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カカの天下  作者: ルシカ
592/917

カカの天下592「地味な子が怒る理由」

 こ、こんにちは、インドことノゾミです。


 実はですね、今日ですね、えっと、昼休みなんですけど、音楽室で会議をしてもらっています。その……私の、タケダ君への告白について。


 あああ告白と言っても違いますよ? あなたが好きですとか私実は人間じゃなくてカレー星人なんですとか麻薬組織のカレーですとかそういう衝撃的な告白ではなくて!


 その、助けてくれてありがとう、そう伝えたいだけなんですけど。


「どうしてそんなにうまくいかないのかしらね!」


「ご、ごめんなさい……」


「こらこらアヤ坊、そんなに怒ったらダメだよ。タケダのことはうまくいかなくても、インドちゃんのカレーはうまいんだからいいじゃないか」


「ニシカワさん、何がどうよろしいのかさっぱりわからないですよ」


 メンバーは最近おなじみになってきた四人です。私、アヤちゃん、ニシカワ君、イチョウさん……いつもはここにタケダ君が加わるのですが。


「それにしても、あれかしら。こんなにうまくいかないってことは、インドちゃんとタケダって水と油なのかしら」


「間違いなくタケダが油のほうだな」


「安い油ね」


「もしくはイヤミなほど高いやつ」


「人間的に安っぽいから、安いのでいいのよ。でもインドちゃんはきっと富士山あたりで採れる綺麗な水ね! なんか誰にも気づかれない岩の隙間からちょろちょろっと可愛らしく湧いてるやつ」


「それはインドちゃんが地味でちっこいと言いたいのかアヤ坊」


「よくわかったわねニッシー」


「インドさん、怒ってもよろしいかと思いますが」


 そ、そっか。ありがとうイチョウさん。


「わ、私、水よりカレーがいいです!」


「そうではなくて」


 え? え? だってカレーなら油も合うし……じゃあ、えっと……


「イチョウさんも地味だよ!」


「怒ってもよろしいですか?」


「ああぅぅぅごめんなさいぃぃぃ」


 思わず口が滑ったんですぅぅぅ……


「この水と油を合わせるには……ニッシー、どうすればいいと思う?」


「洗剤でも混ぜれば?」


「理科室行くわよ!」


「インドさん、止めませんと」


 そ、そっか。


「うちは中性洗剤です!」


「すすめてどうするのですか」


 え? え? だって肌が荒れないから……


「ふぅ……仕方ありませんわね。アヤさん、待ってくださいな。洗剤をどうするおつもりで?」


「タケダに飲ませる」


「死にますわよ」


「いいじゃん」


「よ、よよ、よくないぃ……」


 思わず泣きそうな声を出してしまったアヤちゃんはそれに気づいてくれて、バツの悪そうな顔で謝ってくれた。


「ごめん、考えなしだったわ。好きな人が文字通り泡噴いて倒れるところなんか、見たくないわよね」


「う、ううん。いいの。真剣に考えてくれたのは、嬉しいし……」


 謝られて私も恥ずかしくなってしまって、尻すぼみになりながら答える……うぅ、なんだかしんみりさせちゃった、かなぁ。


「真剣に、タケダの抹殺を考えたんだけどなー」


「ニッシー! あんた空気読みなさいよ」


「おっと、今度は僕の抹殺か?」 


「洗剤であんたの根性洗ってあげるわ!」


「そうか。じゃあ脱ごう」


「きゃああああ! ちょっとやめてよ!」


「叫びつつガン見するなよアヤ坊」


「近寄るなー!」


「さぁさぁ、僕の根性はどこにある? 洗え!」


 ギャーギャー騒ぎつつも楽しそうなアヤちゃん。そして冗談を続けるニシカワ君。


 本当に仲のいい二人。私のせいで暗くなりかけた雰囲気がもう元通り。カカちゃんたちのグループとは違って、少しだけ普通の、少しだけ穏やかな騒ぎ方。


 私はこれが心地いい。イチョウさんもそうなんだろうな。


「まったくもう……わたくしが口を挟む必要はなかったかもしれませんわね。何かあったとしてもニシカワさんが止めていらしたでしょうし」


 ちょっと拗ねたように、でも笑っているイチョウさん。さっきまでの、少し刺々しかった感じが消えてる。聞いてみるなら今だと思った。  


「ねぇ、イチョウさん。わ、私も口、挟んで、いい?」


 首を傾げるイチョウさん。ち、ちょっと怖い。私はこういう風に、誰かに踏み込んで話をすることに、慣れていなかったから。


「あ、あの、あのね、最近イチョウさん、元気ないんじゃないかと思って」


 実はタケダ君のことは口実で、四人で集まってもらったのは他に理由があった。今言ったとおり、イチョウさんの……友達の元気がなかったから。また皆で集まったら、笑ってくれるんじゃないかと思って。もしよければ話を聞かせてくれるかと思って。


 でも、そんなことまで包み隠さず口にできるほど私は器用じゃない。だから、その心配する気持ちだけを伝えてみた。


 いつの間にかアヤちゃんもニシカワ君もじゃれ合うのを止めてこちらを見ている。イチョウさんは何かを察したのかもしれない。けど何も言わずに微笑んでくれた。


「ご心配、ありがとうございます。とても痛み入ります……ええ、確かにわたくしは元気がありませんでしたね。でも、そこまで心配してくださるほどの大層な理由ではないんですのよ?」


「で、でも、あの」


「理由わかんなきゃ、心配すんのが当たり前でしょうが」


 私の言いたいことをアヤちゃんが代弁してくれた。男前な子で助かる。


 その真っ直ぐな物言いに、イチョウさんも目を丸くしたけれど……やがて、再び微笑んでくれた。今度は嬉しそうに。


「ほんと、大した理由じゃないのです。ただの……兄妹喧嘩ですから」


 兄妹?


「もしかしてヤナツのことか?」


「あー、私知ってる。隣の有名ないじめっ子だ。って、アレがイチョウさんの!?」


 ……あ、こないだカレー差し出したら「こんなもんいらねぇよ」って振り払った男子さんかな。振り払われたカレーは宙を飛んでその子の頭に着地したけど。カレー味の髪の毛になってちょっと羨ましかった。やらないけど。


「はい、ちょっと最近家庭で色々ありまして、大喧嘩しまして……次の運動会ではあの子のクラスに絶対、負けないという話になりまして」


 イチョウさんの喧嘩してる姿……想像、できないなぁ。


「なぁ、イチョウさん。僕の勘違いだといいんだけど……カカを全競技に出そうとしたり、僕にも色々出させようとしたのは、もしかして絶対に勝つため?」


「もちろんです」


 つつ、と私たち三人は冷や汗をかいた。


 怖かった。その筋では有名なサエちゃんに匹敵するんじゃないかと思った。




『そんなわけだったんだよー!』


 秘密のメル友のそんな“世間話”を聞いて、私カカはなるほどーと頷いた。


 そういうことね、ふむふむ。それとなく『そっちの人って皆楽しくやってる? 最近元気ない人とかいない?』ってメールで振ってみたのがビンゴだった、予想通りにイチョウさんの心配してくれたねこの子は。


 ま、当然だよね。友達だもん、元気なかったらきっかけなくても気づくよね。


「しっかし、兄妹喧嘩ね」


『はやくいつもの、穏やかでしっかりしてて、ちょっとだけマイペースだけど私たちのまとめ役で、そのくせ予想外のことになるといきなり慌てだす可愛い友達に戻ってほしいよー!』


 へー、イチョウさんってそうなのか。あまり接点ないから印象薄いけど……今度はもっと喋ってみようかな。予想外のことになるといきなり慌てだす、という楽しそうな部分が聞き捨てならん。にやり。


『でも今度から、怒ったら怖い、っていう項目が加わったよ!』


 む、それは気をつけなければ。


「しっかし……最近、兄妹喧嘩した身としては他人事の気がしないな。協力してあげよっかな」


 敵はヤなヤツでしょ?


 ならまぁ、遠慮なくやりましょうかね。




 とっても地味なイチョウさん。

 そこにキレると怖いという項目が加わり……

 あれ……

 なんかこの作品。キレると怖い人がやたら多いような……


 ま、いっか☆


 とりあえず地味な子脱出なるか!

 今はまだもう少し難しい、かなぁ? はてさて……

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