カカの天下563「市民なプールで泳ぎましょ」
こんにちは、カカです。
今日は学校が終わった後で市民プールに来ています。このごろ残暑はあまりないのに今日は珍しく暑かったのが理由の一つと、それからクララちゃんに泳ぎを教えるのが目的です。
「あっぷ、あっぷ!!」
「はぁ、はぁ……か、カカすけ」
なぜかサユカンが「今回はわたしも付き合うからね、絶対っ!」と妙に意気込んできたので連れてきたのですが、本来の指南役であるサエちゃんは用事があるとのことで欠席です。なので私がサエちゃんの代わりです。
「つい、た!」
「ご苦労様ー」
かなりの長い時間をかけてプールの端から端まで往復して帰ってきたサユカン。
ちなみに私はプールの端に腰掛けている。つまりサユカンは私の足元にいるわけで。
「とう」
「あうっ」
ようやく水の底へ足を下ろせると油断したサユカンの頭に足をのせる。
「サエちゃん式水泳指南法、たぁ」
「うぁんっ」
もっかい泳げという気持ちを込めてサユカンの頭を足で押す。疲れ果てているサユカンは成す術もなくプールへと押し返された。
「ちょ、カカすけ、もう無理よっ、限界よぅっ」
このプールは中心に向かってどんどん深くなっていくタイプで、私たち小学生だと端以外は足がつかない。なので押し返されたサユカンは必然的に泳がないといけないのだ。
「本当に限界な人はね、声なんか出せないんだよ。無理とか限界とか文句を言う力があるってことは、まだ手を抜いてるってことなんだよ。だからもっかい」
「この鬼っ! 悪魔っ!」
「これお姉の受け売りだから、鬼も悪魔もお姉だね」
「そんなことはこの街の人全員が知ってるわよっ」
うちのお姉もメジャーになったもんだ。あ、一応説明しとくとお姉の受け売りはこの根性論だけで、ひたすら水の中でもがき続けろっていうやり方はサエちゃん式だからね。
「ぶくぶくぶく……」
「ほら、限界を迎えたらクララちゃんみたいになるんだよ。声も出てないでしょ?」
「それどころか沈んでるわよっ! あぁもう!」
急いで助けにいくサユカン。随分うまく泳げるようになったもんだ、やっぱ何であれ死ぬ気になるのが上達の秘訣だよね。それにしてもこないだ海に行ったときに見せたクロールには劣るなぁ。やっぱトメ兄ドーピングか、あれは。
「ん? もう助けたのかな」
再び足元に現れる人影。水面から飛び出した頭に再びぺち、と足を乗せる。
「あ、知らない人だった」
まぁいいや。
「てい」
「うわぁぁ!?」
いやぁ、人に教えるのも楽しいもんだねぇ。
でもそろそろ泳ごうかなぁ……お?
「カカすけ! さすがにもう上がるわよっ!」
「うぅ……水分の吸収しすぎは木によくないのです……地下水作るです……」
あれま、クララちゃんがヤバそうだ。そういうことなら仕方ないね。
私も手を貸してサユカンと一緒にクララちゃんを引き上げる。幸い疲れただけのようなので、五分もベンチで横になると……すぐに元気になったみたいだ。
「よし、もっかい行くか」
「ちょっと休ませてよっ!」
「ばっちこいです!」
「なんでクララちゃんそんな元気なのっ!?」
こんな風にギャーギャー騒いでいると……
「あら、奇遇ですね皆さん」
聞き覚えのある声がして、振り返ってみるとそこには水着姿のサラさ――えぇ!?
「おっぱい星人の再来です!!」
「し、失礼な!」
「無理もないわよ、なんですかそのスイカッ! 脱いだらすごいというか……脱いだらずるいって感じだわっ」
こないだうちに来たときに着てた服を思い出す。そういえば着やせするタイプだったんだよね、サラさん。や、違うか。
「パイパイさんも泳ぎにきたの?」
「やめてくださいよ! その中国あたりにいそうな名前!」
「じゃあパイさん」
「それ数学の記号です! 私はサラです!」
「や、皿というよりひっくり返したお碗だよ。ねぇワンさん」
「だから私は日本人ですってば。あと胸に向かって喋らないでください!」
だって身近に全くいないほど立派だし。お母さんもそこそこあるけど、こっちのほうがでっかい……
「ねぇクララちゃん。わたしもあんなスタイルよくなれるかしら。そうすればトメさんもっ」
「無理です」
「なんで断言するのっ!?」
「サユカは養分が足りません。お尻の実りは見事ですが、胸を実らすための養分は不足してます。このままでは無理です。クララ見ればわかります。木ですから」
「うぅ……今後の努力次第ってことねっ」
「はい。お尻の実りから見るに、うまくやれば胸の果実も実ると思いますよ」
「食べ物とか気をつけてみるわねっ」
そしてその果実を食べるのはトメ兄……ってなんか私、オヤジくさい?
「えっと、何を話してるのかな? サユカちゃん」
「え、いいえ別にっ! それよりサラさんは泳ぎうまいんですか!?」
慌てて誤魔化すサユカン。クララちゃんの秘密は大人には内緒だからね。
「泳ぎは結構すごいですよ、私! よかったらサユカちゃん、手取り足取り教え――」
「ほほう、じゃあ勝負しよっか」
「む、まぁそれでもいいですよ」
ちょうど泳ごうと思ってたからちょうどいい。
「ほら、クララちゃんもサユカンも一緒に競走しよ」
「え、でもわたしたち、競走できるほどは……」
「いいからいいから。練習がてら」
「クララやります! さっきコツがつかめたところです。きっと泳げます!」
そんなわけで。
適当な準備運動の後、横一列でスタンバイする私たち。
「クララちゃん、合図して」
「クララ合図です! よーい、おっぱい!!」
「なんですかその合図!?」
そんなツッコミを聞きつつ一斉スタート。泳いで泳いで泳いで!
うおおおおおおー!
よし、着いた!
そして――
「負けたー!」
「ふふ、大人の水泳力をなめちゃいけませんよ」
くそー。サラさん速い。
「私、すごいでしょ!」
「うん、泳いでるときの胸がすごかった」
「どこ見てるの!? って、あれ。サユカちゃんたちは」
振り返ってみると、二人は遥か後方にいた。
しかも……まっすぐ泳げていない。サユカンは右に、クララちゃんは左に少しずつズレてって……ゴン。頭をぶつけて跳ね返り、元のコースに戻るもののやっぱりやがて曲がっていって……またゴン。この繰り返し。
「痛そう……でも可愛い……」
なぜかうっとりするサラさん。
「たしかに見てておもしろいけど……それよりももっかい勝負しよ、サラさん」
「いいですよ。ふふ、思いっきり泳ぐのは気持ちいいですね!」
夏休みが終わっても、私たちの夏はもうちょっとだけ続いたのだった。
そして家に帰ってきて。
「トメ兄、仕事お疲れー」
「おう……プール行ったんだよな? どうだった」
要約すると。
「おっぱいがスゴくて痛いけど気持ちよかった」
「……何してきたんだ?」
てへ。
最近目立たないサラさんをちょっと目立たせてあげたいなーと思って書きました。目立ったのはおっぱいだけでしたが。
んー、しかし。クララちゃんも海に参加させたかったけど……まぁ時期の都合で来年ですかね。
しかし残暑、たまにしかないですよねぇ。過ごしやすいといえばそうなんですが、夏のように薄着で寝ると夜寒いですよねー。
風邪に気をつけまっしょい。




