カカの天下6「誕生日は忘れるな」
トメでーす。
「友達が誕生日なんだけど」
仕事から帰ってきた途端に妹が現れ、そんなことを言いました。
「プレゼントあげようと思うの」
ほほう、日頃変な話題ばっかり出してくるから人としてちゃんと成長しているのか心配だったけど、どうやら少しはまともな部分があるようだ。これも僕の教育の賜物だね。
「へぇ。で、その誕生日はいつなんだ?」
「今日」
「今日かい」
「元々その子の誕生日知らなかったんだけど、なんか今日ずっとあからさまに落ち込んでたから、もしかしてと思って調べたら案の定って感じ」
ほんと、この子は妙に聡い。マセてるとも言うか。
「だからまぁ、一応祝ってあげてポイント稼ごうかと」
この歳からそんなことを考えてるとは……女は末恐ろしい生き物よ。
「しっかし今日はもう夕方だし、買いに行く時間なんかないぞ?」
「や、祝うことが大事なんだから気持ちだけでいいんだよ」
「建前もなにもあったもんじゃないな。まぁ、そういうことなら探してみるけど」
お菓子あたりが無難かな、と台所をごそごそと漁ってみる。
そして出てきたのは、
「高級かつおぶし」
「……なんでそんなのがあるかな」
「なんか姉が送ってきたんだよ」
「お姉が? うちにろくに顔出さないでなにやってんだか」
「これでいいかな」
「ダメに決まってるじゃん。女の子の誕生日にかつおぶしプレゼントする人なんていないよ」
「でもこれ結構高いんだぞ」
「いくら?」
「五千円」
「うそ!?」
「ほんと。小学生の誕生日なら五千円もかかってればオッケだろ」
「お金かかってればいいってもんじゃないでしょ」
「金かかってればいいんだろ。女なんてそんなもんじゃないのか?」
「そんなだからトメ兄はいつまで経っても男になれないんだよ」
「……ちょいと君。どういう意味で言ったんだそれは」
「んー、でも向こうのお母さんがそれでおいしいお味噌汁作れば一応喜ばれるかな。まぁ、候補には加えとこう。他にない?」
僕の疑問は無視された。なので渋々探索を開始する。そして次に出てきたのは、
「高級漬物」
「なんでそんな微妙な高級品ばっかりあるのうちには」
「だって姉が」
「あのアバズレめ」
「や、かつおぶしと漬物を送ってくるアバズレってわけわからんし」
「で、その漬物も高いの?」
「七千円」
「たかっ! なにが入ってたらそんな高いの」
「たらば、数の子、ホタテ……北海道にでも行ってたのかな」
他にもないか探してみたが、めぼしいものはこれくらいだった。
「とりあえずかつおぶしと漬物しかないぞ」
「……こんな微妙なものなのに合計金額一万二千円って、なんか馬鹿らしいね」
「で、どうする? これもってく?」
「……手ぶらっていうのもなんだし、高いっていっても私のお金じゃないし……持ってって、みようかな」
「おお、チャレンジャー」
苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、カカはその二つをもって友達の家に突撃した。
――そして、帰ってきた。
「なんかすごく喜ばれた。その子のお母さんとおばあちゃんに」
そりゃかつおぶしと漬物だしな。
「で、カカが持ってるそれは?」
「なんかお礼にって高級洗剤と高級納豆もらった」
「……その子は、喜んでたか?」
「うん。知っててくれてたんだねってすごく感激された」
「へえ、よかったじゃないか」
「そのとき、一緒にいたお母さんとおばあちゃんが『そういや誕生日だったっけ!?』って驚いて、その洗剤と納豆をプレゼントしようとしたのは笑えたけど」
「は。覚えてなかったのか親!?」
「だから感激したんだね」
家族に誕生日を忘れられ、なんとかもらえたのがかつおぶし、漬物、洗剤、納豆の高級シリーズだなんて……その子、憐れすぎる……
「おまえ、その子と仲良くしてやれよ」
「うん。なんかあまりにも憐れだし」
「そんなこと口にするおまえもある意味憐れよのぅ」
そんな感じで、今日も終わる。