カカの天下587「まげ」
むにゃむにゃ? カカです。
えっと、今……いつだろう。ここはどこだろう。私はカカだろう。
「殿!!」
「うい? ぶっ!」
振り向くとそこにはちょんまげ姿のトメ兄が!
「どうしたのトメ兄!」
「は? 殿こそどうされたので」
「との? よくわかんないけどちょんまげ似合うねトメ兄」
「は、はぁ。ありがとうございます」
あれ?
気づけばここはおっきな和室。私は偉そうな席に座っていて、目の前には大量のちょんまげがずらりと並んでいた。
「なんかの畑みたい」
「お殿様! 自分の部下にそのような言い方はいかがなものかと!」
あ、ちょんまげが生えてるんじゃなくて、ちょんまげ男たちが私に平伏してるのか。
って、なんでさ。
「おとのさま? どゆこと?」
「これは夢です」
「超理解した。わかりやすい説明あんがと」
とにかく私は殿様なわけだ、えっへん。
「ささ、お殿様。早速命令をどうぞ」
「おお、トメ兄――や、じいよ。いや、名前的にはばあやよ」
「誰がばあやじゃい」
おトメさんっておばあさん絶対いるし。
「んじゃ、じいでいい?」
「はいはい、なんでもいいよ」
「その命令ってなんでもいいの?」
「もちろんです。この部下どもはお殿様の下僕であり夢の産物。あなた様の思うままに動きます」
よーし、じゃあ……
「皆のもの! 我を称えよ!」
『カカ殿様!』『カカ殿様!』『カカ殿様!』『バカ殿様!』『カカ殿様!』
「誰だ今バカって言ったやつ!」
「お殿様、こやつらはあなたの心を移します。つまりあなたがどこかで自分をバカだと自覚している部分があるからこのように言われたのです」
むむ……や、たしかに思ってるとこもあるけどさ。
『やーいバーカバーカ』
「成敗してくれるわ!!」
「お待ちください! 殿が自分でそう思ったからこやつらが反応しただけのこと!」
むぅ、意外と使いにくいなぁ。
「ささ、気を取り直して次の命令を」
「んんん、じゃあ……皆のもの! 街の人間を全てちょんまげにしてくるのじゃ!」
「もうすでに全員ちょんまげですが」
「バカじゃないの?」
『やーいバーカバーカ』
「コホン、殿? ここはあなたの夢とはいえ、時代劇の世界なのですよ? ちょんまげは当たり前です」
『そーなのかー』
「や、いちいちちょんまげ軍団に合唱させなくていいですから」
さすが私の夢。微妙に本人とは違ってもトメ兄がツッコミなのは変わらないんだね。
「――おっと、大変です殿!」
「どったのG」
「Gて! それも確かにじいですが……ってそれはともかく! 今入った報告によりますと、なんと農民が一揆を!」
「いっき?」
よし!
「はい、コーラ持ってきてー」
『一気! 一気! 一気! 一気!』
「っぷはぁ!! きくぅ!」
『きくぅ!!』
「なにちょんまげ全員に混じってコーラなんか一気飲みしてるんですか! 一揆ですよ一揆! 農民が攻めて――ああ!」
突然部屋へとなだれ込んでくる農家の方々!
「あ、そっか。農民が一気か。さん、はい」
『一気! 一気! 一気! 一気!』
「なんだこの光景……」
「皆で仲良くコーラ飲んでるんだけど」
「そうじゃなくて! 一揆ですよ! 社会の授業でやったでしょ!」
「覚えてない」
「殿の夢に出てくる僕が知ってるってことは、殿も覚えてるってことなの!」
ややこしいなぁ。
「つまり皆、お腹がすいてるんです!」
ぐんぎゅるぐんぎゅるるるるるるー♪
「なに全員の腹の虫で合唱させてんですか!」
「や、楽しいかと思って」
『お腹すいたー』
「僕の顔をお食べ? って食べないよ! 何言わすんじゃバカ殿!」
「これ、じい。言葉が過ぎるぞ」
「ああもう面倒だ、丁寧な言葉遣いやめやめ! いいか殿! 一揆ってのはな、殺し合いだ!」
ちょんまげ軍団と農民が死んだ。
「全員殺してどうすんだよ!!」
「や、だってさ、じいがそんなこと言うから想像しちゃって」
「それにしたってこの地獄絵図はあんまりだろ! なんか全員コーラ飲みすぎで死んだみたいなシュールな展開になってるぞ!」
「仕方ないなぁ。んじゃ全員生き返って」
『うっしゃー!』
「お手軽だなおまえら!」
「よーし! ちょんまげ軍団も農民もよーく聞け! おまえらが私の夢の――いや、私の中の住人だというならば! 変な子と名高い私に恥ずかしくないおもしろいことをしてみろ! 全員で!」
『うおおおおおおおお!』
「ぶはははははは! あれ」
笑いながら起きたのは初めてだ!
あー、おもしろかった!
……何がおもしろかったんだっけ。
「思い出せぬ!!」
めちゃくちゃ悔しいんですけど!
「おーいカカ、起きたか?」
「じい!」
「……は?」
「なぜちょんまげじゃないのだ!?」
「よーわからんがおまえの寝癖はちょんまげに近いぞ」
なんですと? 鏡を見ると……おーブラボー。パイナップルみたい。
だからあんな夢みたのかなぁ。
「……くるしゅうない」
「おまえの髪の毛は苦しそうだが」
うむ、シャワーでも浴びて楽にしてくれるわ。
今回のお話はけっして某なんとかけんさんのなんとか殿様を元に書いたわけではありません!!
嘘です。




