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カカの天下  作者: ルシカ
570/917

カカの天下570「あなたを想い」

 こんばんは、サユカですっ! そ、そのっ!


「か、カカちゃーん?」


「カカすけ、おーい」


 返ってくるのはズゥゥゥゥゥン……という重たすぎる空気のみっ!! ちょ、えっと、なんだか大ピンチですっ!!


 トメさんから連絡があった後。サエすけに連絡を取ってみたら案の定カカすけが家に来たらしく、急いでわたしも駆けつけたのですが……よ、予想以上に事態は深刻みたいですっ!


「トメ兄に……どっか行けって言われたの……」


「そ、そうなんだー」


「どっかって、どこ? ドッカって国があるの? それともドッ科? ドッを研究する科? ドッて何? 言いにくい」


「か、カカすけ?」


「もしかしてドッ化? ドッに変化すればいいの? だからドッって言いにくいんだってば」


「カカちゃん、気をしっかりー!」


「あ、ドッ蚊? 最近蚊に刺されたんだよ……蚊に刺されたとカニに刺されたって似てるよね……カニ食べたいなぁ……ドッカニないかなぁ……」


 ダメだわ。何がどうダメなのかさっぱりわからないけど、とにかくダメだわ!


「えと、カカちゃん? トメお兄さんが何を言ったかわからないけど、きっと嘘だよ」


「あれ嘘じゃないもん。トメ兄本気だったもん」


「そんなわけないじゃないのっ! トメ兄さんってカカすけのこと大好きなのよっ!? なんか見てて通報したくなるくらいにっ!」


「大好きならあんなこと言わないもん」


「で、でもほらー、人間って魔が差したりするしー」


「まがさしって何。ものさしの親戚? 知らないよそんな人」


 あーもうほんとダメだわ。会話が通じないっ。


 サエすけの枕に顔を押し付けて黙り込むカカすけ。わたしはため息をつきながらサエすけに手招きをして、部屋から廊下へ出る。


「……どうすればいいのかしらね、あれ」


「うん……何言っても聞いてくれないんだよー。とりあえずうちに来たときは泣いてたんだけどね」


「え、あのカカすけがっ?」


 よほどショックだったのね……カカすけのそんなシーン、数えるほどしか見たことないし……いや、そもそも。トメさんと本気でケンカするところなんて初めて見たものね。


「私の胸でさんざん泣いたあと、今みたいに私の枕に顔を押し付けて……しばらくしたら立ち直ったかと思えばあんな感じー」


 あんな感じ……ね。


 部屋の中を見る。いまだにサエすけの枕に顔を押し付けているカカすけ。なんかやたらスーハースーハーしてるのは気のせいかしら。まさかあれで元気になるの?


「私たちの言葉が届かないとなるとー、トメお兄さんになんとかしてもらうしかないねー。元はといえば元凶だし」


「そういう言い方やめてよっ! きっとトメさんも何かあったのよ。じゃなきゃ、こんな……」


「……そうだよねー、ごめん。トメお兄さん、大人だもんね」


 そうよ、大人なのよあの人は。わたしはそこが好きなんだからっ!


 だから、なんとかしてよ、トメさん。今回はわたしたちじゃ、全然――


「あ、チャイム?」


「きっとトメさんよっ! サエすけ、カカすけを連れてくわよ」


「う、うんー」


 枕に張り付いているカカすけを無理やり引っぺがし、両脇を二人で抱えて連行するように玄関へと引きずっていく。


 その間、カカすけ無言。なんか怖い。


 そしてわたしもサエすけもなんとなく喋る気になれず、玄関までたどり着く、と。


「……え」


 返事が無いただのしかばねだったカカすけが、目を見開いた。


 わたしもぽかんと口を開けて驚いた。だって、そこにいたのは――


「あらあら、ずいぶんな顔ね。カカ君」


「おかあ、さん?」


 今、仕事でとてつもなく忙しいはずの、ユイナさんだった。


「なん、で……?」


 なんでこんなとこにいるのか、と聞きたいんだろう。そのカカすけの意図はしっかりと伝わって、


「なんでって、決まってるじゃないの。自分の子が泣いてるのを放っておけますか」


 当然のことのように、あっさりと。すごいことを、この人は言った。


「パパ君が文字通り飛んできてね、教えてくれたの。カカ君の一大事だってね。だから、ここまで抱っこして運んでもらっちゃった」


 抱っこして運んでって……県越えてないっ!? に、忍者ってすごいわ。


「あ、あのね、私、トメ兄と」


「うん、話は聞いたよ」


 ……あ。


 ふわりとカカすけを抱きしめるユイナさん。


「ね、カカ君。トメ君はなんて言ったのかな」


「私といると……疲れるって。だからどっかいけって」


「それ、本当だと思う?」


「思う。だってトメ兄、本気だった」


「カカ君が思うなら、きっとそうだね」


 びくり、とカカすけの肩が震える。ちょっと、そんな言い方――そう口を開こうとしたけど、ユイナさんの「でもね」という言葉で思い留まった。


「人ってね、いろんなことを想って生きてるの。あの人といると楽しい、でも疲れる。そう想うのは不思議じゃないんだよ」


「え……だって、意味、逆」


「うん、だから言ったでしょ。いろんなこと、って。例えばカカ君、走るの好き?」


「うん。速く走ると、風、気持ちいいし」


「じゃあさ、ずっとずーっと走ってたら?」


「……疲れる」


「嫌にならない?」


「……なると、思う」


「じゃあ、それで走るのを嫌いになる?」


「……ならない」


「でしょ? トメ君もおんなじなんだよ。いろんなことを想ってて、たまたま嫌な想いが表に出てきただけ。カカ君を嫌いにはなってないよ」


「……ほんとに?」


「うん。人ってね、感情の生き物だから。その人の99%が好きで1%が不満なだけだったとしても、その不満を言ってしまうことがあるの。その人がすごく好きなのに、そのときの勢いだけで『嫌い』を言っちゃうことがある。それがきっかけで疎遠になる人も多いわ」


「……そんな」


「人はどんな想いも持ってるの。でも大事なのは根っこの部分。お互いの根っこさえちゃんと好きなら大丈夫。だけどね、もしケンカをしたら、時間を置いてからちゃんと確認しないといけない。相手と自分の根っこの気持ちは変わっていないのか」


「……怖い」


「うん、怖いね。でもね、大切な人と勘違いしたまま仲直りできないほうが怖くないかな?」


 ユイナさんが振り向く。


「確認してみよう? そうすればいつの間にか仲直りできてるから」


 カカすけもそっちを見る。


「……トメ、兄」


「カカ、その……」


 ユイナさんが、そっとカカすけの背中を押す。


「……トメ兄は、私のこと、嫌い?」


「……そんなわけあるか、馬鹿」


 わたしは胸をなでおろす。


 どうやらこの兄妹喧嘩は無事に解決するようね。さすがはカカすけとトメさんのお母さんだわ……クセのある子供を持つと人格者になるのかしら。


「ううううううぅぅ」


「あー、僕が悪かったよ。鼻水拭け」


 ともかく。本気で慌ててる可愛いトメさんも見れたし、カカすけもトメさんに抱きついて泣いてるし。


「ごめんな、母さん。こんな子供みたいなことで呼び出して」


「なに言ってるのトメ君。君だってずーっと、私の子供なんだからね」


「……仰る通りで」


 これにて一件落着ね!




 あれ? 


 隣にいたはずのサエすけが、いつの間にかいない。どうしたんだろう。


 カカすけたちと別れたわたしはサエすけの部屋の前へと戻った。


 ノックしてみると、すぐに返事が。


「……カカちゃん、仲直りできたー?」


「ええ、ちゃんとね。なによ、見てなかったのっ!?」


「そっかー……」


「あ、わかった。自分がカカすけを立ち直らせてあげられなかったから、ガッカリしてるんでしょっ!」


「……ん、そんなとこー」


「さすがのわたしたちも大人には敵わないわねっ! さて、それじゃわたしは帰――」


 唐突に扉が開いた。


「サユカちゃん。もう遅いし、泊まっていけばー?」


「へっ? う、うん」


 それはいいんだけど、なぜだろう。


 サエすけが、なんだか――泣いていたように見えた。




 ……終わりではありません。


 続きます。

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