カカの天下56「続々、がんばれタケダ」
「くくく……今日こそは彼女を振り向かせてみせる。今日は何の日だ? 2月24日。そう、頭文字であいうえお作文などしてみれば2(福)2(福)4(しろ)という、『福がいっぱいだから行動しろ』という日になるわけだ!」
そう一人で息巻いている俺の名はタケダ。そう、見た目は子供、頭脳は大人(になりたいと思っている)な小学三年生だ!
「相変わらずわけわかんないこと言ってるねー、タケダ君」
のほほーんとそう言ってきたのはクラスメイトのサエ君だ。俺の意中の人であるカカ君ともっとも仲がいい女子である。先日も相談に乗ってくれたりと、とても俺によくしてくれる……はっ!?
「なんだかんだで俺にいつも付き合ってくれているのは……まさかサエ君、俺のことを!?」
「うん、すんごく変でへんでヘンだと思ってるー」
「かみ合ってない上に三回もショック! もしかしたら俺のことを好きだったりなんかしちゃったりなんかするかと思ったり思わなかったりしたりしなかったり!!」
「そんな人いるわけないと思う」
「のほほんとキッツ!!!」
身をのけぞらせている俺をおもしろそうに見てくるサエ君は、この間までいじめられていたなんて想像できないくらいに逞しくなった。多分カカ君の影響だ。
「でも暇だし、話には付き合ったげるよー」
「ならば例によって相談なんだが……カカ君に振り向いてもらうためにはどうすればいいと思う?」
「女の子にはー、やっぱりプレゼントだよー」
ここにトメさんがいたとしたら「この年で貢がせるようなその意見……女ってこえぇ」と言うところだろうが、幸いにも彼はいない。
「なにか彼女の好きそうなものを送ればいいのだねっ」
「そーそー」
「カカ君はなにが好きなんだろう?」
「カカちゃんね、こないだ野良犬がおいしかったーって言ってたよー」
……え、えーっと。
「な、なかなかワイルドなところもあるのだねカカ君。き、気にいったぞ。でもそれはちょっと……」
「あとねー、カカちゃんちには微妙な高級品がいっぱいあるみたいー」
「ふむ……」
「カカ君!」
「……? 気のせいか」
「おもっきし僕の顔をチラ見しといてそんなつれないことを言わないでほしい!」
「……なに。うざい」
ぐぐぐ、さすが百発百中の痛恨の一撃が大得意なカカ君……抉るように泣けるようにきつい。しかし今日こそやると決めたのだ!
「カカ君、これは俺の親愛の情を示すプレゼントだ! 高級――」
「間に合ってます」
「高級なんとかはうちにいっぱいあるから、と言って見てもくれなかったぞ!」
「そういえば昨日、お姉さんが包丁を振り回したときにバッグに穴が空いたって言ってた」
「……すごい、家庭なのだな……まぁいい。とにかく、バッグだな!?」
「あ、私選んであげるよー」
「カカ君! 聞くところによるとバッグを失くしたようだね!」
「その話を思い出させるな!」
「ぐはぁ!」
「さ、サエ君……」
「女の子にはやっぱ花でしょ」
「カカ君! この花を君に」
「キモイ」
燃えた……燃え尽きた……
「今日こそは……やれると思ったのに」
「あいうえお作文で2(不幸)2(不幸)4(死んだ)って感じだねー」
「うううう……ほんと、逞しくなったなぁ、サエ君……もういいよ、今日は帰るよ……」
「そのプレゼント、どうするの?」
「……そうだな。では、今日一日付き合ってくれた君へ、感謝をこめて贈ろう!」
「わ、ほんと? ありがとー!」
その後。
「ねえねえ、カカちゃん」
「何? サエちゃん」
「はい、これ」
「おお、高級わさびセット? この高級シリーズは初めてだなー」
「あとね、バッグがダメになったって言ってたから、はい。私が選んだの」
間違ってはいない。
「わ、可愛い!」
「あとこれ、私の友情の証」
「綺麗な花……! こ、こんなにもらっていいのかな? なんかどっかで見たような気がするものばっかだけど」
「気のせいだよー」
どうせタケダのプレゼントなんか記憶の片隅にも残っていないでしょーという予想が当たり、サエは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう……ほんと、ありがとう!!」
「ううん、いつもお世話になってるお礼だよー」
「ありがとう……サエちゃん、大好き!」
ここにトメがいたとしたら「サエちゃん……恐ろしい子……!」と劇画風に恐れおののくところだろうけど、幸いにも彼はその場にはいなかった。