「おいヤナツ」
「げ、カカ」
「そもそもね、誠意ってもんが伝わってこないんだよ」
「……どうしろってんだ」
「弁当よこせ」
「おまえが腹減ってるだけだろ!?」
「負け犬が私に口ごたえ? 恥を知れ!」
「さっき腐るほど知ったわ!」
楽しそうじゃん。
どうなることかと思ったが……午後からは楽しく競技をできそうだな。
そう、思ってたんだけど。
見つけてしまった。
「なぁ、サラさん」
「なんですか、トメさん」
「皆笑ってる中、一人だけ暗い顔をしてる人を見つけたんだけど」
「あ、お父さん」
そう、隅っこで居場所がなく立ちつくしている人だ。
「あああ! さっきなんとかちょっと笑ったのに、また笑えなくなってます!」
「どうするね、サラさん」
「こうなったら、トメさんを紹介します!」
「は? なんでそうな――」
「お父さーん! 私をこの人にあげてくださーい!」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!!」
――ともあれ、うん。
ちゃんとお弁当食べて、午後を乗り切ろうね皆。
皆様に謝らなければいけないことがあります。
えーと。
終 わ り ま せ ん !
ううー、なんだよぅ、書きたいこと多すぎるよぅ、一話にまとまらないよぅ、
というわけでもう一話続けてしまいます!
勘弁!
あと昨日カカラジ載せてからメッセージが20件くらい着てテンション上がってます笑 どんどんどうぞ!