カカの天下552「言葉の使い方には気をつけろ」
サユカです。
今日はお母さんに買い物を頼まれて、商店街へと歩いていたのですが……その道中で公園を横断したとき、変な光景を見つけてしまいました。
「ふむふむ、ラスカルさんは犬かきが得意なんですねー」
クララちゃんと、犬。
「総理大臣さんは猫かきですかー」
さらに猫、そして、豚!? なんか、その、公園の隅っこでクララちゃんを中心にミニ動物ランドが広がってる……
「ブートンさんは?」
ブートン……ブー豚? この上なく豚だわ。
「やっぱり豚かきですかー」
なんか豚肉専用の調理用具っぽいわね。
「クララも早く桜かきを覚えたいです!」
雪かきの親戚かしら? 溢れる桜の花びらを掃除するのかな。それはそれで不思議な世界観でいいかも……
「サユカですか?」
「おっとっ!? あ、うん。こんにちはクララちゃんっ!」
なにげに二人だけで絡んだことってほとんど無いのよね、ちょっと緊張。
「あの……クララちゃん、もしかして動物と喋れるの!?」
「はい」
すごいっ! さすがは桜の妖精さんねっ。メルヘン……
「じゃあじゃあっ、この猫はなんて言ってるの?」
「お尻がかゆいそうです」
「わたしのメルヘンを返せっ!!」
「尻かき……これも泳ぎの一種ですか!?」
そんな泳ぎは見たくない。
「そういえばクララちゃん泳げないんだったわねっ」
「はい、それで皆さんに泳ぎについて教えてもらっていたのですが」
「へー、例えばなんて言ってるの?」
「ここにいるラスカルさんが言うには、散歩中に飼い主の足が滑って蹴っ飛ばされて川に落とされてから泳げるようになったそうです」
か、可哀想……アニメのラスカルと違って飼い主に恵まれなかったのね。
「クララも落とされれば覚えますか?」
「うーん、覚えなきゃ死ぬ、となったら意地でも覚えそうだけど危険ね。やっぱり地道に習っていくしかないんじゃないかしら。サエすけに習ってるんでしょ」
「はい、おねーちゃん教えてくれます」
「どんな風に教えてくれるの?」
「足のつかないプールに放り込まれて、『限界になったら助けてあげるから頑張ってー』って」
「それさっきのラスカルと変わらないじゃないっ!!」
このまま任せておけないわ。今度はわたしも一緒にいこう。いや、わたしもほとんど泳げないんだけどね? なんかわたしまで一緒にそのプールに放り込まれそうな気がしないでもないけどね?
「お、クララちゃん」
「あ、無敵おねーさん」
無敵? 振り返ってみるとそこにはカカすけのお姉さんが。ああ、無敵……ね。
「こんなとこで何してんの二人とも」
「動物さんたちと喋ってました」
「お、そりゃすごい」
「無敵おねーさんは喋れないんですか?」
「や、大抵の動物は呼べば来るし、従ってくれるし、意思疎通はなんとなくできるけど……さすがに会話はできないね」
なんだこの人ら。
「そいじゃあたしは仕事あるからこれで」
「さよならです、無敵おねーさん」
「あ、さよならっ!」
慌てて言うと、お姉さんはニカッと笑ってわたしにも手を振ってくれた。相変わらず人好きする笑い方する人だわ。
「ねぇ、クララちゃん。人って動物と話せるのものなの?」
「根性あればいけるのではないでしょうか」
そ、そうなのか……よーしっ!
「にゃー♪」
試しに猫の総理大臣さんに話しかけてみた。
「キシャー!!」
「きゃぁぁっ!?」
な、なんか怒られちゃったわっ。
「ダメですよ、そんなことを言っては」
「な、なに? わたしなんて言ったの? なるべく優しく語りかけたつもりなんだけど」
「今のは猫語で『このメスブタめ』です」
猫語って難しいっ!!
「そんな言葉を優しく言ってどうするのですか。ブートンは雄ですし、メスブタなどここに一匹もいないのですよ。意味がわかりません。しっかりしてください」
「は、はい……ごめんなさい」
怒られてる……わたしが悪いのかはものすんごく疑問だけど怒られてる……
「じゃ、その……にゃーにゃにゃんにゃん、にゃー♪」
ちょっと長くしてみた。
「キシャー!!」
「きゃぁっ!? こ、今度は何!?」
「今のは猫語で『日本経済など知ったことか』です。総理大臣に向かってなんてこと言うのですかっ!?」
「それこそ知ったことかって感じだわっ!!」
「ああ!?」
「今度はなによっ」
「今の最後の『わっ』って言葉、犬語で『おまえを殺す』です!」
「嘘っ!? そんなのあるわけないわっ!」
「あああ!?」
「次は何!?」
「今の『わっ』って言葉を犬語にしてさっきのと繋げると、『おまえを殺す、五回』です! 大奮発です! 怖いです!」
「わたしは自分の口癖が怖くなったわっ」
「今の『わっ』は犬語で『そして私も殺される、八回』です!」
「一体全体、何の詩よっ!?」
はぁ……はぁ……わたしの日常会話って、犬にとってはずいぶんと危険だったのね。
「サユカ、動物語を習ってみますか?」
「なんか知らないほうが平和そうだからやめておくわ……気にはなるけど」
「日本語に混ざった動物語って多いですからね。例えば般若」
はんにゃ……?
「般若の『にゃ』は猫語で『さみしいから一人にしないで』です」
「可愛いわね般若っ!!」
そんな般若なら、一緒にいても……
いや、やっぱダメね。あの顔で『さみしいから一人にしないで』って言われてもホラーにしか思えないわ。やっぱり危険ね動物語。
この言語はフィクションです。
勘違いして猫語を喋るような愉快な人が現れても本作者は一切の責任を負いません。
でも猫に『にゃー』とかいいながら話しかける人種の方は、普段どんなことを話しかけているのかぜひ教えてください。
ご心配なく、作品に使ったりはいたしません。
私が笑うだけです。




