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カカの天下  作者: ルシカ
594/917

カカの天下594「サラさんのおべんと」

 こんばんは、トメです。


 もうすぐ夕食の時間。カカは遊びが長引いているらしく、まだ帰ってきていません。なんでも運動会用に何か作っているとか。


 で、代わりと言ってはなんですが。


「トメさん、次は何をすればいいですか?」


 なんと、サラさんが僕の家にいたりします。


「ああ、んとね」


 そして僕とサラさんの二人がいるのは台所。そこで何をしているかと問われれば答えは一つ、お料理です。


 さて、なぜ僕とサラさんが料理をしているかと言いますと……詳しい説明は面倒なので簡単に。要は頼まれたのです、明日の運動会へ持って行くお弁当を作りたいから教えてほしいと。聞けば料理は普通にできるようですが、レパートリーが少ないそうで。


「これを切ればいいですか?」


「うん、おたんこナスさん」


「私はサラです!」


「だって茄子持ってるし」


「うぅ……はい、切りました。次はこれですね」


「うん、どてカボチャさん」


「サラです!!」


「ああ、今は皿持ってるもんね」


「そうじゃなくて!! いつもサラです!」


「たまには茶碗にしようよ」


「しません!」


 そんな風に言葉遊びを楽しみながらも進んでいくお料理教室。とは言っても僕だって歴戦の主婦に比べればまだまだ料理はうまいとはいえない。できるのはサラさんの知らないメニューを教えることだけだ。


「これはどうしましょう?」


「水にさらしといて。あ、またサラになったな」


「むむむ……いい加減にしないと、トメさんをさらってしまいますよ」


「人さらい。略してヒットラーか」


「それ略してません!」


「ミカエルをミッキーって呼ぶようなノリでさ」


「じゃあトメさんはトミーですね」


「……ごめん。謝る。だからやめて、それ」


「ふふ」


 うーん、それにしても。こうやって料理を教えてほしいって頼まれたことも踏まえて、友達認定してから随分と気安くなったなぁサラさん。僕としても喋りやすい。


「ヘイ、トミー!」


「やめなさいってば」


「ふふ、お料理はこんなところですか?」


「えっと、あとは」


 僕が教えたのは茄子のベーコン挟みフライとカボチャのバター醤油焼き。あとは水にさらしておいた野菜でサラダを適当に教える。それと詳しくは知らないけど、ごぼうとかは水にさらすと栄養が溶けてしまうらしいので、その辺も教える。ごぼう以外がどうなのかは知らないけど。


「これで完成、と。ちょっと一息つこうか」


「はい。これをメモってから……」


 サラさんは熱心にレシピを書いている。それほど難しいものじゃないんだけどね、生真面目な性格なんだろう。


「お茶煎れとくねー」


「さんきゅーですトミー」


「それやめろって言ってるだろミカエル」


「全然私の名前が残ってないんですけど!」


「早くしろミッキー」


 ふむ、なんだか新鮮なやりとりだ。カカ相手でもたまーに僕がからかう側に回ることがあるけど、それとはまた違った感じ。友達が少ない僕としては新しいタイプに出会えて嬉しい限りだ。や、前からこんなんだったけど……ここまで二人で喋ることってあんまりなかったからなぁ。


 さて――メモは終わったらしいので、台所から戻ってきたサラさんと居間で茶をすすりながらくつろぐことに。


「ふー……極楽じゃ」


 これサラさんが言ったのね。


「サラさん、今さら聞くのもなんなんだけどさ。運動会のお弁当って……カカたちのと同じやつ?」


「あ、はい! そういえば言ってませんでしたね。実は私、双子の弟と妹がいるんですよ。カカちゃんと同じ歳の」


 あれま。衝撃の事実。


「え、なに、もしかしてそれってカカと同じクラスだったりするのか?」


 勢い込んで聞くと、サラさんは照れたように笑った。


「それが、その……わかりません」


「なぜに?」


「お恥ずかしながら、最近うちのお母さんが死んじゃいまして。うちの父も弟も妹も情緒不安定なんですよぉ。だからうちにいてもお父さんと弟ちゃんはイライラしてるし、妹ちゃんは塞ぎ込んでるし……学校の話なんか聞く余裕ないんですよね。私も仕事で忙しいし」


「な、なんか内容のわりには」


「サラッと言いました、サラだけに」


「……開き直ってきたね」


「ふふ。でもですね、私としてはそこまで重い話のつもりはないんですよ? 母が病気で寝込むことになる今年の初めあたりまでは、皆そこそこ仲良かったですし。死んじゃったのは最近で、皆は元気ないですけど、明日の運動会で元気になれればなーって思ってます」


 全然曇りのない笑顔。


「お父さんと弟ちゃん、私と妹ちゃんで二人三脚障害物走で対決するんです。父も私も無理やり参加させられる形なんですけど、なんでも弟ちゃんと妹ちゃんが喧嘩したのが原因だとか。なんで喧嘩したかは知りませんけど、家族で運動会、いいじゃないですか。だから私は美味しいお弁当を作るんです。明日がいい日になりますように、って」


 強い。そう思った。


 でも、なんでそんなに強い? そうも思った。


「サラさんは……元気なの?」


「元気ですよ。もちろんお母さんのことは悲しいですけど、悲しみばっかり見てたら生きていけないでしょう」


「……いいこと言うね。感心した」


「いやぁ、本当はこれ、受け売りなんですけどね」


「誰かがそう言ってたのか?」


「言ってたわけじゃなくて、その人たちを見本にして、感じとったというか……」


 何が恥ずかしいのか、頬を染めるサラさん。


 そっかぁ……サラさんにとって重い話じゃない以上は、僕は特別何も答える必要はないんだろうな。ただ聞くだけでいいんだろう。しっかしサラさんに弟と妹がねぇ……ん? 


「そういえばさ、サラさん」


「なんだいトミー」


「……それ気に入ったの?」


「ふふ! なんですかトメさん」


「お楽しみ会のとき、あったじゃん。三月あたりに。あのときさ、入り口でサカイさんと一緒に『父兄じゃないと入れない』ってもめてたけど……弟や妹がいたんなら、入れたんじゃ?」


 トミー発言で余裕を持っていたサラさんの表情が、ぎくりと固まった。


「そそ、それはその……あの……サカイさんを差し置いて、私だけ入るのもなー、なんて」


「おやまぁ」


「ちちち違うんですよ!? 私にとってサカイさんは天敵で! ただあのときは同情してあげてもいいかなぁなんて! 実はここに来る前にも会ったんですけどそれはもう大喧嘩でして! 娘を手に入れるまでの道のりがあーだこーだと語るあの人に私は言いました、このド変態と――」


「見本、ね」


 なるほど、色々とあったあの親子の話には色々と学ぶことが――


「違うんですってば!!」


 あったんだろうけど、サラさんは認めなかった。


「それだけじゃないんです!」


 でも半ば認めているようなもので。


 それを指摘してもよかったけど……慌てるサラさんを見物しながら茶をすすりつつ、明日は楽しい運動会になればいいなぁとだけ思う僕なのでした。




 トメとサラが……いい感じすぎる!!

 なんだこれは!? と喜ぶ方も怒る方も。存分に感想をお寄せください笑


 そして何気に……もう運動会!?

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