カカの天下596「貴桜運動大戦 徒競走 借り物競走」
こんにちは、サユカですっ!
貴桜小学校の大運動会、ついに始まったわけですが……
『次は、五十メートル走です』
どぎゅん!
『次は、百メートル走です』
ずぎゅん!
『次は、持久走です』
しゅたたたたたたたたたたたたー!!
わたしは唖然とするばかりだわ。
「ん、どしたのサユカン」
「カカすけ……あんた、はっやいわねぇ……」
プログラムのほぼ最後にある運動会の花形、全学年対抗リレーの“走る体力”を温存させるために、うちの小学校の運動会は午前中でほとんどの徒競走を消化してしまう。なので序盤、五年生が出場する三つの競走をとりあえず応援してたんだけど……
「当然っしょ。だから全部出ろって言われたんだし」
「……そりゃそうだけど、よくもまぁそんなケロっとしてるわね」
「だって私、ほとんど全部出るんだよ? まだ半分も終わってないのに疲れてどうすんの」
余裕で一位をとりまくったカカすけは、持久走の直後にも関わらず平気な顔をしていた。軽く息は切らしているけど五分もたてば元通りっぽい。わたしから見ればこの子も充分バケモノだわ。
「次は借り物競走か。私は五年生の最初、サユカンは最後だね」
前半にある数少ないイベント競走ね。あとは走ってばかりもつまらないという理由で入っている棒倒し、そしてお昼前に父兄参加の二人三脚障害物走と続いていくわ。
「……あ、サエちゃーん! 準備はどう?」
「ふー。うん、バッチリ」
サエすけがどこからか戻ってきた。どこから――運営本部? あそこにはタケダが……
「サエすけ? 準備って、何してきたの」
「いいからいいからー」
『次は、借り物競走です』
「ほらサユカン。呼ばれたよ、行こう」
……あやしい。
「がーんばってねー」
……あやしすぎる。
怪訝に思いながらもわたしにはどうすることもできず、おとなしく指定された位置へと並んだ。
うちの小学校は学年につきクラスが三つある。なので、一組は赤組、二組は青組、三組は黄組で統一される。でもわたしたちは赤組、なんて呼び方はしない。これは午後の始めにある応援合戦にも大きく関係してくるんだけど。
赤組は赤鷲団。
青組は青龍団。
黄組は黄隼団として、今もそのシンボルが描かれた旗を振り回して、声を張り上げて応援しているわ。すごい熱気……これは応援合戦が楽しみねっ!
「位置について!」
ってそんなこと考えてる間にもう出番っ!? 慌ててスタートラインにつく。ちらりと向こうを見てみると、またもや一位のフラグを持ってるカカすけが見えた。さすがだわ、こんな運が左右する競走でも一位をとるなんてっ。
「よーい!」
パン! と乾いた音と共に猛ダッシュ!
幸先はいいわ、今のところ二位ねっ。あとはゴールまでに三つある借り物がなんなのか……
テーブルに到着。すでにお題の書かれた札を取ったにも関わらず呆然とそれを眺めている隣の人に首をかしげつつ、裏返しに並べられた札の中から直感で選んだ一枚を開く!
これが借り物のお題よっ!
『好きな人』
……ええ。そんなこったろうと思ったわっ!
迷わず一般の応援席へと駆け出す。この種目をやれと推したカカすけとサエすけ。そして先程のサエすけの怪しい行動。どうせタケダをいいように使って借り物内容を変えたに違いないわ。
ふふ、甘かったわね二人とも。いつまでもいじられるわたしじゃないのよ。とっくの昔に告白したわたしにとって、このお題はもはや赤面するくらいの効果しかないっ! むしろそれをすでに予想し、予めトメさんの位置を確認しておいたわたしにとっては一位への布石でしかないのよっ!
「トメさん、来てくださいっ!」
「僕? あ、ああ」
何か察したのか、ちらりとカカすけとサエすけの方を見るトメさん。でもあっさりとシートから腰を上げてくれた。その手を繋ぐ。
きゃはんっ!
っと、お、落ち着くのよサユカッ! たった今これくらいなんともない宣言したばかりじゃないのっ、なのにこんな、手の感触に、に、にへへへへへってニヤケるんじゃないのっ! ここで慌てたらあの二人の思うツボよっ!
その二人へと目を向ける。グラウンドの隅でニヤニヤしながらこちらを眺める二人。それにわたしはニヤリと笑ってみせた。こんなの余裕よっ、という意思を込めて。
でも二人のニヤニヤは止まらなかった。わたしがつまらない反応をすればガッカリすると思ったのに……拍子抜けだわ。
「サユカちゃん、僕はこのまま一緒にいけばいいのか?」
「え、は、はいっ! ゴールまで付き合ってください!」
できれば人生のゴールまでお願いしますっ!
「つ、次の借り物ですね」
言葉にできないのをもどかしく思いながらも次の札を取る!
すると。
『一番大事な友達』
こんな悪魔めいた、お題が。
「…………っ」
「サユカちゃん?」
わたしは無言で走る。
そして、その二人の前に立つ。
その、なんというかひたすらニヤニヤニヤニヤニヤニヤしてる、二人の前に。
「さぁ、どっち!?」
「どっちー?」
自覚できる、わたしの顔はまっかっかだ。くそぅやられた。トメさんのお題はカモフラージュだったのかっ。
「私とその女、どっちがいいの!?」
「さぁここで決めてー、はっきりしてー」
うう。
うううう。
「え――」
『え?』
「選べるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
わたしは二人の手を片手で強引に掴み、もう片方の手で掴んでいるトメさんごと引きずって強引に走り出した!
「やーん、サユカちゃんたらハーレムー?」
「サユカンのえっち!」
「うるさいわぁっ!!」
「……なんなんだ、コレ」
トメさん、わたしも同意です。なんなんでしょうコレ。
ともかくこれで二つのお題は消化っ! 次はっ!?
「わたしは手が塞がってるので、トメさん、お札を選んでもらえますかっ?」
「え、いいの? じゃあ……これ」
さぁ、次は!?
「ふりだしに戻る」
「すごろくかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
わたしの渾身のツッコミが炸裂、しかしそれも空しく、「早くスタートに!」とカカすけに急かされてしぶしぶスタートラインへと走る。
「ラインに足でタッチしたら、もっかい借り物ね」
「……まじっ!?」
「さっきタケダ君に確認してきたから間違いないよー」
「そういうルールにしろってタケダを脅した、の間違いでしょっ!」
もうなんでもいいわよもう……次のお題は?
『好きな人との理想の将来を語れ。はい、マイク』
「借り物関係ないしっ!!」
札のそばには「どうぞ」とばかりにマイクが……
「ほら、サユカン。やらないと」
「いつまでもゴールできないよー?」
「サユカちゃん? お題ってなんだったんだ」
一人だけ札の内容を知らないトメさん。
う、うううっ。
くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! ヤケだっ!!
『わたしの夢はっ!!』
大音量でグラウンドに響くわたしの声っ!
『トメさんと結婚して子供を六人くらい生んで幸せな家庭を築いて海辺の家に白い犬と猫を飼って暮らすことですっ!!』
思わず押し黙る皆さん。なぜか流れていたBGMまでもがストップした。
そんな中、一番呆然としているのはもちろんトメさん。
「こ、子供……六人?」
『がんばりましょうっ!』
「ちょっと待て! そのタイミングでがんばりましょうって言われると、その、子供を作るためにナニをドウがんばるぞーみたいに聞こえて――」
『知りませんっ!』
もういいんです。
もうヤケです。
どうせ本心、いつかはバレる!
「これで満足っ!?」
首謀者二人へ目を向ける。
爆笑していた。
「さ……サユカン……くはは……ほ、本心が知られちゃって、残念だったね? ああ、ざんねん」
「ざんねらないっ!」
「あははははー! ああ、むじょー」
「むじょらないっ!!」
あとで見とけっ!
「次のお題はっ? なに、『先程の夢に友達もプラスしろ』ですってっ!?」
マイクを握る!
『さっきの夢に出てきた白い犬の名前はカカ! 猫は黒色で名前はサエよっ!!』
『ちょっ!?』
『二匹とも五歳で死亡!!』
『そこまで決めるのー!?』
ステレオでわめく二人にプチ復讐完了っ! さぁ最後のお題はぁっ!!
『ごめんなさい』
「許さんっ! はいゴールいくわよっ!」
もうキレちゃってたわたしは大したリアクションも取らず、三人を引きずってゴールへと爆走した。
そしてゴール。一位だった。
一息つくと無性に恥ずかしくなって、わたしは思わず泣き出してしまった。さすがにやりすぎたと思ったのか、主犯の二人は慌てて謝ってくれたし、トメさんは「大丈夫、全部わかってるから」と言ってくれた。いいの、もういいの。これは運動会、お祭りみたいなものなんだから……皆が盛り上がってくれれば……ぐすん。
と、思っていたんだけど。
借り物競走。
それは競走。つまり複数人で走るもの。そして並べられた札は誰がどれを取るかわからないもの。
そんな借り物競走でわたしをハメるにはどうするか? 簡単ね、全ての札を同じ指令にすればいい。
わたしはこんな感じになったわ。そして一位だった。でも泣いたわね?
その他のわたしと一緒にスタートした人たちが、どういう軌跡を辿り、どんなドラマを公開処刑のごとく繰り広げながらゴールまで辿りついたかは……詳しくは話さないわね。
だって可哀想だもの。
でも、盛り上がったと、言えなくもないわねっ!
はぁ……恥ずかし。
なんだかサユカちゃんいじるの久々でかんなり長引いてしまいました笑
でもまぁ楽しかったからよし!
さて、しかしここで問題が。
なんか書きたいことが思いのほか多くて……カカラジまでに運動会終わらないかも^^;
キリのいいところにはするつもりですが……超えたら、まぁそのときはそのときで。
見通し甘かったなぁ。五話あれば書けると思ってたのに……ま、いっか。




