カカの天下565「そそっかしい私」
こんにちは、インドことノゾミです。
えっと、夏休みが終わるまでにタケダ君にお礼を言う、って決めてたんですけど……もういつの間にか二学期、結局言えてません……悲しくて私はカレーばかり食べてしまいます。いつもですけど。
でもでも、このままじゃいけないと思っているんです!
こういうのは時間が経てば経つほど言いにくくなるもの! 一刻も早くタケダ君にこの想いを伝えなければ!
でもでも恥ずかしい……そんなわけで、メル友のメルちゃんに相談してみました。
『直接言うのが恥ずかしいなら、手紙でも書いて渡しちゃえば? メールでこんだけいっぱい喋れるなら書けるっしょ。あとは渡せばいいんだから』
『なるほど、ありがとうメルちゃん!!』
『どういたましてー』
そんなわけで、手紙を書くことになったのです。今、自分の部屋で一生懸命書いてます。
「えと……えと……まずは……」
頭から変な文にならないように気をつけて、タケダ様、と。
「つぎは……何か、普通の話題……」
夏は漫才など、いろんなことでお世話になりました、かな。
「つぎ……」
ところでちょっと今更になっちゃったんですが、お礼を申し上げます……かたいかな。
「つぎ……」
あのときは、ひどいことに……違うかな。メチャクチャに……うーん……あ、怖かったところを助けてもらってありがとうございました。うん、いい感じ。
「つ……ぎぃ……?」
あと、なんて書こう。
んーと、んーと。
好きです。
無理!!
「むー!!」
なんだか顔が熱くなって無意味にバシバシ机を叩く。
そんなわけないでしょ!
いやあるけど!
そんなの書けるわけないよぅ!
うー、うー、あ、でもやっぱりこれくらいでいいのかな。うん、このくらいにしとこう。言いたいことは直接言えばいいんだし。
よし、封筒に入れて、完成!
明日、学校でタケダ君を呼び出して……渡しちゃおう。
大丈夫。
渡すだけなら、できる!!
そして、翌日。
昼休みにタケダ君を屋上に連れてきました。
「どうしたノゾミ君。このようなところに呼び出されると、何やら期待してしまうぞ」
はっはっは、と冗談交じりに笑うタケダ君。
でもこっちは笑えない。わ、わわ、私にとってはまさにその“何やら”みたいなものなんだから! “何やら”がなんなのかは厳密にはわからないけど! 少なくともカレーの具になるようなものじゃない。
「こ、これ!」
余計な言葉は口にしない。緊張して言えないだけだけど、とにかく渡す。
「ふむ?」
受け取ったのを確認してすぐに後ろを向く。恥ずかしくてタケダ君の顔を見れない。
「もしやラブレターとか? まさかなぁ」
違います、けど、それと同じくらいに気持ちを込めた手紙です。
私は口ベタだけど、ちゃんと書いたつもり。何度も何度も見直したもの。ほら、ちゃんと書いてある。タケダ様へ。夏は漫才などいろんなことにお世話になりました――ほら、今読み返してもおかしなとこなんて一つもない!
おかしなとこなんて……
おかしな、とこ。
なんで私が、タケダ君に渡したはずの手紙持ってるの?
おかしくない?
おそるおそる、タケダ君の方へ振り向く。
タケダ君は封筒を開けていた。
そして、中身を読んでいた。
「なになに、『タケダ 頭 変』……だ、と?」
下書き用のメモを間違えて入れちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
なんで私っていっつも何かミスするのー!? はぅぅ、内容とか気をつけることとか思いついたことを断片的に書いたはずだけど、あ、あとなんて書いたっけ。
「『漫才 今更だけど ひどい メチャクチャ』とは……や、やはり漫才のときのことは許してくれていなかったのだな……」
あぁーうぅー! 前の打ち上げのときのこと、まだ引きずってる!
「『怖かった』とは……そうか、それほど会場に立つのが怖かったんだな。そしてそこから逃げ出した俺が憎いと」
なんでそんなストーリーが組みあがるのー? って私が漫才のときに「タケダ君が憎い」って言っちゃったから? なんでそんなこと言ったの私ぃ!
「む? 『好きです』だと!?」
それも書いちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「……『そんなわけないでしょ』とな!?」
それまで書いちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「くっ、俺が少しでも『ラブレターか?』などという妄想を抱くことを予想していたのかっ。な、なんたるダメージだ……!」
そうじゃないのにぃ。
でも完璧に勘違いされてるしぃ。
誤魔化しようがないしぃ。
でも、でも何か言わないと!
「あ、あ……あの! ち、違うんです」
「いや、慰めはいい。内気なノゾミ君のことだ、言えない本当の気持ちを手紙にしようとしたのだろう?」
そうなんだけどそうじゃなくて!
「そ、その、それ、実は嘘なんです!」
「慰めはいい」
「い、いいえ。本当です! 嘘です!」
「どっちだ」
「本当に嘘なんです。えっと……ちゃんと手紙にも書いてあります」
「む? どこだ」
「えっと、えっと、白いところに白い字で!」
「詐欺の誓約書みたいだな」
「ちゃ、ちゃんと書いたんです!」
「この便箋ピンクだが」
「ままま間違えました! ピンクなとこでピンクな字でピンクなことを」
「どんなことだ!?」
「ちち、違うの、だからそんなに興味津々にしないで」
「いやいやいや別に興味あるわけではないが!」
いつの間にやら私もタケダ君も困惑して意味不明なことを喋っていたのだけど……やがてタケダ君が深々と頭を下げてきました。
「何はともあれ、悪かった。男タケダ、不快な気持ちにさせた責任は取ろう。なんでも言ってくれ」
え……? ど、どうしようどうしよう。何を言えばいいんだろう。
付き合ってください? だからそんなこと言えるなら苦労しないってば!
「そ、その……」
「うむ、なんだ!」
だ、だめ。思いつかない。
「か、必ず出しますから、もうちょっと待ってください」
「夏休みの宿題でもあるまいに……いや、わかった。いくらでも待とう!」
その後、私は逃げるようにタケダ君と別れました。
はぁ……なんで私ってこう鈍くさいんだろう。
カレー食べて元気だそう……
はぁ……
なんで入れ間違えるかな、この手紙……
この、手紙?
「これ……そのまま渡せば済んだ話じゃ?」
私のばかぁぁぁぁぁぁぁ!!
二学期入ったし、一回書いておかないとと思っていたインドちゃん話です。
で、書いてみたら……なんとも言い難い話になりました笑 なんか間抜けな雰囲気というか……ポケポケしたBGMが似合いそうというか……ま、いっか。
それはそうと昨日の話ですが、一つ謝罪する点が。 読者様にご指摘いただいたのですが、「いばらぎ」じゃなくて「いばらき」だそうです。普通に勘違いしていました……お恥ずかしい。
でもすいません。
「いばらぎ」のほうが痛そうなので、このままでもいいですかね笑 なんか作者の勝手なイメージなんですが。
んー、でも間違った言葉をそのままにしておくのも……何か考えて編集とかしてみますかね。




