カカの天下58「カカVS姉娘」
「カカー」
「ん」
部屋でマジメに宿題をしていた、しがない小学生な私……カカは、トメ兄に呼ばれて居間へと移動しました。
するとそこには、不可思議な物体がいました。
ナンダコレ。
「トメ兄……なんか変な生物が見えるんだけど」
「だぁー」
「そう言うなって……なんか姉の友達のとこが都合悪くなったらしくてな、しばらくここに置いとけってさ」
そこに居座っていたのはいつぞやの姉の隠し子。いや、隠してはいないかもしれないけど……
本当にあの姉が産んだ子なのか、どっかで拾ってきた子なのか、友人に預かった子なのか、怪しい封印が解けて開放された悪魔の子なのか、さっぱりわからないのである。つまり理由が隠れているのだ。
「でさ。僕はちょっと用事あって出かけるから、しばらく留守番よろしくな」
「留守番? これと? 二人っきりで!?」
「うん。そうそ」
「むう……そういやこの子、なんて名前だっけ」
「あ、聞いてないな」
「じゃ、とりあえずタマと名付けよう」
「拾ってきたネコみたいなノリだな。でもまぁ、似たようなもんだからそれでいいか」
んじゃなーと軽く手を振って、トメ兄は出て行った。
さて……戦闘開始である。
ソファーに座ってふんぞり返っているこの物体をどう扱うべきか。放ったらかしにするという手もあるけど、ヘタなことをしたら姉に何をされるかわかったもんじゃないし……
「にゃー、にゃー、カカー」
「お、喋れるんだ。でも呼び捨て、って子供にそんなこと言っても仕方ないか」
姉娘はこちらをビシッと指差してこう言った。
「まるい」
ビキリ、とこめかみ辺りで音がした。
「ねぇねぇ、タマちゃん。それってどこが? なにが? どういう意味かなぁ。もっと詳しく教えてくれないかぁ」
「かいぞくせんー」
「聞いてないし!」
「つぶれたー」
「つぶれた? 海賊船が?」
ビシッとこちらを指さして、
「つぶしたー」
「私がか!」
「いい子いい子」
「いいの!? あ、いいのか、海賊退治だから」
ビシッとこちらを指さし、
「ぬりかべー」
「誰がだ!!?」
お、落ち着け私……なんかいつものペースと違う。
私はこんなツッコミばっかのキャラじゃない。違う違う……オーケー、頭が冷えたぜベイビー。おれっちの心は外は冷たく内は熱くだ。ちょいと熱が外へ漏れちまったが、そんなことじゃ姉には一生勝てないぜ……
しゃがみこんで深呼吸した私は顔を上げた。
するとタマは持参してきたらしい絵本を読んでいた。
「お、何読んでるのかなー?」
「しらゆきひめはー、おおかみになめられてしまいましたー」
舐められた?
しかも白雪姫に狼でないし!
しかもしかも読んでる絵本のタイトル金太郎だし!!
「めでたし、めでたしー」
「めでたくないわ!!」
もう、何よこの子……頭を抱えていると、タマがちょこちょこと歩いてきた。
「カカおねーちゃん」
……おねー、ちゃん?
あ、ちょっと、いいかも――
そう思った途端にビシっと指さされ、
「まるい」
……プッツン。
(ちょっとお見苦しいので自主規制)
数時間後。
帰ってきたトメ兄に、疲れきった声で私は言った。
「トメ兄……私、育児向いてない」
「は? や、小学三年生のうちからそんなん気にせんでも……」
まがりなりにも相手は子供……キレても手荒な真似はしてないよ? すごくしたいけど。
姉娘タマは、もうしばらくうちにいる……はぁ。