カカの天下559「夏を彩る闇夜の花」
とある最後の夏休みの風景。
カカです。
八月三十一日。正真正銘、夏休みも終わりです。そんな最後の夜に――私たちは花火をしようと集まりました。
集まったメンバーは私、トメ兄、サエちゃん、サユカン、クララちゃん。そして……
「あはははははははは!」
スパパパパパパパパーンとロケット花火をシューに向かって投げつけてる、お姉。
「…………!」
シューは涙目で逃げ回りつつも少し笑ってる。楽しいのか嬉しいのかわかんないけど……もしかしたら恐怖で頭がおかしくなっているのかもしれない。
「あ、危ないわよね……あれ」
見てるだけで痛そう、と顔を歪めるサユカンが持ってるのは普通の花火、あっちのシューは汚いけどこっちでシューシューいってる花火は綺麗だなぁ。
「んー……」
「あ、またクララの負けです!」
「ふふー、私こういうの得意なんだよねー」
バケツの上で線香花火対決してるサエちゃんとクララちゃん。対決というのはもちろんお姉たちのような激しい戦争ではなく、線香花火の火をどれだけ持たせられるか勝負だ。サエちゃんが誰よりも強い。
「ったく……あれはちょっと迷惑だな」
「お、トメ兄も戦争に参加?」
「カカもやるか。その二刀流で」
私の両手に光る炎の刃――そう格好つけたところで二つともただの花火なんだよね。
「やめとく、トメ兄がんばって」
「よしきた」
トメ兄が手に持ったのは……なんと十六連射ロケット花火! 誰だそんなもん買ったのは。そんな疑問は差し置いて、微塵のためらいもなくそれをお姉に放つトメ兄。
「いいかげんにしろー!!」
トメ兄、あんたもね。一番うるさいよ。実は興奮してる?
連続する破裂音、お姉に迫る十六の脅威。
「波っ!!」
それらを全て神速の手刀をもって叩き落とす。彼女の瞳がギラリとそちらを向いた。
「あたしにケンカ売る気? トメ」
「いい加減にしないと警察くるからな」
「はん、警察ならそこでのびてるじゃないのさ。恐るるに足らん」
「どこの魔王だあんたは」
「くくく、魔王も結構! 闇夜に咲き誇る花々に誘われ、我はここに舞い降りた! さぁ勇者たちよ、倒せるものなら倒してみ――」
「てい」
問答無用でロケット花火を投げつけるトメ兄。鬼だ。
「む、なによぅ。人が気持ちよく語ってるのに」
それをパシッとあっさり掴み取るお姉。こっちのほうが鬼だ。
「反撃!」
気を悪くしたお姉がロケット花火をトメ兄へ!?
「忘れたか? 僕、こういうのは得意なんだ」
と、トメ兄が!! お姉ほどあっさりではないにしろ、目にも留まらぬ速さで飛ぶロケット花火をパシンと受け止めた!? どっちも鬼か!!
「よろしい、ならば戦争だ」
「静かにやれよ」
そんなやり取りを呆気に取られながら見つめる私達一般人……
「ねぇ、カカすけ。あんたらの兄姉ってどうなってるのよっ!?」
「か、カツコだけじゃなくて、トメも実は人間じゃないのですか!? クララしょっくです!」
「クララちゃん、お姉さんも一応人間だからー」
「トメ兄は反射神経が異様にいいだけだよ。まぁあのお姉にずっと付き合ってればね」
そういうところだけでも鍛えないとやってられなかったんだろうなぁ……
「じゃカカすけもできるの? ロケット花火掴み」
「できるわけないでしょ、あんなの」
そりゃ少しは鍛えてるけど、あんな見えないもんどうやって掴めと。
「うう、あれも花火……花なのですよね。だとすればクララもいずれ、あのようにピューッと飛んでいかなければならないのでしょうか」
「あはは、お姉さんに言ってみようか? きっと飛ばしてくれるよー」
「サエすけ、それ“投げ飛ばす”って言うのよ」
――ん!?
「あ、馬鹿姉!」
「やべ、ミスった!!」
ロケット花火の流れ弾が、こっちに!?
「サエす――」
「サエおね――」
「え――」
それは流星のような速さでサエちゃんの顔面に迫り――
「っだぁ!!」
その弾丸を間一髪で私が掴み取った!
花火の勢いと身体に無理をさせた反動で転びそうになる、っと、っと! でもなんとか持ちこたえた。
「ふぃー……」
「なによ……できるじゃない、カカすけ」
「サエちゃんは私が守る!!」
その想いのおかげで限界を超えたのだ! そうとしか思えない……あー怖かった。
「……カカちゃん、ありがとー!!」
そしてそんな私にご褒美が! ひしっと抱きつかれ嬉し恥ずかしでっす。あらあら震えちゃって……そうだよね、サエちゃんのほうが怖かったよね。
私のサエちゃんをここまで怖がらせたお姉……
許すまじ。
許すマジ。マジで。
「お姉、こい」
「はい」
自分の罪がわかっているのか、おとなしく謝りにくるお姉。
そして――
「あ、あのう、カカちゃん? これはいくらなんでも」
「罰だよ」
「ね、許して?」
「×だよ」
お姉の体中につけた、ロケット花火とかいろいろ連射花火とか普通のとか……そしてくくりつけられた一つのロウソク。
「そのロウソクの火が一番下までいったとき、世にも美しい花が咲くんだよ」
「あ、あのぉ? あたし、別に花咲おねーさんになった覚えはないんだけど? 花咲じーさんの弟子になった覚えもないし」
「大丈夫だよ、お姉。花は勝手に咲くから」
「むしろ姉自体が花だしな」
「怖い……笠原家って怖いわっ! トメさんステキだけど」
「うーん、火気厳禁な家族だねー」
「でっかい花火ですか! 楽しみです! カツコ、早く散るです!」
そんなクララちゃんの言葉に反応したわけじゃないだろうけど、ロウソクが唐突にぽっきり折れた。
「はぁ……あたしって、毎年こんなことしなきゃなんないのかな」
お姉の諦めきった言葉と共に、その火がちょうどいい場所に落ちて点火する。
なんか断末魔の叫びと共に咲く、一輪の巨大な花。
その眩しいまでの輝き、美しさ――そして散り様を見ながら、私たちはそれぞれに夏の終わりをかみ締めるのだった。
そんな、夏休みの最後。
お姉の最期、ではない。残念ながら。
しぶとい。
最後は花火! と漠然と決めていましたが……まさかこんな話になるとは笑
綺麗にまとめようとか思ってたんですが……ま、去年と同じく姉が咲いたってことでいっかーって感じです笑
明日っから九月ですねぇ。大勢の学生さんたちは色々始まる日です。んと……頑張ってください(としか言えない^^;




