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カカの天下  作者: ルシカ
568/917

カカの天下568「あなたの声が聞きたくて」

 こんばんは、サエです。


 時刻は夜中、私は自室の布団で寝転がりながら電話を待っています。


「まだかなー」


 携帯片手に無意味にごろごろ。


「まだかなまだかなー」


 ごろんごろん。


「まだかなまだかなまだなかだまなかだまなかなー」


 そんな不思議な呪文が聞いたのか、ちょうどよく電話がかかってきましたー!


「もしもしー!」


『もしもしー!!』


「お母さーん!」


『サエー!』


「おかーさーん」


『サーエー』


「おっかさん!」


『サッエ!!』


「お、お、おかあさん!」


『サ、サ、サエサエ!!』


 何をしているのかって? 仲のいい親子の挨拶に決まってるじゃないですかー。


「電話、待ってたよー」


『ごめんね、もっと早くかけたかったんだけど、さっき追われててー』


「大丈夫?」


『うん、全然大丈夫よー。お母さんね、存在感の無さには自信があるから隠れるのうまいのよー』


 ホッと胸をなでおろす。詳しくは知らないけど、お母さんが私のお祖父ちゃんに抗議するために色々やっているらしいのは聞いていた。それが危険なことだとも……お母さんの声が聞きたかったのもあるけど、ずっと心配だったんだよねー。


『この前は……結局会えなくてごめんねー。せっかく約束したのに』


「んーん、いいよいいよー。だって私たちが一緒になるために必要なこと、なんだよねー?」


『そうなのー……でもね、その日に急いだおかげでね、無事にとある社長の不倫現場を撮影することができたんだよー! 不倫相手が世間にバラすとおもしろいことになりそうな人でね、すぐにマスコミに流すかどうしようか迷ってるんだけどー、会社を揺さぶるのに不倫だけじゃ弱いような気がするんだよねー』


「やっぱりそれをネタに社長さんを脅して、もっといろんな悪事を見つけたあとで全部流せばいいと思うよー」


『おおー! さっすが私の娘だねー!』


「あったりめーよー」


『こりゃもー私たちが揃ったら最強間違いなしだねー!』


「うんうんー」


 早く最強親子の名を知らしめたいとこだねー。


『お父さんは……あ、やっぱりいいや』


「いいのー?」


『うん、いい』


 お父さんの話も聞きたかったんだけどなー。


『最近はどうー? 何かあった?』


「えっと……あ、そうそうー。カカちゃんが少し元気ないの」


『珍しいねー』


「ってあれ、カカちゃんの話ってしたっけ」


『あ、えっと……実はご近所さんだったり』


「えー!?」


『実を言うとね! 私、サエの近くでずっとあなたを見守っていたのー!』


「ええー!? だって今まで一度も会ってないじゃん!」


『そりゃそうよー、今でこそ電話なんかしてるけど、本当は接点持ったらダメだったものー。バレたら終わりだったから……だから必死に隠れて見てたのよー? 存在感をゼロにして電柱になりすましたり街路樹に化けたりしてー』


「器用だねー」


『もちろん普通に影に隠れて追っかけたりもしたよー!』


「ストーカーだねー」


『サエくらい可愛いとストーカーくらい着いちゃうの!』


「わかるわかるー」


 このふざけたやりとりがたのしー!


『大丈夫、全員私が消し炭にしといたからー』


「ってホントにいたのー!?」


『うん、五人ほど』


 こ、こわぁ……お母さんありがとう!


『あ、ごめん。話を戻すね。カカちゃんの元気がないって?』


「うん、なんかトメお兄さんが忙しくて構ってくれないみたい」


『トメさんが? へー、お仕事忙しい……の、か、な?』


 あれ、どうしてどもったのかな。


『……ちょっと待ってねー』


 ぺら、ぺら、と紙をめくる音が聞こえる。


『あ、やっぱり。ごめん、それ私のせいだー』


「どういうことー?」


『私、いくつか会社を潰したんだけどー、その分の仕事がトメさんの会社にいってるみたいー』


 あれま。世間って狭いねー。


『あ、あら、うわ、この仕事量はエグい……ちょっとなんとかしてみるねー』


「できるのー?」


『適当な会社に仕事が流れるようにいじってみるー』


 やっぱり私のお母さんはすごい! 私も色々裏でできるように頑張らないとなー。


『んー、これを、こうすれば……たぶん一週間もすれば落ち着くようになると思うわ』


「よかったー」


 あと一週間……トメお兄さん、潰れなきゃいいけど。 


 その後も私はお母さんと他愛もないことを話した。学校のこと。友達のこと。お母さんの仕事のこと。いろんなことを話して――やがて、寝なければいけない時間になった。


「……えっと、そろそろ寝るね、お母さん」


「……うん」


「おやすみー」


『うん、おやすみー』


「うん、おやすみー」


『おやすみー』


「おやすみー」


 ……終わらない。


「えっと、おやすむね?」


『うん、おやすめー』


「うん、おやすむ……」


 休むよー? 休むからねー?


『…………』


「お母さんから切ってよ」


『サエから切ってよー』


 切れるわけない。


 だって本当は、私はずっとお母さんの声を聞いていたいんだから。


 お母さんがいなくなってから今までの分、ずっと聞いていたいのに――それを、どうして自分から切れるだろう。


『もー、仕方ないなー。ここは大人な私が切ってあげますか』


「うんうん、そうしてー」


『……やっぱ一緒に切ろ』


「むー、いくじなしー」


『育児はこれからするんだよー。私、うまいこといった?』


「はいはい、育児してもらうの待ってるからねー」


『おーよ! じゃ……せーの、で切るね』


「うん……」


『せーの!』


 私は、切れなかった。


 無機質な電子音だけが耳に残る。


 私はお母さんみたいに大人になれない。会いたい。寂しい。寂しくて……ベッドの上をごろごろごろ。


「はぁ……お母さん。会いたいな」


 思わず口に出しながら、


「会いたいなったら会いたいなー!!」


 どっすんどっすんベッドで跳ねてみた。


 何やってんだろ、私。


 でもまー、子供だからいっか。


 子供は寂しがりやなもんですよ、独りだとこんなこともしちゃうのですよ、どっすんどっすん。


 そういえばお母さんも寂しい寂しい言ってたけど……まさかこんなことはしてないよね? どっすんどっすん!


「お母さん、かむひあ!!」




 そのころのサカイさん。


「さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! かむひあ!!」


 どっすんどころかどっかんどっかん跳ねている、大人なはずのお母さんでしたとさ。




 ぴー、ぴー。

 路線変更警告発令。


 次回からしばらく……ジャンルが変わるやも?

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