カカの天下590「季節はずれのあんにゃろぉ」
ただいまー……と言っても誰もいませんよっと。
カカですよっと。
学校から帰ってきたところですよっと。
靴を脱ぎ捨てて自分の部屋にいきますよっと。
居間の横の廊下をたったーっと。
なんかちらっと居間に妙なもんが見えましたよっと。
キキッ、とブレーキですよっと。
バックしまーすバックしまーす、っと。
居間を覗きましたよっと。
サンタさんがいましたよっと。
「…………?」
なんか、おかしいですよっと。
あれ、今日って十月になったばっかりだよね。アレの出番まであと二ヶ月だよね。
……なんで今、居間に? あ、別にダジャレのつもりはないよ? マイったねこりゃ。
「プハー」
赤い服に帽子、白髭もしゃもしゃのサンタが何をしているかというと……座ってタバコ吹かしながら、寝転がってテレビ見てる。
なんか腹立ってきた。
「ランドセルあたっく」
「オゥ!?」
無言で投げつけたランドセルは横になっていたサンタの頭を見事に潰した。ざまみろ。
「い、いったいのぅ!!」
サンタは衝撃でフラつく頭を両手で押さえながらこちらを向いた。
そして私を見て、固まった。
「の……」
の?
「ノゥ……」
のぅ?
「No!!」
え。
「ま、まさか外人! 英語!?」
「I am! This is! I am! This is!!」
「やっぱり英語だ! どうしよう!」
な、何を言ってるのか全然わからない……前にちらっとトメ兄に教えてもらったけど、こんな英文初めて聞いたし!
「うぅ、どうしよう、どうしよう」
「ふぅ……なんとか誤魔化せそうじゃの」
「そこのサンタいま日本語言った!?」
「KINOSEIJAYO!」
「うわ英語だ! わかんない!」
「……ローマ字だっての」
英語って本格的に発音されると全然わからないよぅ。なにさロゥマジィダッテノゥって。そんな単語知らないよぅ。
「何言ってるか、わからない、全然わからない」
「……さて、逃げるか――」
「仕方ない、問答無用でボコボコにしよう」
「待てぇい!! なんでそうなる!?」
「面倒なことはさておき、事態はスッキリ解決するでしょ」
「スッキリするのはおぬしだけじゃろうが!」
あらら?
「日本語喋れるじゃん」
「しまった……傍若無人なノリがあの女にそっくりでついツッコんでしもうた……」
うな垂れるサンタさん……や、サンタの格好した泥棒、なのかな?
「とりあえず警察に電話、か」
「ちょっと待つのじゃ! わしは怪しいもんじゃない! サンタじゃぞ!」
「サンタが生きてていいのは十二月だけだよ」
「それは本物のサンタがあまりに可哀想ではないか!?」
ふむ……それもそっか。もし本当のサンタだったら警察に突き出すわけにもいかないし。
「じゃ、もう少し話をしよっか」
「ほっ……おお、サンタに答えられることなら全て答えるぞぃ」
「さっきの英語、なんて意味?」
あれ? 私をうまく説得できたかと思いきや意外な攻撃をくらって固まった、みたいな顔してる。
「いや、その、それは」
「意味あるんでしょ」
「い、一応は」
「じゃ、教えて」
「どうしても、知りたいかのう?」
「うん」
「先程の意味は……その……」
「うんうん」
「私は! これは! 私は! これは!」
「馬鹿じゃないの?」
「うっさいわい! 外人のフリして誤魔化そうと必死だったのじゃ!」
言われてみれば確かに騙されかけた! むむ、やるな。
「不愉快じゃ! わしは帰る!」
「適当なこと言って逃げ出すな」
「ちっ! 大体じゃな、おぬし。なぜそこまで突っかかってくるのじゃ。サンタが子供のいる家に入って何が悪い? 言うてみぃ!」
「住居不法侵入罪」
「む、難しい言葉知っておるの」
「あと猥褻物陳列罪」
「何が猥褻だというのじゃ!?」
「You!」
「Me!?」
おお、ノッてくれた。やるねサンタ。
「オゥノゥ、ショック……!」
「打ちひしがれたままノリで帰ろうとするな」
「……くそぅ、おぬし小学生のくせにやるではないか。法律なぞを持ち出すとは」
「ふ。昔ね、トメ兄相手にボケるためだけに法律を勉強したことがあるんだよ」
トメ兄が反応しそうなのしか覚えてないけど。
「見逃してくれないかのぅ? ほら、確かにわしはここでくつろいでおったが、何も盗ったりしとらんよ? ほれ」
サンタさんはポケットをびろーんとのばし、何も持ってないよーとアピールする。そういえば白い大きな袋、というサンタの標準装備も持ってない。
「何も持ってないじゃろ? だから何も盗ってないのじゃ。犯罪者じゃないのじゃ」
「そうだよね、そもそもサンタさんは何か奪う人じゃなくて、何かをくれる人だもんね」
「そうじゃそうじゃ」
「んじゃとっとと出すもん出せ」
「何もないと言うておろうが!」
「身体があんだろ」
「おぬしのほうがよっぽど犯罪者っぽいのぅ!?」
ふ、そんなに褒めるなよ。照れるゼ。
「仕方ないのぅ……ええい、バラしてしまうがの。実はサンタと忍者は協力関係なのじゃ」
……む? うちの父親知ってるのか。
「だから今日はおぬしの父上に呼ばれてきたのじゃよ」
「で、そのお父さんは?」
「五分前にシュバッと消えおった」
私の気配を感じて逃げたのかな。
でも、サンタと忍者が知り合い? そういえばずーっと前のクリスマスに、トメ兄がサンタと喋ってたようなこと言ってたような……
「信じてくれるかのぅ?」
じー、っとサンタさんの目を見る。
ん、悪い人じゃないね。
「おっけ。憐れんだ目で見送ってあげるから無様に逃げていいよ」
「……なんだか信用されたのかされてないのか、よくわからない返事じゃが」
「ううん、信じた。あなたは本当のサンタ、これでいいよね?」
「あ、ああ」
サンタさんが、いるのかどうか。
さすがにこの歳になればわかってる。
でも、いてほしいと思うのは……自由だよね。
「で、ではわしは、これで」
「うん、ばいばい」
適当に手を振って、背を向ける。
そのまま玄関から帰るのかもしれない。
もしかしたらシュバッと消えるのかもしれない。
まさかトナカイが迎えに?
夢が広がる。それでいい。
事実はどうあれ、それだけで……
「なぁ、カカ」
「なに、トメ兄」
「僕のパンツが一枚ないんだけど、知らないか?」
あのサンタ、まさか!?
その正体は、意外にも来週あたりにわかることになるのでした。
書いた本人が言うのもなんですが。
不思議な話ですねぇ。
サンタて(笑)
タケダといい微妙な話が続きますわ(タケダ微妙なやつ扱い




