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カカの天下  作者: ルシカ
583/917

カカの天下583「忍法、疲労回復」

 こんにちは、トメです。


 今日は夕飯にカカを連れてラーメンを食べに出ました。そしてラーメンといえばあいつも……とキリヤを誘い、三人でお食事です。


「や、いつもながらここのラーメンはにんにくすごいな」


「はふ、はふ、あふい」


「私は身体が疲れたら必ずここのラーメンを食べますよ。にんにくで活力回復です。ただ、油断すると次の日までにんにくの匂いが残っているので要注意ですが」


 三人そろってズルズルすする。んー、辛うま!


「ところでトメ君」


「なんぞやもし」


「私は小学校の頃までにんにくのことを肉だと思っていたのですが」


「あー、僕もそうだった」


「おお、同士よ。カカちゃんはどうでしたか?」


 隣を見ると、カカはれんげに乗せた麺をふーふーし、食べようとして汁の中に落としたところだった。間抜けで地味に可愛いが、本人はムッとしながらキリヤに答えた。


「……私は忍者の肉だと思ってた」


 あー、そんなん言ってたな。そういえば。


「それはどのようなもので? 忍者を殺して千切り取った肉ですか」


「グロいグロい、食事中にそんな話すんな。えーと、説明するとな?」


 再び麺を汁に落として「ムキィ」と呟くカカを眺めながら、


「最初はカカも僕らと同じように、にんにくを肉だと思ってたんだよ。で、いつだったか、にんにくたっぷりのスタミナサラダだぞーって夕食に出したら――」


『トメ兄、肉はどこ?』


『肉じゃなくてにんにくな』


『にん? 忍者の肉? どこ』


『あー……忍者だから隠れたんじゃないか?』


『なるほど!』


「と、適当なことを言ったら信じたわけだ」


「ほうほう、さすがトメ君。子供の発想を馬鹿にしない見事な返し方です」


「や、馬鹿にしてた。甘く見てたとも言うか。それから僕が肉を扱うたびにカカが寄って来て――」


『あれー、肉どこいったかな』


『お肉が隠れたの?』


『ん、見つかんない』


『じゃーそれ忍肉だね。隠れたんだね』


『そうかもなー』


 結局、冷凍庫の奥にあったんだけど……


『トメ兄、何してるの』


『肉を水につけて解凍してんの』


『忍法、水とんの術!』


『はいはい、そだね』


『トメ兄、何してるの』


『肉を焼いてんの』


『忍法、火とんの術!』


『はいはい、そだね』


『トメ兄、何してるの』


『焼いた肉を切ってるの』


『忍法、とんとんの術!』


『なんやそれ』


『包丁をトントン』


 次の日。公園にて。


『トメ兄、どこへ行くの』


『トイレに』


『忍法ぼっとんの術!』


『や、確かにここのトイレは水洗じゃなくてぼっとん便所だけど』


「――と、このようなエピソードがあるのだよ」


「ずいぶんと冒険しましたね忍肉さん。隠れてからぼっとんするまで」


「ぼっとん言うな」


 食事中だと言うのに僕も配慮が足りなかったかな。


「でもま、今じゃカカもにんにくのことはちゃんとわかって……どしたカカ? ラーメンの中ずっと見つめて」


「このチャーシュー……豚肉だよね」


「そだな」


「豚って……とん、って読めるよね」


「よく知ってますね。偉いですよ」


 何が言いたいか大体読めた。


「忍法、豚の術!」


 いったい全体どんな脂ぎっしゅな術かはわかりませんが、一応『とん』と言ってます、ええ。


 カカはチャーシューをびしっと指差し、再び断言した。


「豚!!」


「はいはい」


 さらには厨房の方を向く。このラーメン屋は調理風景が見れるようになっているので、ちょうどそこで店員が大きな肉を焼いているのが目に入り、カカはそれを指差した。


「豚!!」


「はいはいはい」


 この子は何をやりたいのか? そんな疑問はいつものことだ。


 カカの視線は客席へ。そして汚らしくラーメンをすすっている、とっても肥えたおばはんを指差した。


「豚!!」


「はいはいはいはい――って!」


 確かに見た目が豚だけど!


「すごい豚!!」


「言い直すな!」


 すごい豚なのはわかるけど! ラーメンすする勢いすごいし! 鼻息荒いし!


 げ、こっち気づいた。


 げげ、来る、なんか来る!


「うあ、0.1トンの術とかするのかな」


「座っているトメ君の膝の上に乗るのですね。どっすんと。色んな意味でウゲェェ」


 おまえら呑気だなオイ! その0.1トンありそうな豚が来るんだぞオイ。どっかの養豚場に連絡を――


「ちょっとあぁたたち? あたくしに何か言いたいことでもあるのかブー?」


 ブッ!! とラーメンを吹き出す僕ら……い、今の「ブー」は、カカが僕らしか聞こえないくらいの小さな声で、付け足したんだけど……


「何を笑っているのブー? 失礼しちゃうわブーブーブー」


 や、やめ……ふはは……カカの声があまりにもおばはんの台詞にうまく重なっておもしろすぎる……


「ちょっと、本気で怒るざますよブー!?」


 ま、まずい。深呼吸しろスーハースーハー。


「こほん。お気に障ったならすいません、なんでもないんです。実は」


「おならブー」


「ぶははははは!!」


 ダメだ僕。戦闘不能。呼吸不能。こんな失礼に育ってごめんなさい父さん母さん。でもおもしろすぎるんです。


「あ、あぁたたち! いい加減にしなさい!」


「ブヒー」


 ダメ、ほんとダメ。腹痛い。隣を見ればカカも腹を押さえて痙攣している。よくそんなんでブヒーとか言えたな、自殺行為だぞ。


「申し訳ありません、お嬢様」


 と、そろそろおばはんの堪忍袋的にも道徳的にも本気で危ういかと思われたとき。キリヤが立ち上がった。


「お、おじょう、さま?」


「はい、お嬢様。実は本日、私たちの父とも呼べる人が亡くなったのです。その方を私達は『おとん』と呼んでずっと慕っていました……しかし、その人はもういない。だから決めたのです、笑おうと。悲しくなったらとにかく笑って、涙を吹き飛ばそうと」


 笑いすぎて涙出てますけど。


「その『おとん』の面影が、あなたにあったのです」


「で、でもあたくしは」


「ええ、女性です。しかし私達の『おとん』は中世的な顔立ちでした。あなたのような女性ながらに凛々しい方に『おとん』の影を見てしまい、つい悲しくなってしまって……無理やり笑おうとしたら、このようなことになってしまいました。本当に申し訳ありません」


「そ、そういうことなら、まぁいいわ!」


 おー、すげー。おばはん納得して帰っちゃったよ。


「はー、笑い疲れた。キリヤンすごいじゃん」


「忍法、口車」


 そうしてキリヤは笑った後、


「――だブー」


 しっかり僕らを笑わせてくれたのだった。

 

 


 ――そして。


「忍者の話してたから登場してみたのに……結局気づかれなかった……」


 店員の格好で肉を焼きながら、


「ぶぅー」


 僕の父さんは頬を膨らませてスネていたのでした。




 サブタイトルは忍肉が使うことのできる究極の奥義です。

 

 疲れたときはにんにくだね!

 豚肉もいいよね!


 ぶー。


 ……あ、ついにでゅみゅみゅみゅうが。

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