カカの天下556「うえ」
やぁ諸君、元気かね?
今日はちょっとした実験に付き合っていただこうかと思うのだが、よろしいか? よろしいな。
それでは説明に入ろう。君達もよく知るあの子たちの前に『上』とだけ書かれた紙を置く。以上!!
なぜそんなことをするのか? 知りたければ最後まで付き合うがいい。さぁいくぞ!
サユカの場合。
自分の部屋からトイレへ移動するとき、ふと視界の片隅に映った紙。
『上』
とりあえず上を見た。
何もなくて首を傾げる。
普通だ。以上!
ニシカワの場合。
いつの間にか自分の部屋に現れたその紙。
『上』
「……む」
その紙の左側に『西』と書く彼。『北』と『上』は違うのだが、どうでもいいらしい。
よくわからん。以上!
アヤの場合。
夕食中にいつの間にかおかずと一緒に並んでいた紙。
『上』
それを見た彼女は、
「うえ!!」
とても綺麗な発音で読み上げた。
ご飯と一緒に食べるなよ? 以上!
キリヤの場合。
バイト先の控え室の掲示板に貼ってあったその紙。
『上』
キリヤはそれを剥がしてちょちょいと書きくわえ、料理長の背後にこっそり近づき、そのコック帽の後ろにそっと貼り付けた。
書いてある文字は『上へまいります』
それを読んだ誰もが天高く突き上げるコック帽を見上げたのは言うまでもない。
小学生みたいなことをするやつだ。以上!
カカの場合。
彼女が嫌々ながらも宿題を進めていると、ひらりと舞い落ちた紙。
『上』
と、読む間もなく払いのけて、床に落ちる紙。そのままスルー。
なんか悲しいので今度はわかりやすく、そっと机の横に置いてみる。
今度こそ『上』が目に入る。
カカはそれにちょちょいと書き加える。
『上様』
とても満足げに頷き、宿題に戻る。
この子もさっぱりわからん。続く。
カツコの場合。
『上』
紙を上に放り投げる。
それだけ。
何を思ってそうしたのか気になるが所詮はバケモノ、俺たちに理解はできんだろう。以上!
トメの場合。
『上』
「上ってなにが」
とりあえずツッコんだ。
そして上を見る。
「上ってなにが!?」
もう一回ツッコんだ。
意外とつまらん。以上!
テンカの場合。
紙を無視。
ことごとく無視。
寂しくて泣けてきた。以上!
サエの場合。
『上』
テーブルの上に置かれていたその紙。
彼女はそれを丁寧に折りたたむ。
そして封筒に入れる。
住所を書く。
ポストに入れた。続く。
インドこと、ノゾミの場合。
『上』
「…………!」
なんとなく上に怯える。
目を瞑ってびくびくしたポーズで上に構える。
可愛い。以上!
デストロイヤー教頭の場合。
『上』
「ふむ、70点!!」
字を採点する。
「我々が求めているのは85点以上の文字だ!!」
そして破り捨てた。壊したとも言う。
しかし壊れているのは破った理由ではなかろうか。なんか疲れてるのかもしれない。頑張れ教頭。以上!
タケダの場合。
書くまでもない反応だったので省略。
シューの場合。
誰だっけ。
カカとサエの場合。
ポストを覗くと自分宛ての手紙を見つけ、差出人がサエとわかるとカカはうきうきしながら部屋に戻り、その封を開けた。
すると内容は、『上』の一文字だけ。
「……また?」
とりあえず再び『上様』と書きながら、サエに電話した。
「あ、もしもしサエちゃん? なんか手紙きたけど、上ってどういう意味?」
『あ、それねー。それが届いたときに上を見ると、幽霊が――』
プツン、と切れる電話。
さぁ、と青ざめるカカ。
上を見るな上を見るな上を見るな上を見るな――そう言い聞かせても恐怖は収まらず、ついに!!
「上様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
誰とも知らない将軍に助けを求めながら疾走するカカ。
「曲者じゃー!!」
「……おまえがな」
トメの部屋に侵入して騒ぎ立てるカカは、間もなく届いたサエちゃんの『なーんちゃって』というメールにてようやく静かになるのだった。
そして、サエの所へ様子を見に行ってみると。
「きっと面白かっただろうなー。あとでトメお兄さんに詳しく様子を聞こーっと」
わざと良いタイミングで電話を切ったりした小悪魔サエに、一瞬だけ可愛らしい角と尻尾が見えた気がする。
そういえば先日、サエはカカに対して『お化け関係ではあまりからかわないようにしよう』などと思っていたらしいが――どうやら『私がその弱点を直してあげよー、ついでに遊ぼ』と意向を変えたらしい。
心温まる友情だ。羨ましい。以上!
「……それで、なんでこんなレポートを書いたのかなパパ君は」
「いや、最近寂しくてな。仕事も暇になったし、童心に帰って夏休みの宿題っぽいものでもやってみようかと」
「自由研究だね。でも、なんで『上』なの?」
「なんとなくだ」
「やっぱりパパ君もカカ君たちと血が繋がってるんだね。変だよ♪」
「そんなに褒めるなよ」
そんな忍者のお茶目でしたとさ。付き合ってくれて感謝だ、皆の集!!
このレポートの目的。
それは読者に「なんだこれ」と苦笑してもらうことである。以上!!




